同僚は異世界人……俺の特殊な職場の話、聞いて?

藤芽りあ

第1話 日陰魔導士の就職活動(1)




 ――魔導士。

 それは憧れの職業。

 

 そんな憧れの魔導士の中でも四大属性と呼ばれる火、水、風、雷属性のどれか一つでも使えれば、魔導士としてエリート街道は約束される。しかも中には数種類の属性魔法を使えるだけではなく、属性魔法以外の魔法を使える選ばれた人間も存在する。

 

 そんな恵まれた人間が存在する一方……。


「あ~~。強化魔法だけかぁ~~。浮遊魔法もなし? ん~~魔力量は悪くないけど……。認定魔導士様を雇うのも安くないからさ……できれば、癒しの術を使える水魔法か、風魔法を使える人がいいんだよね~~」


 俺の名前はヒューゴ。平民なので名前しかない。

 魔法学院卒業の経歴を持つ。一応国に認定された魔導士だ。

 そんな俺は現在絶賛就職活動中だった――。


 魔法学院はすでに数日前に卒業したが、未だに就職先が決まっていない。

 属性魔法持ちの友人たちはすでに入学した直後に就職先や、配属先が決まった者も多い。

 それなのに、魔法の中でもかなり地味な強化魔法しか使えない俺は未だに就職先が決まっていない。強化魔法とは他の魔法をサポートする魔法なので、単独ではあまり使えない魔法と言われている。

 この感じでは、今回もまたあの言葉で終わるだろう。


「申し訳ないけどさ……どこか他でよい仕事と巡り合えることを祈っているよ」


 案の定、この言葉で――終わり。

 

 魔法学院に入学するまでは、『魔法学院を卒業したら輝かしい未来が待っている』と希望に溢れていた。

 しかし……上には上がいるという現実を知った。それからは自分の魔法は他の魔導士と比べるとかなり地味だと自覚して、魔力量を増やしたり自分の能力を高めることに集中した。

 現実は想像以上に残酷だった。


「あ……もう、魔導士じゃなくて一般職を受けようかな……」


 憧れの魔導士として職に就きたかったが、四大属性でもなく他の魔法の強化に使われる強化魔法だけでは魔導士としての採用は絶望的だった。せめて、浮遊魔法でもあれば話は変わったのだろうが、魔法の素養とは生まれつきのものだ。

 魔法を使える人間は多くはないので、使えるだけよかったと魔法学院ではなく一般的な学校に行っていれば、一般的な仕事できてついでに魔法も使えるということでそれなりに重宝されたかもしれない。

 

 だが、今さら学校選びを悔やんでも仕方ない。

 俺は一般職の仕事募集の張り紙が多い街の掲示板に行って、どんな仕事があるのかを調べることにした。





 掲示板には、パン屋や清掃員など多くの仕事募集の張り紙があった。そんな中、一枚だけ魔導士募集の張り紙があった。


「え? こんな街中に魔導士募集?」


 端の方にかなり汚い字で『魔法使い募集!!! 種類は問わず!! とにかく魔法使いならOK』と書かれた文字を見つけた。


「魔法使いなら……? 魔法使いって……そんな言い方あまり聞かないな……。魔導士を募集しているわけじゃないのか? ん~~魔力を使った何かかな?」


 張り紙をよく見ると、さらに文言が続いていた。


『怪しさゼロ!! あなたの魔法を活かしてできる簡単なお仕事です!! 問い合わせは……君――後ろだよ』

 

 文章を読んで眉を寄せた。

 怪しさゼロなんて書いてあるのが、すでに怪し過ぎる!!

 しかも、魔法を活かしてできる簡単な仕事って……つまりどんな仕事だ?!

 しかも、給与も待遇も何もわからない!!

 この依頼主大丈夫か?


 他の張り紙には『パン屋でパンを作るお仕事』『週3日から可』『時給1300ルピー』など労働条件がしっかりと明記してある。

 それなのにこの張り紙にはそんな基本的なことが一切書かれていない!!

 

 しかも、問い合わせが後ろって……。


「いたずらかなぁ……」


 そう呟いた時。


「そんなわけないじゃん。この掲示板に募集広告貼るのだって大変なんだよ?」


 背後から話しかけられて、俺は思わず後ろを振り向いた。


「……え? 誰?」


 振り向くと、黒髪の短い髪に黒目の可愛い雰囲気の子が立っていた。中性的な顔立ちで男の子か女の子かわからないし、年もわからない。手にほうきを持っているとこを見るとこの辺りを掃除をしていたのだろうか?

 黒髪の子は俺を見ながらニヤリと笑った。


「お兄さん、この張り紙。気になるんでしょ?」

「は? え?」


 驚いて咄嗟に意味のない言葉しか口から出て来ない。

 黒髪の子はそんな俺を見ながら今度は先程の含み笑いではなく満面の笑みを浮かべて笑った。


「気になるなら、話だけでも聞いてよ。お茶ぐらいは出すからさ。さぁ、行こう、行こう~~!!」


 声でも男性なのか女性なのかわからない……。だが想像以上に強い力で手を引かれて、断ることも出来ずに歩き出した。いくら魔導士といえどもそこそこ鍛えている自分を引っ張る力があることに素直に驚いた。

 黒髪の子は人のいない路地までくると、持っていたほうきにいきなりまたがった。


「え? 何してるの?」


 驚いていると、黒髪の子が自嘲気味に言った。


「はぁ~~魔法の世界って言ったら、まずほうきに乗って空を飛ぶっていうは常識なのに……誰も乗ってないから逆に驚くよね……。まぁ、いいや。イケメンのお兄さん。俺の真似してほうきにまたがって!!」

「イケメン?? あ、え? ええ?」


 戸惑う俺の手を少々強引にとって、自分の腰を掴ませると黒髪の子は俺を振り返りながら笑った。


「しっかり掴まって!! 行くよ!!」


 黒髪の子の言葉でほうきがふわりと浮いた。

 

「君は、浮遊魔法が使えるのか!!」


 俺は急いで、黒髪の子の腰をしっかりと持ちながら尋ねた。すると黒髪の子が笑いながら言った。


「浮遊魔法ね~~。使えないって、そんな便利な魔法。使いたかったけどね~~とにかく、話はついてからね~~行くよ~~」

「あ、ああ」


 こうして俺は流されるまま黒髪の子に強引に空に連れて行かれたのだった。


 


 

 



 

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