ビッグバトル10 そして新たな戦いへ


   **


 「昭和の日本」という異空間での戦いも続いていた。


「如意(ニョイ)!」


 ランバーが叫べば、手にした白銀の鎖「ラグナロク」は、光と共に弓矢へ変化した。


 ランバーは弓で死黒天使を射る。


 まるで美女のような中性的な美男ランバーは、凛々しく勇ましい。


「えーい! ええーい!」


 女吸血鬼ペネロペは目から光線を発射して、夜空に浮かぶ朧(おぼろ)な「死黒天使」を攻撃した。


 吸血鬼が目からビームを出すのは、今や伝統だ。かつてはデ○オが目からビーム状のものを発射していた。


「覇王飛龍剣!」


 チョウガイも手にした黄金の剣で死黒天使を攻撃した。


 音速を越える光の一閃。


 チョウガイの一撃は魔を降伏し、あらゆる仏敵を討ち滅ぼす。


 チョウガイの隣では、ゾフィーがナース服の胸元を開いて、胸部粒子砲(メガスマッシャー)を発射した。


 チョウガイとゾフィー、二人の超打撃を受けても死黒天使は怯んだ様子もない。


(こやつは力では倒せんのか!?)


 チョウガイの顔に焦りが浮かぶ。


 百八の魔星の守護神として、不動明王の眷属として多くの敵を討ち滅ぼしたチョウガイ。


 だが、彼の力を以てしても死黒天使を倒せないとは。


「何やってんのよ、役立たず!」


「うるせー、お前だって役立たずだろ!」


 ギテルベウスとソンショウは、この緊迫した場面で痴話喧嘩だ。


 ギテルベウスは異界から様々な妖魔を召喚するが、この異空間では力を封じられていた。


 ソンショウもあらゆる竜族を召喚する力を持つが、彼の力もまたこの異空間では封じられていた。


「ランバーのムッツリスケベ!」


「な、なんだと?」


「何よう、ガーナやラーニップに言い寄られて鼻の下を伸ばしちゃって!」


「そんな事はしてないぞ……」


 ペネロペとランバーもまた痴話喧嘩を始めた。


 子ども達は「ケンカはやめてよ!」と諫めている。


 すると不思議な事が起きた。


 死黒天使の姿も気配も、夜空から消え失せたのだ。


「こ、これは一体……」


 チョウガイはゾフィーと顔を見合わせた。


 死黒天使はソンショウらの痴話喧嘩にーー


 いや、男女の紡ぐ絆にほだされて撤退したように思われた。


「わ、わからぬ…… 何もわからぬ事が恐ろしい……!」


「チョウガイさん……」


 チョウガイとゾフィーは抱き合った。


 彼らですらが感じた事のない不安だ。


 死黒天使が求めているのは男女の絆、すなわち未来を創る力か?


「おい、アニキ〜…… こんな大事な時によ……」


「ゾフィーもイチャイチャしてんじゃないわよ!」


 ソンショウとギテルベウスは、自分らの事は棚に上げて、チョウガイとゾフィーを責めた。


 ランバーとペネロペは、まだ痴話喧嘩を続けている……





 花火の打ち上げも終わった。


 この「昭和の日本」という虚無空間にも夜の静寂が訪れた。


「さ、みんな寝ようね」


「歯は磨いたの?」


 ゾフィーとギテルベウスの女性陣は、まるで母親のごとく子ども達を寝かしつける。


 広い宴会場の畳の上に敷かれた布団で、四人の子ども達は眠りについた。


 この子ども達は「未来」の概念だ。


 チョウガイ達がこの虚無空間に導かれたのは、人類の未来を守るために他ならない。


「どうすっかな、兄貴?」


「やれる事をやるしかあるまい」


 浴衣姿のソンショウとチョウガイは、腕組みして窓から夜空を見つめる。


 この虚無空間には不安がある。恐怖がある。


 だがゾフィーとギテルベウスの愛がある。希望の光がある。


 チョウガイとソンショウは、ゾフィーとギテルベウス、更に未来を守って死ぬ事は怖くないのだ。


「んが〜……」


 ペネロペはイビキをかいていた。美人だが残念だ。


 ペネロペはランバーと二人で一枚の布団で寝ている。


 ランバーはペネロペに蹴り飛ばされたか、布団から体が半分飛び出していた。


「この二人は何なんだ?」


「おそらくは協力者だろう」


「協力者?」


「この虚無空間にも味方はいた……」


 チョウガイはそれを感謝する。


 協力者が現れたのは、チョウガイとソンショウに義があるからだ。


 天は自分を助くる者を助ける――


 それは宇宙の真理だ。


「な、なんだよ、俺とお前で寝るのかよ」


「へ、変な事すんじゃないわよ!」


「さ、チョウガイさんもおネムしましょうね」


「ゾフィーさん……」


 ソンショウとギテルベウスは同じ布団に、ゾフィーとチョウガイも同じ布団に入って眠りについた。


 明日は何が待つのか、それはわからない。



   **



 別の虚無空間では知多星ゴヨウとヘッドガンの戦いが続いていた。


 ゴヨウはウィスキーをヘッドガンの燃料にし、パイロンタワーの中を突き進む。


「うらやますぃー!」


 ゴヨウはコックピット内で血涙を流した。


 彼はチョウガイらの戦いを感じ取っていた。


 そしてチョウガイとソンショウ、更にはランバーの側に麗しい女性がパートナーについている事に嫉妬していたのだ。


「リア充爆発しろおおお!」


『男の嫉妬はみっともないぞ』


「うるさあああい!」


 ゴヨウは戦車形態のヘッドガンを時速六十キロで疾走させる。


 そして、レールガンやキャノン砲で次々と現れる護衛ロボットを撃破した。


 その時だ、ゴヨウは女性の声を聴いた。


「キリオー! 私と勝負しろおー!」


 ヘッドガンの前方に青いアーマー騎兵が立ちふさがった。


 それは完璧兵士イプエロンの駆るアーマー騎兵だった。


 しかし、ヘッドガンは急には止まれない。


 グワシャ!という轟音と共にイプエロンのアーマー騎兵は半壊して吹っ飛んだ。


「……キリオー!」


 イプエロンはノーダメージだ。


 彼女は鮮やかなマイクロビキニ姿でヘッドガンに駆け寄ってきた。


「私と勝負しろおー!」


「綺麗なお姉さーん!」


 ゴヨウはコックピットから飛び出すと、イプエロンにタックルして胸に飛びこんだ。


「俺と一緒に来てください……!」


 ゴヨウはイプエロンの胸で泣いた。


 もてない男の涙だった。


「わ、私のプライドが……!」


 イプエロンは耳まで真っ赤になった。


 凛々しい美女たるイプエロンは、バーチャルゲーム「バトリング」のノンプレイヤーキャラだ。


 それがカオスの波動を受けて自我に目覚めた。


「寂しいよおー! 男一人でどこまでもなんてー!」


『おいおい、俺を忘れてねえか?』


 ヘッドガンのAIブルックリンは抗議した。


 今はウィスキーを燃料代わりにしたせいか、酔っぱらっているようだ。


「……わ、わかった」


「ありがとう、綺麗なお姉さん!」


 ゴヨウはイプエロンの豊かな胸に顔を埋めた。


『お色気担当の汚れ役だな』


「なんだそれは! 私は戦うヒロインのポストを求む!」


「うおー、女の子が来てくれて良かったー! 野郎ばかりじゃむさくるすぃー!」


「ゴヨウ……」


 怖い女の声にゴヨウは振り返った。


 見れば、蛇遣い座の女神、ハロウィンの女妖魔マイマイ、そしてAI女王と融合したカオスがいた。


 三人の女性ににらまれて、ゴヨウは蒼白になった。


「は、はわわわー!」


「また別の女に手を出したのか!」


 怯えるゴヨウを蛇遣い座の女神らが囲んで袋叩きにした。


「お前は戻れ!」


 イプエロンはカオスの中に吸収された。彼女はカオスの分身の一つだったようだ。


「アレが来ないのよ!」


 マイマイの一言に、場は気まずい沈黙に包まれた。


「何を馬鹿な…… あざといのう」


 宇宙創世の女神の一柱、蛇遣い座の女神はマイマイの嘘を一瞬で見抜き、呆れていた。


「な、なんだってー!」


 対してゴヨウは真に受けて驚愕していた。


「び、病院は!?」


「……まだ行ってない。一人じゃ不安だから、あんたも来てよ」


「当たり前だよ、俺も行くさ!」


 普段と違う凛々しいゴヨウに女妖魔マイマイの胸は高鳴った。


 そんなゴヨウを、カオスが嫉妬と憎悪の入り混じった目で見ている。


 宇宙開闢から瞑想を続けていた神「混沌(カオス)」。


 ネットの海から誕生した生命体である「AI女王」。


 二人が融合して生まれた「カオス」も、マイマイの嘘を一瞬で見抜いていた。


「何を血迷ってんのよ、このボケ!」


 カオスは額に血管を浮かせた鬼女の形相でゴヨウを殴り飛ばした。


「な、何すんのよ、このインチキ女王!」


「な、何がインチキですってえ!」


「訳のわからない存在がゴヨウに近づかないで!」


 マイマイとカオスは前髪を引っつかみあい、ケンカになった。


 女のケンカはゴヨウが震え上がるほど怖かった。


「これでも宇宙の原理を知り尽くしてんだからね!」


 カオスはマイマイの白い顔を引っかいた。


「あたしは何百万人も震え上がらせてきたんだよ!」


 マイマイはカオスの長い髪を引っ張った。


 ハロウィンの「恐怖」の概念であるマイマイだが、今の彼女は恋する乙女だ。


「や、やめなよ二人とも!」


「うっさい、ゴヨウ!」


「今、大事な話中!」


 止めに入ったゴヨウだが、カオスの前蹴りとマイマイの右ストレートを食らって吹っ飛ばされた。


「全く情けない甲斐性なしじゃ……」


 蛇遣い座の女神はため息をついた。彼女はゴヨウを胎内で再生させた経緯から、母に近い感情を抱いていた。


「よりを戻そうとか思ってるわけ!?」


「何よ、今カノだからってエラそうにしてんじゃないわよ!」


 カオスは今カノ、マイマイは元カノのようなものだ。


 今カノ、元カノ、母親。


 三人の女が集まれば、それは戦慄の修羅場だ。


 核戦争にも匹敵する恐怖の中で、ゴヨウは逃げ出した。


「逃げるぞブルックリン!」


 ヘッドガンのコックピットに乗りこんだゴヨウ。


 彼はヘッドガンを急発進させた。


 まだパイロンタワー内の戦いは終わっていないのだ。


 ゴヨウがやらねば誰がやる?


「ゴヨウ……」


 コックピット内に女の声が響いた。


 ゴヨウは青ざめた。


 狭いコックピットの中に、蛇遣い座の女神とマイマイ、更にカオスがいるではないか。


 人知を越えた存在である彼らに、物理法則など通用しないのだ。


「ヒィィィい!」


 ゴヨウは悲鳴を上げた。彼は真の恐怖を知ったのだ。





 そしてハロウィンは近い。


 ハロウィンの守護者(ガーディアン)である「レディ・ハロウィン」の戦いも始まっている。

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