災厄の降臨
「退け! 撤退だ!! 復興作業中の隊は、速やかに円卓から離れろ!!」
「誰でもいい、あの化け物を止めろ!! 円卓の回りには、すでに大勢の住民が帰還しているんだぞ!!」
円卓周辺の森林地帯。
黒雲が立ちこめる曇天の下。
そこには先の円卓の
「だ、駄目です! 火炎弩砲、効果ありません!!」
「急行した我が方の
「おのれ帝国軍……ッ! まさか、復興支援を隠れ蓑にあのような兵器を投入してくるとは……!!」
連邦の将兵が、戦慄と共にその視線を円卓周囲の豊かな緑地帯へと向ける。
その先に見えるのは、通常の天契機の五倍近い大きさを誇る〝赤銅色の巨人〟。
腰から下には台座状の足が四つ。
緑の大地も美しい水源も何もかもを押し潰し、もうもうと砂煙を上げて前に進む。
その上半身も通常の人型とは程遠い。
頭部は二枚貝を押し潰したような形状で、首ごと胴体にめり込んでいる。
両肩は上方に大きくせり上がり、左右の腕は無数の弩砲を円状に束ねた〝回転式の連装砲〟を形成。
さらに背面から伸びる蜘蛛の巣状の〝特徴的な光輪〟が、神像のごとき畏怖と威圧感を巨人に与えていた。
「この化け物がぁあああああ――!!」
「よくも俺たちの仲間を――!!」
将兵達の視線の先。
拡大し続ける災禍を前に、連邦における
『…………』
「う、動けん……! これは……地面が機体の足を――!?」
「お、押し潰され……――」
だがしかし。
勇敢にも巨人に挑む二機の連邦機体は、突如として隆起した〝岩と土〟によって下半身を絡め取られる。
そして次の瞬間。のたうつ大地は捕えた二機を全方位から絞るようにして圧殺。
二機の操縦者は断末魔すら上げず、津波のように押し寄せる大地に埋もれ爆発四散した。
「な、なんだあれは……!? まさかあの化け物は、〝大地そのものを操れる〟というのか!?」
それはもはや、人の叡智が生み出す技術から遠くかけ離れた超常の領域。
天契機すら相手にならない絶望の化身を前に、連邦の将兵たちは為す術無く撤退を指示することしかできない。
この場に巨人の歩みを――否、〝巨神〟の進撃を止められる者は誰もいない。
哀れにも戦場に取り残された住民達が。
懸命に復興支援に当たっていた連邦軍の命が、巨神の一歩によって次々と奪われていく。
「駄目だ、とても逃げ切れん……っ!」
「死にたくないよぉ……」
「誰か助けて……っ」
そして今。
逃げ遅れた人々を必死に先導する連邦軍の一団にも、無慈悲な巨神の歩みが振り下ろされようとしていた。
集まった大勢の人々はただ神に祈り、民の力になろうと最も危険な円卓での作業に従事していた連邦兵は、自らの剣を握りしめて天を仰いだ。そして――。
「――――今!!」
閃光。
放たれたのは、大地すら穿ち抜く光芒の矢。
窮地に陥った人々を守護するべく放たれた光の一矢は、見事巨神の上半身に直撃。
それまであらゆる攻撃にひるみもしなかった巨体を大きく傾かせ、地鳴りと共に大地へと沈めて見せたのだ。
「今のうちに出来る限り離れてくれ!! この化け物は、我々エリンディアの独立騎士団が引き受ける!!」
「白い天契機……エリンディアの眠り姫が来てくれたのか……!!」
そして光の矢と共に完璧なタイミングで現れたのは、純白の機体に蒼穹のケープをはためかせたルーアトラン。
操縦席のリアンはすぐさま周囲に避難を呼び掛けると、土煙を上げて体勢を崩す巨神に対峙する。
「さすがシータ君だ! だがこの化け物……円卓も砕いたイルレアルタのあの一撃を食らって〝よろめいただけ〟なのか……!?」
シータの腕を賞賛しつつも、リアンは初めて目にする超兵器に戦慄する。
「ならば、勝機は今しかあるまい――!!」
しかしリアンは即座にルーアトランの長剣を抜き放つと、未だ大地に沈む巨神目がけて風の翼と共に加速。
沈黙する巨神に、必殺の一撃を叩き込まんとする。
『…………』
「くるか――!?」
だが黙ってそれを許す巨神ではない。
先の二機を倒した時と同様、巨神は周囲の大地を隆起させると、迫るルーアトランに四方八方から襲いかかる。
「〝それ〟はさっき見せて貰った! だから――!!」
「――リアンさんには、指一本触れさせません!!」
一閃、そして放たれる光の雨。
リアンへと伸びる岩と土による大蛇の
一撃でも容易く天契機を粉砕するであろうそれは、上空から降り注ぐ星の矢によって次々と射貫かれ、打ち砕かれる。
「今です! リアンさん――!!」
「コケーー!!」
「ありがとうシータ君! 後は私とルーアトランで決める!!」
イルレアルタの矢によって導かれ、一陣の疾風と化したルーアトランが巨神の元に到達。
リアンは見事な操縦でシータの援護に応え、今度こそ巨神の身に白銀の刃を叩き込む。しかし――。
「か、かったぁ……っ! ちょ……いくらなんでも硬すぎではないか!?」
「リアンさん!?」
なんということか。
これまで、たとえどんな相手であろうと〝当たりさえすれば必ず切断〟してきたルーアトランの剣。
だがこの時、ルーアトランが振るう護国の剣は、巨神の装甲に傷一つつけることが出来なかったのだ。
「困ったな……! こんな化け物、一体どうやって倒せばいいのだ!?」
『…………』
「逃げてリアンさん!! 次の攻撃が来ますっ!!」
「なぬ!? ぐあっ――――ッ!!」
瞬間、倒れ伏していた巨神が体勢を立て直す。
そしてその巨大な片腕でルーアトランを弾き飛ばすと、残るもう一方の腕に備わる連装砲で即座に追撃を加えたのだ。
「そ、そんな……! リアンさん……っ?」
響き渡る爆音に、シータのリアンを呼ぶ声もかき消される。
巨神の放った砲撃は、一発一発が小山すら吹き飛ばすほどの激烈な威力を持っていた。
それの一斉射をまともに受ければ、いかにルーアトランとはいえ確実にこの世から消え去っていただろう。だが――。
「間に合った……! ご無事ですか、リアンさん!」
「き、君は……帝国の!?」
「この声……もしかして、キリエさん!?」
間一髪とはまさにこのこと。
もうもうと立ちこめる爆炎の先。
黒煙が晴れた先でシータが目にしたのは、無傷のルーアトランを抱きかかえて滞空する銀色の天契機。
そしてその二機の周囲でまばゆい光の壁を展開する、いくつもの鳥のような飛翔体だった。
「はいっ、キリエです! お久しぶりです、シータさん!」
「どうしてキリエさんが!? 僕とリアンさんは、帝国軍が攻めてきたって聞いたからここに……」
現れた銀色の天契機から聞こえるキリエの声に、シータは困惑気味に尋ねる。
そしてその問いに、キリエは決意に満ちた声で答えた。
「あれは帝国の兵器なんかじゃありません……! あれは
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