第12話


 メニングスの街を抜けてからしばし、適当に魔物を狩りながらゆっくりと東へ向かっていく。

 道中を急ぐ旅でもないので、その間に俺はミーシャに戦い方を仕込んでやることにした。


 なにせこいつはとにかく強くなりたいらしいからな。

 色々と教えてもらった恩をここで返しておくことにしよう。

 魔法の細かい理論なんかには疎い俺でも、ただ強くなる方法を教えるだけならいくらでもやりようはあるからな。


 ミーシャが使える属性は火・水・そして聖。

 火力が一番出るのが火属性らしいので彼女は渋っていたが、俺は彼女に水魔法の使い方を工夫するよう徹底させることにした。


 魔法の火力を上げるにはかなりの時間がかかるらしいので、一朝一夕にできることではない。

 それなら今あるものの中で強くなる方法を模索した方が早いからな。


「うーん……私的にはもっとこう、ギルさんみたいにですね……敵をばっさり真っ二つにしたいわけなんですけど」


「身体強化はある程度身体を作らないと意味がない」


 身体強化は、己の肉体を強化する技法だ。

 故にその強化の度合いは、肉体をどこまで鍛え上げているかによって変わってくる。


 ミーシャの身体能力はお世辞にも高いとは言えない。

 毎日走り込みはやらせているが、ペースをかなり落としても十分ももたずにへばる。


 ものになるのはまだまだ先の話だろう。

 まったく、こんなんでよく冒険者として活動できていたもんだ。


「だから今は基礎体力だけ作りながら、小手先で強くなるのが一番だろう」


「小手先……」


「今あるものの中で最大限に強くなる。そうしたらその限界を日々の鍛錬で超えていけばいい」


 ミーシャは露骨に嫌そうな顔をするが……当然ながら指導の手を緩めるつもりはない。

 一度やると言ったからには、妥協は許さんぞ。






 道中の戦闘は、全てミーシャに行わせていく。

 効率的な魔法の使い方を適宜指導していく中で、ミーシャはメキメキと強くなっていった。

「よし、次はあのオークを倒してこい。できなければ晩飯抜きだ」


「……はい」


 死んだような目をしながらオークの下へ向かっていく。

 その姿からは甘えが消えていた。

 発する空気感も、完全に戦いを生業とする者のそれだ。


 ミーシャは俺が街で買っていた短剣を手に持ち、オークへ駆けていく。

 当然ながら彼女の身体能力はさほど高くはないため、肉薄できないうちに接近を気取られる。


「ブモオオオッッ!!」


 オークが近付いてくる。

 ミーシャもそのまま走る速度を緩めずに駆け続けた。


「水よ」


「ブモオオッッ!?」


 オークの足下の地面を水魔法をかけて凍らせる。

 当然ながらつるりと滑り、オークは思い切り前に体勢を崩した。


「今日の……晩ご飯ッ!」


 ミーシャが目を血走らせながら、オークの眼球に短剣を突き立てる。

 そのまま深くまで突き立ててからかき回せば、攻撃は容易く脳へと届く。

 一瞬のうちにオークは沈黙した。


 ――そう、俺が最初に徹底させたのは、この地面の凍結によるスリップだ。

 誰しもしっかりと踏ん張ることができなければ、本来の力を発揮させることはできない。


 ミーシャには水を出してそれを凍らせるまでの時間をとにかく短縮させることにした。


 水魔法にはまだまだ可能性がありそうだが、とりあえずは馬鹿の一つ覚えのようにこのスリップを徹底させる。


 手っ取り早く強くなりたいのなら、王道のワンパターンを作っておくのが大切だ。

 敵を倒せる手段があるのとないのとでは大きく違う。


 それに別にそれを防がれても問題はないのだ。

 なぜなら相手も、こちらに手札があると認識すれば――駆け引きの余地が生じるからだ。 相手に警戒させている間に、また別の手段で倒してやればいいわけだな。


「ふぅ……なんとか間に合ったか」


 不格好ながらもミーシャに王道のワンパターンを覚え込ませることができたところで、ようやくガレフォンが見えてきた。


「……なんてデカさだ」


 俺が今まで見てきたものの中で、シンプルに一番デカい。

 あれだけの大きさがあれば、中には一体どれだけの人間が暮らし、どれだけの面白いものが詰まっているというのだろう。


「行くぞ」


「ちょっ……またこのパターンですかああああっっ!!」


 そびえ立つ城壁を見つめて興奮してきた俺はミーシャを担ぎ上げ、そのまま一息に城門へと駆けていくのだった――。

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