第10話
「え、ええ、それくらいなら問題ありませんが……」
セルマの許可をしっかりと取ってから、俺は単身で盗賊達の方へと向かう。
俺の視覚拡張と聴覚拡張だけでは万が一があるかもしれないので、ミーシャには護衛主の側に居てもらうことにした。
まず聴覚拡張を行い男達の場所を特定し、次に視覚拡張を使いその様子を確認する。
身のこなしから考えて、武術の心得はなさそうだ。
十中八九、食い詰めて盗賊でも始めた素人達だろう。
盗賊の数は事前の探知通り四人。
みすぼらしい身なりをしていて、手には一応鉄製のナイフを持っている。
「おいそこのお前、止まれ!」
俺を視認できた段階で、指示役らしい男が叫ぶ。
言われたところで止まるわけもなく、俺は更に速度を上げた。
「射手もいる、いいから止まれ! と……止まれって言ってるだろッ!」
俺は警告を無視して駆けた。
全力疾走をするのは久しぶりなので、なんだか楽しくなってきたぞ。
「え……ええいっ、やっちま――ペギョッ!?」
指示を出そうとした時には、時既に遅し。
肉薄した男の頭を背骨でぶっ叩くと、真っ赤な花が咲いた。
「ふ、副リーダーがやられた!」
「ば……バケモンだあっ!」
一瞬で戦意を失い、逃げようとする盗賊達。
当然ながら逃がすつもりはない。
背中を向けている男に背骨を振ると、身体をくの字に曲げながら吹っ飛んでいく。
残る二人は距離が近かったので、まとめて横薙ぎで処理をする。
あっという間に街道が血の海になった。
ふぅ……と戦いが終わった安堵したふりをする。
そのまま敢えてもう一人いる監視役らしき男に気付かぬ振りをして、くるりと後ろを振り返る。
聴覚拡張を行い、相手の様子を確認する。
どうやら味方がやられたことを伝えにいくつもりらしく、急いで駆けていった。
あの盗賊の行く先にアジトがあることだろう。
俺はペロリと唇を舐めながら、バレないように距離を取って後をついていく――。
アジトは街道から少し離れた洞穴の中にあった。
聴覚拡張で捉えたところ、数はおよそ十五人ほど。
さっき倒したやつらも入れると二十人弱か……盗賊団としては大きいのかもしれない。
見張りが一人、中の洞穴十人ほど盗賊がいて、残る四人が奥にいる。
どうやら奥にもう一つ部屋があるようで、さっき報告に帰ったやつはそちらにいるようだ。 となるとリーダーがいるのも、多分奥。
「……あぐっ!?」
見張りの一人がいたので、まずは近付いて首を一回転させ処理をする。
倒れた男を放置し、洞穴の中へと入っていく。
中に入ると、むせかえるような酒の匂いがした。
今はまだ昼間なんだが、大分できあがっているらしい。
男達は酒を飲んでいるからか、侵入者である俺が入ってきたことに気付いてすらいない者も多かった。
いくらなんでも、たるみすぎだろこいつら……。
「あぐっ!」
「がべっ!?」
「あばばっ!」
まずは元気そうな奴らから潰していき、そのまま眠っている奴らも潰していく。
全員一撃だ、防具を身につけるやつも武器を使って防御しようとするやつもいたが、背骨で叩けば一発だった。
奥に入ろうと歩き出すと、拡張した視覚が奥で武装する四人の男を捕らえた。
どうやら派手に動いたせいで、侵入したことに気付かれたらしい。
「おいゴンゾ、てめぇ下手打ちやがったな!」
「すみませんお頭!」
視覚拡張で既に確認しているので、不意打ち等は気にせず気軽に中に入る。
お頭と呼ばれているのは、他の三人と比べると一回り大きな男だ。
あとは俺がつけた男が一人と、リーダーの側近らしき男が二人。
俺は間近で彼らを見て……そのままはぁとため息を吐いた。
「かかってこい」
くいくいっと手を動かしてやると、挑発されたと思ったからか四人が顔を赤くしながらこちらに向かってくる。
彼らをまとめて処理するのには、十秒もかからなかった。
とりあえず金目の物を探したが、あまり大したものはなかった。
銅貨がじゃらじゃらと袋がギチギチになるくらい手に入ったが、銀貨の数は合わせて十枚しかない。
村の近くにある盗賊なだけのこともあり、あまり稼げてはいなかったのだろう。
腕もたいしたことなかったしな。
回収してから急いで馬車に戻る。
どれくらい時間が経ったかはわからないが、体感では一時間も経っていないはずだ。
全力疾走した俺を見たセルマは、大きく目を見開いていた。
「待たせたな、セルマ」
「い、いえ……」
なんでかわからないが、ちょっと怖がられているようだ。
変なことをしただろうか?
「返り血、返り血」
「ん……あぁ、なるほどな」
派手に暴れてしまったせいで、服やら背骨やらに赤黒い血がついてしまっている。
服の汚れもかなり派手なので、新調する必要がありそうだ。
差し引きを考えると、田舎の盗賊狩りはあまり美味しいとは言えなさそうだ。
「盗賊退治、話に聞いたからやったはいいものの……あまり楽しくはなかったな」
正直なところ一撃ともつ相手がいなかったため、ただ盗賊を潰すだけのしている作業になってしまった。
早くデカい依頼を受けて、張り合いのある相手と戦いたいものだ。
「あれじゃあただの弱い者イジメだ」
「ギルさんらしいですね」
「は、ハハハ……豪儀ですね……」
セルマが渇いた笑いをこぼしながら馬を出発させる。
どうやら相当怖がられてしまったようで、その後セルマは俺と話をする度にビクッと身体を跳ねさせるようになった。
これではまともにコミュニケーションを取ることも難しいため、後のやりとりはミーシャに任せ、護衛に専念する。
依頼主にも怖がられてしまったし、実入りも大したことはなかった。
こうして俺の初の盗賊退治は苦い思い出となり、俺は無事メニングスの街にたどり着くのだった――。
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また……新作を始めました!
不遇職『テイマー』なせいでパーティーを追放されたので、辺境でスローライフを送ります ~役立たずと追放された男、辺境開拓の手腕は一流につき……!~
https://kakuyomu.jp/works/16818093075907665383
自信作ですので、ぜひこちらも応援よろしくお願いします!
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