3話

 セエレのツッコミに対する話しぶりは、普段の彼女からは想像ができなかった。

 何しろ彼女は、魔界ではいつもクールでポーカーフェイス、口数が少ない魔王の部下の一人というイメージがあったからだ。しかし実際は『お笑い』が好きで、おしゃべりな女性だった。

 

 彼女は時おり手元の本のページをめくりながら、ツッコミについてウヴァルとリーゼに熱弁した。

 どれくらいの熱心さかというと、昼ごろだった魔界の空もいつの間にか夜になっていたくらいだったからだ。どこからかフクロウが鳴く声が聞こえた。

 リーゼはテーブルの上に乗っている皿を眺めた。そこには、もうクッキーの姿はなかった。次にティーポッドの中を見た。すでに中身は空だった。


「~なんです。それはそれは、素晴らしいの一言につきません!」


 まだまだセエレの話は続くようだ。リーゼは、彼女の話を聞きながら、お腹をさすり小さく身震いした。グーと小さく音が鳴った。次に隣に座っているウヴァルを見た。男はぼんやり空を眺めていた。


「私は感動のあまり号泣しました……! 今すぐ人間界に行って、弟子入りしたいくらいだったのです!」


 セエレは、まだまだツッコミの素晴らしさについて語る気満々だった。しかし、ある者の一声でそれは止まった。


「リーゼロッテ姫。どこにもいないと思えばここにいましたか」


 ずしんと辺りに響くような重い鎧の音が聞こえる。その声の主は、まだ語り足りない女と今にも椅子から転げ落ちそうになっている男を交互に見る。やがて、彼は呆れたようにため息をついた。


「まったく、お前たち……。姫は人間だぞ。いつまでも外にいれば、魔界の夜の寒さに凍えるのだからな」


 そう言うと鎧の男は、少女に近付いてブランケットを羽織らせた。


「ありがとう、サロスさん」


 リーゼがお礼を言うと、男はにこりと微笑んで頷いた。セエレは直立し、ウヴァルはいつの間にか地面に横になっていた。


「すみません……。ツッコミを語るあまり、すっかり……」

「はれッ……? ワタシはワイバーンレースを……」


 鎧の男は、片手でウヴァルの首根っこを掴むと持ち上げた。


「姫、温かい食事と風呂の準備が出来ています。さあ、城の中へ」

「うん、わかったわ。ありがとう」

「セエレ殿も」

「はい」


 サロスに担がれながら、ウヴァルはふと思った。相変わらずこの男は、もふもふだと――。何しろこの鎧の男は、狼系の獣人だったからだ。 

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