第6話「勇者と呼ばれる猫」

エリオットと少女は降りてきた猫耳の女性を見ていた。技を放った時の神々しさ。

まさしくその女性は勇者そのものだった。

街の人もその猫耳の女性に歓喜の声を挙げていた。


「勇者様だ。勇者様がこの街にきてくださったぞー!!」


「勇者様ー!!」


人間だろうが亜人だろうが関係ない。

勇者はこの世界における希望そのもの、その立ち振る舞いは人々に希望を見せ、その技は数多の敵に絶望を与える存在。



「2人とも、大丈夫だった?」


猫耳の勇者はエリオットたちに笑いながら声をかけてきた。


「はい、ありがとうございます勇者様。」


「やっぱりお母さんが言ってた通り、勇者様は存在したんだ...

勇者様は運命の女神様に導かれてここへ?」


「運命の女神?よくわからないけど近くを通ったらデッカいネズミが街を襲っていたから倒しにきたって感じだよー」


運命の女神はあまり信仰されていないようだ。ただ人のために動いているのは事実だ。人のために動ける勇気を持つ者。人はそれを勇者と呼ぶ。



「勇者様、お願いします。どうか私の母を助けてください。」


「お母さん?どしたの?」


少女は勇者に事情を話した。

洞窟にいる虚構種について、それを討伐するためにエリオットたちが同行してくれるが人手が足りないことを。


「わかったーいいよー。」


それを聞いて勇者は二言返事で答えた。

2人は大いに喜んだ。なんて言っても勇者が同行してくれるのだから。


2人はさっそく宿屋に案内していった。リリアナやマイクにもこのことを伝えようと思ったからだ。その道中でも街の人は勇者を歓迎しておもてなしの品を渡したりしていた。


「勇者様!この上薬草を持っていってください!」


「勇者様!ぜひうちの店に顔を出してください!」


「わぁー勇者様だー!握手してー!」


宿屋に向かうまで街の人で道がごった返していた。それをなんとか上手く回避していきながら宿屋の前までたどり着いた。



「エリオットたち大丈夫だった!?

あのおっきいネズミに襲われなかった?」

リリアナはすごく2人を心配していた。


「大丈夫だよリリアナ、それより2人とも聞いてよ!勇者様が僕たちに同行してくれるんだ!」


「勇者?」


「初めまして、ベラよ。

見ての通り猫人、よろしくねー」



2人に自己紹介をしたベラはさっそく情報を整理していく。


「確認だけど、その洞窟にいるモンスターを倒せばいいんだよね?」


「はい、そうすればお母さんにかけられている呪いを解くことができると思います。」


「わかったー。

じゃみんな準備できたら行こっか。」


「ちょうど私たちはその準備をしてたんです。

そしたらあのネズミの大群が襲ってきてって感じで。」


「そかそか、んじゃ出発は明日にしよ。

今日は疲れを癒やして行こうじゃないか。んじゃまずは酒飲みに行こ!」


そうして今日は疲れを取って明日の朝に出発することにした一行だった。




      ーーーーーー


「それでそのモンスタァーがやべーんだよ、毒の息ぃ吐くんだけどそぉれがまた臭えーのよー。」


ベラは完全にベロベロに酔っ払っている。あれから一行は酒場に来て街の人からの歓迎を受けていた。最初は陽気でいたベラだったが次第に酒が回りただのめんどくさい酔っ払いへと落ちぶれていった。


「おいおいベラさんよー酔っ払いすぎだってのギャハハハハッw」


一緒に飲んでいたマイクもいい感じに出来上がっている。

1番最年少のエリオットが止めに入る。


「ちょっと2人とも酔いすぎですって、明日に響いちゃいますよ!」


「そんな小さいことで言うんじゃあないよ全く今時の子はw

そんなことよりぃーお前らも飲めってーw」


「僕たちはまだ未成年だから飲ませないでくださいよ!」


「大丈夫だって!私はあんたと同じくらいの時から飲んでっからーw」


2人はこの酔っ払いたちの対応がだんだんと面倒になってきた。いつかお酒を飲む時がきたらまずこの酔っ払いのようにはならないと心に誓うのだった。



「てか、この人ほんとに勇者なの?

全然そんな風に見えないんだけど...」


リリアナはベラの大きくなっている態度を見て疑い始めていた。

エリオットが連れてきたから本当なんだろうが、どう考えても昼間っから飲んでるおっさんにしか見えていなかった。



「んーリリアナちゃぁーん私のこと疑ってんのぉー?

やだなぁーあのでけぇネズミ仕留めたの私なんですけどぉー!」


「わかりました、わかりましたからマイクさんと話してて!」


リリアナはとうとう相手を放棄することにした。その矛先はエリオットに向けられた。



「ねぇあんたはなんで旅してんのー?」


急に核心的なことを突かれたエリオットは戸惑いながらも真剣に答えていく。


「僕は、ついこの間まで1人ででかい屋敷に住んでたんです。両親は死んで、執事とかも辞めちゃってたので...


友達もできずにいたので、絵を描くことが趣味で、街の風景とか自然とか描いたりするのが好きなんです。

そんな時にリリアナに出会って、旅しようよって言ってくれたんです。僕にとって、新しい世界の幕開けのように感じました。


だから今は、旅をしてもっといろんなものに触れて、いつかすごい絵を描けたらいいなって!」


ベラはその話を眠そうな顔で聞いていた。

けど目は真剣に相手の話を聞いているように見えた。



「そうかい...

いいじゃん楽しそう!あんたたちと旅したらきっと面白いんだろなぁーw」


ベラはエリオットの話にときめいていた。


「この依頼が終わったら3人はどこに向かうん?」


「リアナ街に行って、船でサイミン城下町に向かおうって考えてます!」


「そかそかぁー!

よし決めた!私もそれ同行するー!」


そんなにあっさりと着いてきてもらっていいものなのかは疑問だった。


「いいんですか?」


「うん!ぶっちゃけ私勇者って呼ばれてるだけで私自身はただの冒険者って思ってるからさー。

使う技だったり立ち振る舞いでみんなそう呼ぶようになっただけ、だからほんとに心に壁作られると辛いんだよねー。

勇者様、勇者様って。私は私よ。様付けされる覚えはないわぁーw」


こうして酒を飲んで話そうとするのも彼女なりに出会った人と仲良くしたいと考えてやっていることなんだなと感じた。

だから3人は受け入れていこうと決めた。



「じゃ遠慮なくベラって呼びますね!」


「これからよろしくな!」


「よろしくお願いします!」


「みんな...ありがと!

んじゃ改めて仲間に乾杯しよー!w」


「お、いいな!みんなグラス持て持て!w」


「「まだ飲むんですか!?」」



その夜会は日付が変わるくらいまで行われた。翌日、大人組は案の定二日酔いになり、出発が遅れてしまった。

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