第36話 六十二日目 1

 深夜。新しい概念が適用される度にアナウンスが為されている時間帯にそれは起こった。

 服が、食料が、家が魔力となって消えていく。

 事はそれだけに終わらず、もっと大規模になっていく。

 道路、上下水道、電柱、田畑、装飾品、貨幣、パソコン、インターネット回線。

 人が生み出したありとあらゆる物が魔力となって消えていく。

 そして、残されたのは荒涼たる大地のみ。

 今日、人類は文化文明を失ったと言って良いだろう。


 夜中。裸にされて何もない大地に野ざらしになった人類。

 今まで隠れ潜んでいた人達も、嫌が負う無く外に放逐される結果になった。

 そんな彼等が目にしたのは、人類が永い年月を掛けて作りだした文明の利器が無くなった世界であった。

 そしてそこには、夥しい数の魔物が存在していたのだった。

 人類は思い知らされた。

 自らの無力さに。

 科学文明の敗北を。

 だが、人々には新しく付与された概念があった。

 この付与された概念のお陰で人類は眠ることをしなくても良くなった。

 HPが尽きるまで生きることが出来る様になった。

 だがそれが、こんな状況の人類にとって本当に幸いなことであったのかは、まだだれも判断がつきかねていた。

 いや、中には不幸だと嘆くものもいるだろう。

 逆にレベルを上げて装備を身につけた者達にとっては幸運だと思っている者もいるだろう。

 そしてそんな中佐藤はというと、夜の帳の落ちる中、気配探知で周囲を警戒しながら夜が明けるのを待っているのだった。

 人々が、無理矢理に裸にされ、外に放り出されるという異常事態に混乱している中で。

 一人、魔術で生み出した装備を身に纏い静かに寛いでさえいた。


 夜が明ける。

 朝日が差し込みそこに当たり前の様にあった光景が無くなっているのを目の当たりにした人々は、さらに混乱の坩堝へと落ちていく。

 だが、佐藤はそんなことはお構いなしに見通しが良くなり、目に見えているいつもの洞窟へと向かっていく。

 彼の歩みは迷いがなかった。

 道路もなければ、視界を遮る建物もない。

 そして、いつも彼がレベルアップに使っている洞窟に辿り着く。

 勿論そこには公園は存在していない。

 あるのは大地と隆起した洞窟の入り口と魔物達。

 佐藤はいつも通りにレベルアップを始めるのだった。

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