四、成り行きって恐ろしい



転移してきた場所は、丸い広場だった。

 直径で百メートルはありそうな大きさなのに、皆が避けて通るものだから誰も居ないし、不便そうだなと思った。

 けれどそれは、私たちみたいな人が転移の出口に使うためなんだろう。


 そこから伸びる真っ直ぐな大通りを、皆で歩いて……行くには半日はかかりそうだと思っていたら、おっきな雀がお迎えに来てくれたの。

 正直に言うと、私は大の雀好き。

 普通の雀が一番可愛いと思ってたけど、乗れるサイズの雀も滅茶苦茶可愛い。


 ずっと撫でていたい。抱きしめても大丈夫な雀なんて最高すぎる。

 魔獣の一種で、魔族には懐きやすいので飛べない人は個人で飼っていたりもするみたい。

 私も飼いたい……。

 この時の記憶の半分以上は、この巨大雀で埋め尽くされているんだけど、魔王さんの部下のお爺さんも来てくれてた。

 二本角の生えた、(ハゲの)司教っぽい服のお爺さん。



 竜王さんを見ては驚き、私を見ても驚いて「あなた様は……」と意味深発言をしたくせに、「ともかくお城へ」と言って、簡単な挨拶を済ませて誤魔化された。

 何か隠した……?

 でも、私はこの世界に来たばかりだし、誰かと勘違いでもしているんだと思う。お爺さんだし。


 それよりも雀ちゃんは、触って幸せ、乗ってもあったかくてふわっふわで、ともかく極上に可愛い。

 そうそう。雀ちゃんに乗るのに、魔王さんの刃がむき出しなのを気にしていたら、(ハゲの)お爺さんが鞘と帯剣ベルトをくれた。好々爺という感じだけど、レベルは70と出ているから、この人も相当な強さなんだと思う。

 魔王さんの直属っぽいし、それもそうかと思いつつ……やっぱり雀ちゃんに心を奪われたまま、お城のどこかに到着。



 名残惜しむ間もなく、魔王さんの本来の体とご対面するらしく――。

 どこもかしこも巨大なお城の中を、しばらく連れられた。

 巨人用のお城かな?

 かといって、竜王さんがそのまま入るには小さいから、単純にスケールが大きいだけなのかもしれない。中ですれ違う人は皆、普通の人のサイズだったから。


「こちらでございます。なかなかに苦労しましたが、女神の封印も全て解除してありますゆえ」

「よくやった。俺も感慨深いものがある……」

「さ。サラ殿。魔王様を、こちらのご尊体の上に置いてくだされ」

 色々なところに目移りしている間に、本来の魔王さんの体の前に誘導された。


 この広い部屋は、何らかの儀式が執り行われているんだろうという装飾や魔法陣が施されていた。

 その中央は、祭壇状に小高くなっていて、大きなベッドが置かれている。

 一段ずつ上がって行くと、魔王さんの体が見えてきて――。


「こ、こここここれ、バラバラですけど……」

 四肢と体、首がそれぞれ切断された状態だなんて、想像もしなかったから声が震えた。

 こんなの、もう死んでるとしか思えない。


「問題ない。俺を鞘から抜いて、胴体の上に置くんだ」

 ――自分が跳ねられて死んだことを、不意に思い出した。

 どんな状態だったのかは、車の下敷きだったから見てはいない。

 見てないけど……まるでそうした遺体のようなそれを見て、私は気が動転しているらしい。

 手が震えて、真っ直ぐに引けないものだからカチャカチャと鳴るばかりで、剣が抜けない。



「おい。焦らすんじゃない。早くしてくれ。三十年も封じられていたんだぞ? 俺の身にもなってくれ」

「すす、すみません」

 なんとか抜こうとして、無理な力を込めてしまったせいか、最後の方で刃先が私の指を掠めた。

「痛っ」

「あっ! 待たれよ! 血を拭ってから置いてくだされ!」

 痛かったけど、(早く乗せてあげないと)と思って、そのまま御遺体――ではないらしいのだけど、その上に乗せた。


「ああっ! なんということを…………。いやまぁ、それはそれで構いませんかの」

 お爺さんの言葉は、乗せた後で意味を理解した。

 でも、別に大丈夫そうな感じで良かった。急に言われても、私もテンパってしまっていたのだし……しょうがないよね?



「小娘……貴様、俺に血の契約をねじ込むとはな。どうなっても知らんぞ」

「……えっ?」

 バラバラだった魔王さんは、すっかり全部繋がった状態で体を起こした。


 改めて見ると、ものすごくイケメンでびっくり。灰色の髪と灰色の瞳。褐色でスマートな筋肉質の体。髪をかき上げた腕の長さから見るに、身長もかなり高いんだと思う。

 その男らしい姿に見惚れつつも、何かやらかしたのかと思って、不安で身を震わせながら次の言葉を待っていると……。


「解除できない妻の契りだ。俺は貴様に血をやっていないから、貴様だけが一方的に、俺の妻になったということだ。まあ、せいぜい尽くしてくれることだな」

 ……えっ?

「ど、どういう……」

「俺のことを気に入ろうが気に入るまいが、お前はもう、俺のものだということだ」

「ふぁ……」



 一連の流れを思い返すと、確かに私はやらかしたらしい。

 …………でも、考えようによっては。

 魔王でイケメン高身長。かっこいい筋肉に、俺様スタイル。

 でも、上から目線なのに割と優しい(守ってくれたしたぶん)のは得点が高い。

 むしろ私には大好物……ときたら、これはこれで、アリなのでは?


 権力者だろうし、竜王さんにも勝ってしまうような人だし、そういえば遊んで暮らせるだけのお金もあるっぽいこと言ってたし――。

「あ、あの。ふつつかものですが……」

「……なん、だと?」


「よ、よろしくお願いします。魔王さま」

 ちょっと、ヘンな妄想してしまって気持ち悪い笑顔を浮かべてしまってるかもしれないけど……。

「お前、肝が据わっているな。なかなか気に入ったぞ」

 顔が熱い。なんか、状況に酔ってるみたいな、妙なテンションになってる。


「さ、サラです。よかったら、名前でお呼びください魔王さま」

「ああ……そうだな。ではサラ、よろしくな」



 そこまで静観していた(ハゲの)お爺さんが、いきなりおっきな声を出した。

「おおおおお! これまで頑なに奥方を娶らなかった魔王様が! お、おお……おめでとうございます魔王様! 王妃様!」

 小躍りしながら万歳を繰り返して、お爺さんは本気で喜んでいるらしい。


「うるさいぞ爺! 今日はまだ忙しいんだ。次はこいつの、サラの鏡映しがあるだろうが」

「鏡映し?」

「さすがに、なんの検査もなく受け入れるわけにはいかんからな。お前が何者であるのか、魔泉の鏡で調べるんだ」

「あぁ……たしかに、ですね」

 私でさえ、今の私が何なのか分からないから、むしろありがたいと思う。


「嫌ではないのか?」

「だって、私自身も本当に、何も知らないですから」

 ただ、本当は少し休みたいけど。


 事故して、落ちて、竜王さんとの戦いに巻き込まれて、それに妻契約とかしちゃって。

 頭の中はぜんぜん整理できてないし、何なら魔王さまが今腰かけてるベッドにダイブして寝たいくらい。

 だけど、鏡映しもすごく気になる。

 ……あと少しくらいなら起きていられるハズだから、もう少しだけ頑張れ、私。




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