第33話 初登校

 初登校の日、シャーロットは緊張しながら教室へと入った。

 学校というものは本で読んだ知識だけのシャーロットにとって、ここから先の生活は何もかもが初体験。期待と緊張で胸がいっぱいだった。

 美しく流れる銀髪の髪を持つ美少女に、主に入り口近くの男子たちが息を呑んだ。が、すぐに各々が元の様子に戻る。

 談笑するクラスメイトたちは、既にある程度まとまったグループを形成しており、話しに行けるような雰囲気ではなかった。

 そのことを少し残念に思いつつ、最前列の中央の席に座った。

 すると、シャーロットに気づいた隣に座っていた女子が読んでいた本を机に置き、話しかけてくる。


「はじめまして。私、キアラといいますっ」

「あ、はじめまして。私はシャーロットです」


 きれいな水色の髪と翠玉のような美しい瞳が特徴的で、制服姿がとても似合っている。魔法使いの大事なものでもあり個性でもある手袋もかわいらしいもので、桃色の生地に若葉を刺繍していた。

 シャーロットも何か自分の手袋をデコレーションしようかと思いつつ、シエラが自分のために選んでくれた手袋に何かを追加することに迷う。

 考える素振りを見せていると、キアラは笑顔で顔を寄せてくる。


「たしか首席合格はシャーロットさんだよね! 実技試験での魔法、すごかったよ!」

「ありがとうございます。でもあれは先生の指導がよかったから」

「先生? シャーロットさんはどこの塾に通っていたの?」

「塾には行っていませんよ。先生の個人指導です」

「えっ、すごい! いいなぁー。私、回復魔法しか取り柄ないから……魔力は高いのに攻撃魔法がからっきしでね……」


 えへへ、と頭を掻いて苦笑した。


「ねぇ! 私たちお友達になれないかな? 一緒に魔法の道を極めようよ! 私だけが教えてもらうことになりそうだけど……」

「いえいえ。回復魔法は私、先生にもデューテさんにも詳しく教えてもらってませんから。ぜひ私に回復魔法を教えてください!」

「もちろん! 嬉しいな。シャーロットさんが初めてのお友達だよ! しかも、あの新しいデューテ先生とお知り合い!? 詳しく聞かせてよ!」


 手を取り合って二人がはしゃぐ。

 と、その時、窓際の席から厳しい声が掛けられた。


「うるさいぞ。仲良しごっこがしたいならよそに行ってくれ。天才であるボクの邪魔をするな」

「あ、ごめんなさい」

「ちっ……天才で公爵家のボクはこんな奴に負けたのかよ……平民のくせに」


 蔑むような声と目に、キアラがしゅんと悲しい表情を浮かべて縮こまってしまう。

 ムッときたシャーロットが言い返そうとすると、その前に教室の入り口から皮肉がぶつけられた。


「あらあら。さすがは天才様よね~。まさか入学時の成績がギリッギリSクラス! なんですから」


 嫌味を大声で言われ、露骨に機嫌を悪くした男子が声の主を睨む。

 シャーロットもそちらを見ると、視界の真ん中で金色の髪が揺れた。


「っ! メランコリー……様……」

「呼び捨てにしなかったのは賢明ですわね。ですが、その前の発言は聞き捨てなりませんわよ」


 メランコリーはそのまま歩いてシャーロットとキアラの肩を抱き寄せると、キッと強く窓際の男子生徒を睨んだ。


「シャーロットさんとキアラさんは私の友人! 先ほどの発言は取り消しなさい!」

「くっ……ちっ」


 嫌そうな舌打ちが聞こえる。

 謝罪はなく、しかしそれ以上何も言わずに男子は窓の外へと視線を向ける。

 シャーロットの隣に座ったメランコリーに、シャーロットもキアラもキョトンと首を傾げた。


「私とメランコリーさんってもうお友達に?」

「メランコリー様と私、接点ないどころか初対面ですよね? 名前を知ってもらえていたことに驚きなのですが」

「フフン! キアラさんは私よりも回復魔法が優れているので、戦友! シャーロットさんも私よりも順位が優れていたので戦友ですわ!」


 シャーロットが笑った。


「私たち、戦友なの?」

「ちょっと違うような……」


 キアラの言葉がトドメとなり、メランコリーが涙目になってしまう。


「もしかして私たち、お友だちじゃない……?」

「あ、いや、お友だちですよ!」

「私も私も!」


 慌てて訂正した二人に、メランコリーの機嫌が直っていく。

 ひとまずは笑顔になってくれたことに一安心した。

 教室の扉がまた開く。

 新たに入ってきた人物はシャーロットの前で足を止め、そして、彼女と同じ緋色の目を見開いた。


「お姉ちゃん……?」

「え?」


 シャーロットが顔を上げる。

 そこにいたのは、ショートカットの緑の髪をした少女だった。その顔立ちはどことなくシャーロットに似ている気もする。


「お姉ちゃん、だよね?」


 驚いている顔をしていた少女は、そう呟いた。

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