report:

■35日目

 新たな水脈を発見。

 28日目以降、予定進路を大きくずれているため正確な座標が特定できない。測量係の推測を基にした予測座標をここに記す。

 樹海内の水脈としては珍しく、北から南へと下っている。これまで発見されたものとは別の流れと推測される。また樹海内には南へ向かって傾斜する地点があることも示している。水質は良好。加熱工程をへて飲料への利用も可能であり、遠征中の水問題は一応の解決をみた。

 食糧の確保については未解決。水脈内には魚と思われる生物も確認されたが、捕獲用具が不足。本日中には生物を捕らえることができなかった。

 捕獲作戦に従事した団員らは、生物が共食いする光景を目撃しており、私たちが知る“魚”とは異なる可能性があることに留意。捕獲作戦への参加が“魚”からの襲撃による負傷へ繋がる恐れがある。

 他方、探索範囲において食用可能な植物は見つからない。26日目までに採取した食糧、遠征時にキャンプで確保した携帯食糧にも限りがみえており、隊が全滅する危険性を孕んでいる。炊事係の報告では新規ルートを開拓できる限界は残り3日。ルートを外れていることを加味すると2日以内に帰還を始めるべきとの意見が出ている。

 当初の目標である樹海内の廃都市は発見できていない以上、このままでは一ヶ月以上にわたった遠征は失敗と評される。隊全体に焦りが広がっているのを実感する。


■36日目

 隊は帰還用のルートを見失わないよう水脈を辿り南へと降りる。

 昨夜の野営地近くに数本の水脈が交わる小さな池を発見。水脈内で発見された生物が池で交流し、別の水脈へと移動していくことを確認。水脈内では活発に泳いでいる姿が確認されていたが池では動きが緩慢になるらしい。捕獲係の団員らにより十数匹の捕獲に成功。

 いずれも外観は魚同様に鱗で覆われており、見た目は魚に近い。しかし、水から上げた以降も鳴き声をあげ、団員らが首を落とすまでの15分以上、呼吸を維持していた。解体、調査の結果、構造は魚とほぼ同じであるが、頭部頭蓋内に数センチサイズの人型器官を発見。魚状の身体は当該人型器官が水脈を移動するための騎乗用ボディであるとの考察がなされた。

 ボディについては各種検査の結果、食用可との判断に至る。食糧確保のため網を張り、合計40匹の魚を確保。解体、調理のうえ保存食とする。


■40日目

 引き続き水脈を辿りながら下る。昼過ぎに先行隊が樹海を越えた旨の報告アリ。遠征前に寄せられた情報通り、樹海の下に街が広がっているとのこと。

 夕刻。全部隊が先行隊に追いつく。報告の通り、樹海は水脈を中心に大きくえぐれて谷ができており、その先、遥か下方には市街地が確認できる。

 私たちが守る市街と異なり、その市街地には壁がない。北側は樹海が広がる断崖に囲まれているが、南側は派兵物がなく開けており見晴らしの良い土地。建物は樹海内で発見されるビルと同様に灰色のコンクリートで出来ている者が多く、“イベント”後の時間経過と共に外壁塗装が落ちていったことが伺える。

 住人の有無、イ形他危険性物の有無については不明。市街地までは数百メートルの標高差があるため、新たに野営地を設営。明日以降、隊を分けて下降、探索を開始する方針となった。


■43日目

 先発隊が探索から戻る。市街地までの安全なルートを確保。ルートにはフラッグを設置したとの報告を受ける。

 また、先発隊が下降中で遭遇、保護した民間人3名をキャンプに収容。スーツ姿の女性、パーカーを着たうり二つの顔をした兄弟。樹海内の安全な市街は蔵先だけであるが、彼らの装備で蔵先からここまでたどり着けるとはおおよそ考えられなかった。

 隊には所属していないが、蔵先にも平均を越えた身体能力や危機管理能力をもつ〝超人”は存在する。彼らであれば私たちのような装備を整えることなく、軽装で樹海を駆けまわることができる可能性は否定できない。

 しかし、保護された民間人らが“超人”なのであれば、我々が保護する必要に迫られるほど切迫することはないだろう。おそらくは下の市街地から樹海へ上ってきたものと思われる。

 隊長以下、幹部数名で聴き取りを行ったとのことだが、安全性は確保されたとの説明のみが行われ、聴き取りの詳細は開示されなかった。

 民間人3名についてはキャンプ内の傷病者用テントにて療養することになり、本隊は明日よりフラッグを頼りに本格的な市街地探索を始める予定。


■46日目

 市街地内は通信環境が悪く、市街地に下りた各部隊、水脈に設置したキャンプのいずれとも連絡がつかない。定期連絡用の集合場所近くを探索しながら定期的に集合場所の様子を確認することとした。所属不明の隊員が3名現れたことを確認。

 3名とも水を求めてそのまま樹海へむかったとの報告あり。

 集合場所から戻ってきた同僚曰く、帰還した隊員はいずれも“顔が変わった”、“衝突は危険”などの言葉をうわごとのように繰り返していたという。未知なる感染症などによる健康状態の悪化が疑われる?


■50日目

 この市街地は放棄されたものであるはずだ。

 放棄された結果、何かがここに棲みついている。

 それとも棲みついた結果、放棄されたのだろうか。

 あれらは“衝突”を求めている。知らない種だ。

 いや……私たちは、あれらを知っている。ずっと前から。


■52日目

 犬を見つけた。


■54日目

 集合場所にて市街地から第2次隊が到着との連絡あり。

 至急、樹海側のキャンプに戻れとの指示。


■55日目

 私たちはこの街におきた“イベント”を正しく捉えられていなかった。

 この目でみたものだけを信じろ。私たちは檻のなかにいた。

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