第10話 お仕事その3相談員(1)


「クレア、戻ったよ」


 クレアは、家の前で待っていてくれた。


「これは……酷いね……魔力が続くまでは治癒魔法をかける」


 そう言ってクレアは、倒れて意識不明の冒険者パーティー『トルネード』のグランドに治癒魔法をかけた後に、カガールに治癒魔法をかけた。


「はぁ、はぁ、悪いね。魔力が限界だ。お嬢さんは回復ドリンクと手当を受けとくれ……明日になって魔力が回復したら、治癒魔法をかけるよ。ハル、ヒューゴ。私は休む。二人をベッドに運んだら、回復ドリンク頼むよ」

「うん。おやすみ、クレア」

「おやすみなさい」


 俺たちはクレアを見送ると船に横になる二人を見た。そしてハルが手を伸ばそうとした時、ゲオルグが身体の大きい方のカガールを背負った。


「俺がカガールを運ぶから、ハルは部屋の用意しろよ」

「ああ」


 ハルは急いで部屋のカギを取りに言った。するとゲオルグが残されたフェールを見ながら言った。


「勝手に手配しちまったが、ここに泊まるんだろ?」


 フェールは、「はい」と返事をすると、少しだけ足を引きずりながら俺とゲオルグの後について来た。

 宿泊者用の建物に入ると、すぐにハルが追い付きながら言った。


「ゲオルグ、ヒューゴ。10、11、12までお願い」

「ああ」


 そして10番の部屋にグランドを、11番の部屋にカガールを寝かせた。ゲオルグにお礼を言うと「困った時はお互い様だろ?」と言って自分の部屋に戻って行った。その後、ハルが俺を見て救急箱を渡しながら言った。


「俺、回復ドリンク作ってくるから、フェールの手当お願い」


 そう言ってハルは忙しそうに去って行った。普段なら『女の子の手当は俺がする!!』と言いそうなのに、こんな時は言わないことに驚いた。

 俺はフェールを見ながら言った。


「俺が手当をしてもいいかな?」


 フェールは小さな声で「お願いします」と言ったのだった。

 


 そして、俺は救急箱を持ってフェールの部屋に入った。


「傷、見せてくれる?」


 俺の言葉にフェールは戸惑った後に、俺の貸した上着を脱いだ。すると、背中や腕に魔物に引っかかれた跡があり、俺の上着も赤く染まっていた。


「上着……汚してごめんなさい」


 フェールが血ののついた上着を持ちながら言った。自分も怪我をしてつらいのに、そんな些細なことを気にされると困ってしまう。


「そんなことはいいから……汚れた服脱げる?」


 フェールの服は裂けていて、肌は土で汚れていたが、この状況では風呂には入れない。


「ちょっと待って。俺、お湯持ってくる。身体拭こう。手当はそれからだ」


 俺は急いで、布を当てて傷口を止血すると、身体を拭くためのお湯を取りに言った。そして戻ると、ハルがフェールの部屋に居て、フェールの背中の傷口を押さえていた恐らく止血していたのだろう。


「ああ、戻ってきた。後は任せた。クレアが魔法で命に関わりそうな怪我はなんとかしてくれたけど、意識が戻ったら二人に回復ドリンク飲ませなきゃ。あと、ゲオルグ体温下がってたから温める!!」


 ハルは走ってフェールの部屋を出た。


「よかった……顔色が少し良くなった」


 ハルの回復ドリンクを飲んだからか、フェールの顔色が少しだけ良くなっていた。


「はい……」


 俺は桶をテーブルに乗せると、少し熱めのお湯に布を浸して絞った。


「服、脱げる?」

「はい」


 フェールは頷くと、後ろを向いて前をシーツで隠すと背中を見せてくれた。フェールのキレイな細い体は酷く汚れて傷が出来ていた。俺は急いでフェールの身体をキレイに拭いた。


「腕も拭くよ」

「お願いします」


 そして、俺は腕もキレイに拭いた。


「次は、薬塗る……少し痛いかもしれない。ごめん」

 

 俺はそう言って、フェールの背中にクレアの作った薬を塗った。


「んっ……」


 フェールの声を我慢するような声が漏れて心が痛む。表情は見えないが、痛いのかもしれない。


「ごめんな……もう少しだから……」


 俺は早くでも、できるだけ優しく丁寧に薬を塗った。


「いえ……私も、声我慢できずにすみません……ん……あ……」


 俺は急いで薬を塗ると、傷口に大きな布を当てた。包帯を巻きたいが、前に行くとフェールの胸が見えてしまう。だから俺は背中は俺が巻いて、前はフェールに渡して巻いてもらって交互に包帯をやり取りしてなんとか包帯を巻いた。

 そして俺は店で貸し出している女性専用のワンピースを手に持った。


「とりあえず、今はこの服を着てくれるかな? 明日クレアが治癒魔法をかけたり、夜に容体が悪化してお医者様を呼ぶことになった時にこの服なら脱がせやすいからさ。俺が着せてもいい?」


 フェールは小さな声で「ありがとうございます」と言った。もうそろそろ痛みで限界かもしれない早く手当を終わらせて休ませたい。

 俺はフェールになんとかワンピースを着せると、フェールは苦労しながらもワンピースで見えなくなった下に来ていた破れたり汚れた服を脱いだ。


「ヒューゴさん。終わりました……」

「あ、うん」


 そして俺はベッドに座ったフェールの前に跪いて、フェールの汚れたふとももから足裏までをきれいに拭いて、薬を塗った。フェールは痛みのせいか時折「んっ……」とつらそうな声を出していた。


「身体キレイに拭けたよ。足にも薬を塗ったし……」


 ベッドに横になったフェールに布団をかけながら言うと、フェールは消え入りそうな声で言った。


「お忙しいヒューゴさんに、こんなこともまでさせて、すみません。……突然のことだったのです……本当に突然……」


 フェールは震えた声で思い出すように言った。

 もしかして、ダンジョンでのことを話してくれるのだろうか?


 フェールたち『トルネード』だって冒険者ギルド公認の冒険者パーティーのランキング入りしている冒険者グループだ。『黒猫』には及ばなくとも、充分に腕利きの冒険者パーティーだ。それなのにこの惨状だ。


「無理しなくてもいいよ?」


 俺がそう言うと、フェールが俺の袖を掴みながら泣きそうな顔で言った。


「聞いてくれませんか? 自分でも何が起こったのか不安で……ヒューゴさんに聞いてほしい……です」


 俺の袖を持って震えているフェールを見て俺は思わずフェールの頭を優しく撫でた。


「わかった。ゆっくりでいいよ。聞くから」

 

 俺の言葉に安心したのか、フェールは「……はい」と言って、俺の顔ではなく天井を見ながら話した。


「私たちはレベルを上げるために今日は第三層でレベル上げをしていました。魔力も少なくって、みんな疲れてきたし、魔石も溜まったので一度戻ろうと、こちらに戻ろうとした時……目の前に、第6層以降に出現するはずの一角獣が出現したのです。しかも二体も……」


 そう言えば、一角獣の話はゲオルグたちからも聞いたことがあった。確かかなり強くなっていたと……。

 しかも一角獣は単独行動を好む。それなのに二体同時に出現するということがあるのだろうか?

 魔物は繁殖行動はしない。だから人間のように愛し合うというようなことはないのでつがいというわけでもないだろう。


「え? 二体も?!」


 一角獣は、難易度ランクAランクの恐ろしい魔物だ。そんな魔物が二体も同時に出現した?!

 俺は驚きながらフェールの話を聞いたのだった。

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