これただのメモなんだけど

タチバナエレキ

これは備忘録だと思って一先ず取り急ぎ

 すいません、言ってなかったんだけど先月末に父が亡くなったんですよ。

 そしたら遺品から変なもんが出て来たから話聞いて欲しい。


 父とはしばらく離れて暮らしてたんだけどさ。

 あんまり身内の話をするのもどうかと思ってベラベラ話すの控えてたんだけど昨年末に両親が離婚してましてね。独身の私は母と2人で暮らすことになったのよ。兄と妹はとっくに別世帯だから特に大きな影響はないんだけど。

 それでもまあそういうわけで離婚とはいえ、我が家が解散したのはつい最近のことなのよ。

 そんで父の兄弟ももう皆死んでんの。全員60前後で死んでる。家系なんかな。早いね。

 父方の従兄弟も今はほんの2〜3人しか居なくて、しかも全員田舎に住んでるわけ。ちなみに関西の方。こっちは神奈川。遠い。遠いのよ。大阪も京都も東海道新幹線で一本だろって言われてもさ、そんなんうちからさいたまスーパーアリーナ行くのとは心構えが違うんだよ。電車一本だとしても遠いわ。ていうか高いだろ。ていうか関西イコール大阪か京都オンリーだと思うなよ。

 だからまあ父の住んでた部屋を結局私と母で片付けに行くことになったんだよね。

 くそだりいけど、でもこれは仕方ない。母は兎も角私は血が繋がってるから仕方ない。やれと言われたらやるしかない。


 両親が別居するようになったのが去年の秋頃からかな。離婚届提出が年末。

 父と離れて約半年。父は単身者用の古い賃貸マンションに引っ越したのね。身内はほぼ居ないけど仕事でお世話になった人が近くに住んでるとかで、私と母の住まいから3駅先が最寄り。

 ちなみに私と母はずっと同じ家に住んでる。そもそもが母方の祖父母の家に、父がマスオさんみたいな感じで入って来た感じだっので、母方の祖父母亡き後も母の名義になってたから。若い子にはマスオさんって概念通じる?大丈夫?

 そんで父のマンションに最初に片付けしに行ったのが先週の土曜。

 遺品整理の業者とか頼んでも良かったんだけど、母がそれにあんまり良い顔しなくて結局身内で片付ける事になっちゃったんだよ。

 男のひとり暮らしだからかほんと物が少なくてさ。それどころか段ボール入れたまんまの荷物も何箱かあって、ほんと素っ気ない部屋だった。60は過ぎてたけど、父は一応まだ元気に働いてたんだよね。定年まで勤めた職場の嘱託社員として。

 とりあえず母と2人で洋服とか明らかにいらない物はどんどんゴミ袋にぶっ込んで行って、家具とか粗大ごみはこれからシール買って処分しなきゃねえなんて話してたらピンポンが鳴ってさ。

 管理人かと思ったら、近所に住んでた父のお友達だった。

 お茶を出すにしても何がどこにあるかもよくわかんないし、なんならさっき古くなってたお茶っ葉捨てたばっかりだし、ろくな食器もないし、それでおもてなしなんて無理だからすいません今日はお引き取りを、って母が言ったらむしろ労われて逆にお菓子とペットボトルのお茶貰っちゃって、結局掃除は中断。母はその人としばらく話し込んでて、私は2人の話を聞き流しながら適当に相槌打ってて、放置されてた段ボールの中身を確認してた。

 母が「父さんがずっとつけてた日記が見当たらない、10年ダイアリーみたいな分厚い手帳何冊か。あれの中身を確認したいから見つけたら教えて」と言っていたので、それを探していた。

 通帳と保険関係の書類は一箇所にまとめてあるのをもう救出してあって、それ以外の貴金属とか時計とかお金になるような物は全部銀行の金庫に預けてあるらしくて、それについての処遇は今兄が弁護士に相談しているところ。多分父が遺言書頼んだ先生だと思う。葬式に来てた。会社の人に連れられて。


 ギャンブルもせず特に派手な趣味も持たなかった父は日常生活のために使うクレジットカードが1枚あるだけで特に大きな借金は無かったはずで、かといってまとまった大きな財産があるわけでもなく、多分葬式代と弁護士代を差っ引いた微々たるお金を兄と妹、私の3人で分け合う事になると思う。

 父は母と離婚する時に「身内もほとんどいないからこそなんかあった時のために財産は子供3人に残すって遺言書を先生に頼んで作ってるとこ」と母に言ってたらしい。

 不倫していたわけではないから勿論再婚することもなく、外に子供はいないし、実家ももう従兄弟のひとりが継いでいて、多分遺書は銀行の金庫に入れてある。

 だから恐らくそれ程面倒にはならずに遺産相続の処理は済むと思う。兄妹と仲良くて良かった。仲悪かったら父が出ていった時点で詰んでた気がする。


 でも母は何か気になる事があるみたいで、だから父の日記帳を探してる。

 それで段ボールの中には何も無かった。

 日記帳だから多分離婚した後もずっとつけてたと思うし、段ボールに入れっぱなしってことはないと思うんだけど、一応確認のために全部ひっくり返した。

 それで父の友達、タカハシさんていうんだけど、あ、こういうの仮名にした方が良い?でもタカハシなんて名字どこにでもいるから良いか。

 とりあえずタカハシさんが、食器棚の上の奥の方に本みたいなのが入ってますね、と言ってあっさり見つけてくれた。

 私も母も背が低いから、そこの掃除は後回しにしてたんだよね。

 ありがたい。


 出て来たのは古びた分厚い手帳が5冊。

 父が大学入るために上京してきた時からずっとつけてた日記。

 1番日付が古い奴はもう40年以上前のノートだからボロボロかと思いきや、一応読む事が出来た。むしろ保存状態は悪くなかった。

 それでそのノートに折り畳んだ和紙が挟まってたんだよね。お守りの中身みたいなの。

 その和紙開いたら長い髪の毛が束で入ってたんだよ。きもいじゃん?

 5冊のノート全部に同じ物が挟まってた。

 日記の内容もよく読むと、ところどころおかしいわけ。

 基本的には毎日の夕飯がなんだった、家族でどこに行った、今週は出張、とかの些細な出来事が中心なんだけど、時々意味のわからない文字列が挟まってるの。文字化けしてるみたいなの。

 ほんとに意味のわからん言葉。

 父の地元の方言かなと一瞬思ったんだけど、同郷のはずタカハシさんすら意味がさっぱりわからないって言うんだよね。


 父は脳の病気で死んだとかじゃないのよ。

 死んだ理由は交通事故だから。3月最後の金曜に職場の送別会に誘われて、少し遅くなったから電車じゃなくてタクシーに乗ったらそのタクシーが事故に巻き込まれた。

 本当にちょっと血圧が気になるかな程度で定期検診も行ってたから先月時点で大きな病気とかはなくて、最後に会った時までは普通に元気だった。2月位に、私と兄と父の3人でご飯食べたから。兄貴よりも食欲あったくらいだし。


 そもそもそのおかしな文字列は1冊目から、18歳の時の日記から随所に挟み込まれてるわけ。

 これなんなのかな。

 一応写真は撮ってるんだけど晒し方がわからない。自分の家に持って帰るのもなんか怖いし、だけどこれ捨てて大丈夫かな。燃やせば浄化されんじゃないの、こういうの。でも捨てるのも怖い。和紙にはなんか神社の名前かな?みたいなのが書いてあるんだけど漢字が難しくて正しく読めん。

 父方の従兄弟の連絡先わかんないんだよね。母は「家に帰れば住所くらいはわかる、今年も年賀状来てたから」って。一応連絡した方がいいんかな。

 手帳の中身について母は「やっぱり」って言ってた。どういう意味か問い質すと「お父さん、たまに寝言でおかしな言葉を発してた」って。

 それと田舎にいた頃の話とか全然してくれなかった、仕事はちゃんとした企業に長く勤めてたから身元に問題があるとは思ってないけど、それでも余り自分の事を話したがらない人だったんだよね、だから離婚はしたけど日記は一度見てみたかったんだ、って。日記は全く見せてくれなかったし、勝手に見るのも悪いと思って触れなかったって言ってた。

 あと遺書とは関係ないと思うけど1番新しい日記に「夏までに☓☓に連絡を。先生の指示」って書いてあった。☓☓のところはコーヒーのシミみたいなのが飛んでてはっきり読めない。ほんとなんなんこれ。

 

 その文字化けみたいな意味のわからん文字列、幾つかパターンがあるんだけどいちばんよく出て来るのが、

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