第31話 逃げて来た者!
或る日の夕食時。
「あ……」
「どうしたんだ、桜」
「人間が迷い込んできたのじゃ」
「何人だ?」
「2人。男と女じゃな」
「ここへ連れてこなアカンのちゃうか?」
「そうだ、そうしよう。ゾンビに見つかる前に」
「じゃが、夜になる。あまり結界の外へ出るのはオススメできないのじゃ」
「距離は?」
「西へ1キロ」
「それなら、僕が救出に行ってきます。僕の高速移動なら大丈夫でしょう。ねえ、姫」
「俺も行く。1人で2人抱えるのは大変やろう」
「クラマさん、お願いします」
「ほな、行ってくるわ」
走る2人。高速剣士にしか出せないスピードだ。
いた。
2人、支え合うように毛布にくるまって座っている。
「無事ですか?」
「お前達は!?」
「大丈夫、人間です。助けに来ました」
「本当か?」
「はい。それよりも時間がありません。僕等の陣地までお連れします」
2人は立ち上がった。
女性の方のお腹が出ている。
妊婦のようだ。
「瞬、お前は妊婦さんを丁重に運べ。俺は旦那の方を背負っていく」
「わかりました」
瞬は、女性を“お姫様抱っこ”した。
「行きますよ」
「スピードは出るけど、怖がったらアカンで」
「はい」
瞬達は、無事に神社の結界の中に戻った。
「お帰りなさい」
「お兄ちゃん、遅かったわね」
「これ以上、早く動くのは無理だよ」
「ちょっと待って、その女の人!?」
連れ帰ってきたカップルの、女性の方はゾンビだった。
「どういうことかしら。こちらの女性は?」
「ゾンビです」
一同が構える。
「やめてください。妻は、まだ人を食ったことは無いんです」
「あなたの奥様なんですか?」
「ええ。結婚して、ちょうど10年くらいです」
30代半ばの男性が事情を話してくれた。
10年程前、2人は結婚した。
すぐにゾンビウイルスが蔓延、奥さんはゾンビになった。
だが、ゾンビになってからも片時も夫の側から離れず、
ずっと2人で逃亡していたらしい。
戦闘で奥さんが戦ったことはあるが、
人間を食べることは無かったという。
「結論から言って、信じるのは難しいのじゃ」
桜が言った。
「どういうことだ?桜」
「下級ゾンビなら、必ず人肉を食おうとするはずじゃ」
「そういうものなのか?」
「そういうものじゃ」
「桜も人肉を食べないじゃないか」
「私はゾンビの中でも階級が上じゃからな」
「じゃあ、このお姉さんも階級が上とか…」
「だったら、上司から監視されているはずなのじゃ」
「じゃあ、このお姉さんは?」
「奇跡的な例外なのかもしれんな」
「まあ、無害だったらいいんじゃないか?」
「そやな、桜でゾンビとの生活には慣れたからな」
「そうだ、人間は残り少ない。少数ずつでも団結しないとな」
「桔梗は?」
「どっちでもいい。みんなで決めたことに従う」
「姫は、どう思いますか?」
「私は、新しい仲閒として迎えたいと思います。久し振りに出会えた人間ですから」
「では、そういうことで。よろしくお願いします」
「はい!よろしくお願いします。俺、ヘドロと言います。得意なことは、逃げることです」
「…私はリン」
「奥様はリンというのね」
「ほお、言語を操れるのか。リンに興味が沸いてきたのじゃ」
「すみませんが、リンは妊娠中で、いつ生まれるかわからないんです」
「ゾンビでも子どもを産めるのじゃな?」
「はい。いつ産気づくかわかりません」
「その時は協力します。お二人とも、お腹は空いてませんか?」」
「あ、お腹空いてます」
「お二人も、どうぞ食べてください」
「ありがとうございます」
頼りになるのかわからないが、新メンバーが加入した。
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