第4話 お仕事その1接客(1)
異世界から来たというハルに空飛ぶほうきという不可解な道具で連れて来られた場所は、なんと難易度の高いダンジョンの前の家。そしてそこにはずっと尊敬して学んでいた魔法研究家のクレアが住んでいた。
こんな偶然があるのだろうか?
俺が唖然としていると、俺たちが入って来たドアじゃない方向からベルが鳴った。
「あ、お客様だ~~女の人いるかな~~ヒューゴこっち~~早く~~」
ハルは弾むように部屋の奥に向かった。
「え? ああ」
俺はハルに呼ばれて急いで奥に向かったのだった。
◆
ハルについて行くと、ずっと魔法学院にこもって勉強ばかりしていた俺でさえ知っている有名な冒険者パーティー『黒猫』がいた。確か現在『黒猫』はパーティーランキング5位だったはずだ。
名実共に高位冒険者パーティーを前に緊張していると、ハルが親しそうに話しかけた。
「ミーモ様~~ルキア様~~あ~~服が汚れてますね!! すぐに風呂の用意しますね。食事が先ですか?」
宿泊?!
もしかしてここは宿も経営しているのだろうか?
「おい、ハル。風呂もいいが、防具洗ってくれないか?」
ハルに声をかけたのは、この『黒猫』のリーダーゲオルグだった。
かなり怖そうな男性だ。
「はぁ? 男は後だって。ミーモ様とルキア様が先だって、いつも言ってだろ?!」
強っ!!
ええ~~~?!
パーティーランキング5位の『黒猫』のリーダーにあの態度?!
もう、いやだ。仲間だと思われたくない。
数歩後ろに下がると、ハルが声を上げた。
「あ、そうだ。今日はヒューゴがいるんだ。ねぇ、ヒューゴ。クレアに魔力の流し方聞いて、ゲオルグのお願い聞いてあげてよ。俺、ミーモ様とルキア様対応で忙しいから」
ミーモ様というのは、あの弓を持ったエルフの女性のことだろうか? そして、ルキア様というのが、黒髪を結い上げた女性?
両方ともかなりの美少女と、美人だ。
だが、俺は後ろの男性の視線が怖い!!
とにかく、俺はこの場を離れるためにもクレアに魔力の流し方を聞きに戻ったのだった。
◆
「クレア、魔力の流し方っていうのを教えてくれないか?」
ハルに言われたことをそのま伝えると、クレアはすり鉢を置いて、立ち上がった。
「あ~~名前は?」
「ああ、申し遅れました。魔法学院を卒業した認定魔導士のヒューゴです」
そういえば、まだ名乗っていなかったのを思い出して急いで自己紹介をした。
「ヒューゴか……。学院を出てるなら、魔回路はわかるね?」
魔回路とは、複数の魔導士で魔法を使い複合魔法を出現させるかなり高等な技だ。
主に召喚魔法など、特殊な場合に使われるが、理論は勉強する。
魔導士になっても一生使うこともないので、ほとんど座学で試験のためだけに勉強するような内容だが……。
「実践経験はありませんが……理論は学びました」
クレアは、「まぁ、普通はそんなもんだ」と言って、キッチンの横の大きな箱の横にある魔回路の書かれた紙を指さした。
「ここに手を置いて、魔力を流してみな。強化魔法を使うつもりで術の発動を抑制すれば魔力だけが流れる」
術の発動を抑制すると魔力だけが流れる?!
「あの、術を発動しないとは、どうするのですか?」
クレアは、「ああ。そこからか……そうだな……」クレアは周りを見渡すと、テーブルを拭く布を俺に差し出した。
「この布を右手に乗せたまま魔回路に触れながら強化魔法の術をかけな。」
「布に術なんて……」
「いいからやんな」
通常、物を強化することなどできない。俺は例えば誰かが火の魔法を使えばそれを強化する。魔法しか強化できない。
俺は言われた通り布に術をかけた。
だが、布には変化はないが、魔回路が薄い青から濃い青になった。
「ああ、それでいい。あんたのおかげで、冷却箱に魔力を充電する手間が省けたよ」
どうやら、今のが魔力を注げたようだった。
「慣れるまで、その布持って行ってもいいよ」
「わかりました」
俺は、意味のわからないまま布を持ってハルの元に戻ったのだった。
◆
「ああ、おかえり~~じゃあ、さ。外に出て洗濯機にゲオルグたちの汚れた防具入れて、魔力注いで~~。俺、ミーモ様とルキア様を接待するから~~」
よくわからないが、先ほどの魔回路の箱を見つければいいのだろうか?
俺は外に出ると、『黒猫』の男性に取り囲まれた。
「ハルに聞いた。新しく入ったのだろう? 頼むな」
そう言って、ゲオルグは慣れた手つきで、洗濯機と呼ばれた箱の中に肩宛てや、鎧など入れた。さらには剣や鞘まで入れた。するともう一人の大剣を持った男も剣や防具を入れた。
そしてカチャリとフタを閉めた。
一体何が始まるんだ……?
俺は緊張しながら、魔回路に触れた。
その瞬間、箱の中から水の音が聞こえた。
え?
え?
これ、大丈夫なのか?
中に入っているのって、ランキング5位の『黒猫』のメンバーの装備だぞ?!
内心冷や汗を流す俺に対して、『黒猫』のメンバーは外の椅子とテーブルが置かれた場所でのんびりとくつろいでいる。
「悪いが、回復ドリンク3杯頼む」
そういって、魔導士だと思われる男が俺に硬貨を差し出した。
回復ドリンクって、なんだ?
「少々お待ち下さい」
俺は再び家の中に入ると、クレアのところに戻った。
「クレア……硬貨と、回復ドリンク3杯って言われたんだけど」
俺が硬貨を差し出すと、クレアが「ああ」と言って立ち上がった。
「用意するから、硬貨をそのぶたの貯金箱に入れな」
ぶたの貯金箱ってなんだ?!
とにかくぶたを探せばいいのか?
きょろきょろと辺りを見渡すと、粘度でできた不思議な生き物の入れ物があった。持ち上げるとなにも音がしない。
「クレア、ぶたの貯金箱とはこれだろうか?」
俺の問いかけにクレアが「ああ、悪かった。ぶたには見えないね。全くハルは不器用だからね。それだよ」と言った。
俺は貯金箱という意味はわからないが、背中の穴に硬貨を入れた。
するとぶたの貯金箱が光ったと思ったらハルの声が聞こえた。
「無事に金庫に移動したよ~~」
どうやら、こんな不思議な動物の置物に高度な転移魔法が使われているようだった。そして転移魔法が成功すると、ハルの音声が聞こえる仕組みになっているようだ。とても気軽においてあるが、こんな凄まじい魔法は見たことがない。
さすがはカトリアールパリークラール・フィエバルナラ―ル・クレア様だ……。
俺は心の中でクレアを絶賛した。
するとクレアが紫色で泡の浮かんだ怪しい飲み物を差し出した。
「ほら、持っていきな」
え?
こんな怪しい物を飲むのか……さすが高位ランキング冒険者パーティーは違うな~。
俺は顔をしかめながら、回復ドリンクを運んだのだった。
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