第3話
時間は夜へとまと戻る。
「へぇ、鉱石掘って宿代を稼いでたと」
「はい。俺みたいな何の特技も無い男にはぴったりな仕事と思いましてね」
ギルド連合へ赴き、受けた仕事について話しながら、モブータは女将さんと金の出所について報告がてら談笑をしていた。
「確かに、王都には血気盛んな冒険者たちがそこら辺にいるんだ。武具に関する鉱石はいくらあっても困らないってのが街の鍛冶師の考えだからね」
実際、冒険者が多いこの王都では装備の修理や新調の需要が多く、飲食店に次いで武具屋、鍛冶屋が軒を連ねている。モブータが今日行ってきた鉱石採掘の現場は着いたらすぐに有無を言わさず「あそこの鉱石を掘ってこい!」と指示されるくらいだった。
「採掘してる人たちの数も凄いものでしたよ。鉱石源の多さにも驚きましたが、それ以上に同じ仕事をしてる人たちの数にもビックリしましたよ」
軽い笑みを浮かべながら、モブータはブーツの紐を結び直していた。
「ん?どこかに行くのかい?」
「ちょっとこれからこいつを…」
ニヤケ顔でモブータは人差し指と親指で作った輪っかを口元でクイッとする動作を女将さんにしてみせた。
「ま、アンタもそういうのが好きなんだね。ベロンベロンで帰ってくるのはやめておくれよ?」
右手をヒラヒラと動かす軽い動作で、了解の意を示す。
宿屋の扉を開き、カランと鳴る軽いベルの音に見送られ、モブータは目的地へと歩き出す。
──異世界に来たなら、夜に行くとこって言ったら、決まってるよなぁ…!
夜の闇の中に沈んだ城下街。大通りに面した一角に、ランタンの灯りを提げた木造りの店からは大きな笑い声が賑やかに漏れていた。
所謂、街の酒場。数多くのロウソクと天井の簡素な造りのシャンデリアが店内を明るく写し出しており、いかにも屈強な男たちが樽のジョッキを仰いでいた。
その時、酒場の入り口がゆっくりと開き、一人の男が店内へと入って来た。
「いらっしゃいませーー!」
店員の女の子の元気な声がそちらへと向けられると、男衆の目線は険しく今しがた入って来た男へと向けられた。
一つのテーブル席へと案内された男は、自分に向けられている多くの視線に気付きながら、軽く鼻を鳴らして椅子に腰掛けた。
「ご注文は?」
営業スマイルを向ける店員に、男は注文をする。
「…エールを一つ」
一瞬の静けさ。その後に店内は大きなため息を吐く男たちで溢れ返った。
「何さね、一人客は珍しいかい?」
どうやら何かの期待に応えられなかったのか、モブータは不満を表情と一緒に漏らしていた。
「いやいや、ここらじゃ見かけた事の無い顔が入って来たもんでな。ちょっと期待しちまったってもんなんだ」
冒険者だろうか。筋肉を余す事無く見せつけるような上半身の装いの男はジョッキを持ちながら、モブータの席へと好印象な物言いで寄って来た。
「そうかい。実は最近この王都に来たばっかなんだ。良ければお手柔らかに歓迎してもらえると助かる」
店員がテーブルにモブータが頼んだ酒のジョッキを置いて去った後、筋肉の男は豪快に笑ってみせた。
「はっはっはっ!!そんじゃ!新しいこの仲間に!」
男がジョッキを掲げると、モブータも取っ手を持って杯を掲げる。周りの冒険者らしき者たちも飲みかけのジョッキやグラスを持ち上げる。
「乾杯っ!!!」
その一言で、大きな歓声が外へと漏れる音量で店内に響いた。
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