第8話 魔法の階級

 新しく黒板を用意し、シャーロットがメモを取れるようになったタイミングで次の内容を書き記していく。


「次に話すのは魔法の階級についてだね」


 いくら属性について詳しくなっても、属性相性はあくまで同程度の魔法がぶつかり合ったときに打ち勝つための関係。根本から威力の違う魔法には太刀打ちできない。

 前後一階級であれば魔力の強弱でもしかすると相性による逆転も可能かもしれないが、基本はより強い魔法で押し勝つというのが攻撃魔法の基本であった。


「魔法は、基本的には第一から第十二階級までの階級に分類されている。この十二階級の上に超次元魔法と呼ばれる想像を絶するほどの威力を秘めた魔法があって、その他には複数人で準備と発動をさせる儀式魔法っていうのがあるかな。まぁ、基本的に使われるのは階級魔法のほうだから、超次元魔法と儀式魔法はいつか時間があるときに少し学んでみると面白いかもね」

「なるほど」

「うんうん。で、階級魔法に話を戻すんだけどね、この十二階級のうち、気をつけなくちゃいけないのは第四階級魔法から」

「第四階級から……それはなぜでしょうか?」

「シャルは賢いから理由はすぐに分かると思うし第四階級魔法の例を一つ挙げるよ。……【プラズマランス】」


 シエラが口にした魔法を聞いてシャーロットがハッとしたような表情を浮かべる。

 本当にすぐに分かったと、満足そうに頷いたシエラが改めて黒板に説明を書いていく。


「そう。第四階級魔法からは殺傷力が格段に向上する。慣れてくるまでは易々と第四階級魔法は使わないこと」

「分かりました」


 実践で呪文を教える際も第四階級からは慎重にならなくてはと自分にも言い聞かせる。

 軽々しく呪文を教えたところで教えられた者がその魔法を乱用し、あっという間に外道の道へと堕ちていった事例をシエラは何度も聞いている。修行中の事故で最も多いのも第四階級魔法の暴発だ。

 第四階級魔法は戦闘で最もよく使われる魔法ではあるが、当然ある程度の制御能力が求められる。下級や中級魔法使いのうちはこの制御に失敗して周囲の人に危害を加えたり、暴発や自爆で命を落としたりすることもあるのだ。

 シャーロットにはそんな風になってほしくないとシエラは思っているため、第四階級魔法は最初のうちは攻撃魔法以外のものを教えようと思っている。


「まぁ、人類が使うことができるのは精々第六階級魔法までかな。勇者なんかは平気な顔で第十階級魔法を撃っていたけど、あれは例外よ」

「ちなみに、先生はどこまでの魔法を……?」

「当然、第十二階級魔法は使えるしその上の超次元魔法も発動できるわよ? 実際に見せてあげましょうか?」

「いえ! 結構です!」


 いたずらっぽく笑って複雑な魔法陣を手に浮かべてやると、途端にシャーロットが顔を青くして必死に頭を横に振る。

 その様子があまりに必死で、少しいたずらが過ぎたと反省する。

 そのままシャーロットの頭を撫で、優しい微笑みを浮かべた。


「シャルはきっとすごい魔法使いになるだろうからね。将来、第七階級魔法はもちろんもしかすると超次元魔法だって発動できるようになるかもしれない」

「え、でもさっき人間は……」

「種族的な限界はたしかに第六階級魔法だろうけど、それは深層魔力だったりその他の魔法に関する体の機能が足りなかったりするのが原因だから。第七階級から上を使うことができるのは特別な者ばかりで教えようがないっていうのも原因の一つかも。その点、シャルには充分な素質が備わっているし私が教えてあげるんだから安心して強くなれるよ」

「私もそんなすごい魔法使いになれるんですね……! やった……!」

「ただし、何度も言うけど第四階級魔法からの扱いには要注意ね。これは慣れてきても同じだから、覚えておくように」

「はい!」


 物分かりのいいシャーロットだと教え甲斐もあると思い、シエラも楽しくなってくる。こんなことならもっと昔から弟子を取ってもよかったかもしれないとまで思うようになっていた。

 さて、と一言呟いてチョークを置く。

 これで、基礎的な魔法の知識はあらかた教えたように思う。もちろん、まだまだ知っておくと便利なことはたくさんあるが、あまり座学ばかりでも飽きてしまう。

 シエラは両腕をあげて背筋をピンと伸ばすように背伸びをすると、そのまま体を横に倒した。


「じゃあ、とりあえず初日の座学はここまで。休憩を挟んで実際に魔法を撃ってみましょうか」


 その提案に、シャーロットが目を輝かせて頷いた。

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