第75話 襲撃者
ジュリアには何とか勝つことができたが……一難去ってまた一難。
黒いローブの人間がコロシアム内に降りてきた。
ローブの人間達が降りてきたと同時に、観客席とコロシアムとの間には魔障壁が張られており、黒いローブの人間以外は全て遮断され、もう誰も立ち入ることはできなくなっている。
この魔障壁は神龍祭の運営側が張ったものなのか、それとも黒いローブの人間の仲間が張ったものなのか。
何にせよ、観客席で見ていたティファニーやクラウディア、ギーゼラのすぐの助太刀は期待できない。
俺とジュリアで対応、もしくは時間稼ぎを行わないと駄目になった。
「ジュリア、動けるようになったか?」
「え、ええ。【ハイヒール】のお陰で動けるようになりました」
「なら、生き残るために一緒に戦ってくれ。敵の数は八人……いや、十人か」
ジュリア側の選手入場口から、二人の黒いローブを着た男達。
そして俺側の選手入場口から、二人の人間が近づいてきている。
「十人? あと二人はどこにいるんですか?」
「俺の後ろだ。多分だが……認識阻害ローブを身に付けている」
ということは、グルーダ法国の連中で間違いない。
……いや、このローブの人間達と、俺の背後にいる人間は別組織の可能性もあるか。
段々と混沌な様相を呈してきたが、俺とジュリアがやることはシンプル。
この十人を蹴散らすだけだ。
「まずは黒いローブの人間達をぶっ倒す。本気で殺しに来るから、くれぐれも注意だけはしてくれ」
「分かりました。エリアスさん、背中は任せました!」
認識阻害ローブを纏っている二人は動かずにいるため、まずは黒いローブの人間達を仕留める。
ジュリアと背中合わせの状態となり、魔法を唱える準備を行う。
「せーのの合図で魔法を打ち込もう」
「分かりました」
剣を構えたまま、ギリギリまで近づいてくるのを待つ。
相手は相当な実力者。
不意を突くためにも、ここは複合魔法を使う。
「せーの――【
「【ストーンブラスト】」
黒い雷撃が地走り、俺の正面にいる四人の黒いローブを着た人間に襲いかかる。
一見、そこまでダメージの大きくなさそうなこの魔法だが……直撃した瞬間、一気に大炎上する。
四人中三人を仕留め、水魔法で対処して残った一人には一気に距離を詰め、袈裟斬りを放った後――首をはねて絶命させた。
やはり殺さなくていいという制限がないと、戦うのは非常に楽。
俺サイドの人間は仕留めたため、すぐにジュリアのサポートに向かう。
ジュリアの現在の状況は、【ストーンブラスト】が不発に終わったようで、二人相手に斬り合いを行っている状態。
二人相手でも問題なく立ち回れていることから、ジュリアの基礎スペックの高さが窺えるが……。
四対一の人数不利、実力もそこまで大きく離れている訳ではない中、殺す気で来ている黒ローブの人間と、殺さずに制圧しようとしているジュリアとの差は大きい。
後方に待機している二人の人間は魔法を唱えようとしていることからも、剣と魔法を両方扱えるというジュリアの利点が潰されているからな。
ここは助太刀しないと、ジュリアは数の力で潰される。
そう悟った俺は、遠距離からの魔法でサポートを行おうと思ったのだが――。
ここで静観していた認識阻害ローブを纏った二人が動き出した。
「残念! サポートはさせませーん!」
「お前の相手は私達」
聞き覚えのある声。
認識阻害のローブを身に付けていたことからも想像はしていたが、どうやら一人はシアーラ。
もう一人は声だけでは分からないが……裏の席次についているものだろう。
厄介極まりないが、まず優先させるのは――ジュリアのサポート。
「多重複合魔法――【
「【フレイムバースト】」
「【ロックストライク】」
シアーラ達を完全に無視し、ジュリアへのサポートを優先させたため、背後から二つの魔法が俺に直撃した。
魔法を食らうことは初めてだったため、想像していた以上の痛さに驚くが……ジュリアを襲っていた四人の黒いローブの人間には大ダメージを与えることができた。
毒が仕込んである細氷が突き刺さったことで、時間経過と共に毒が体を蝕むはず。
これで、ジュリアの方は気にしなくても大丈夫だ。
「へー! 自分の命を犠牲に皇女様を助けるなんてかっこいいじゃん! ――でも、かっこつけても死んだら意味ないのよ?」
「ささっと攫おう。時間をかけると人が来る」
「分かってるわよ! でも、ふふふ……上手くいったわね! アーシュラの奴、ご丁寧に魔障壁まで使ってくれたから誰にも見られずに攫えたわ!」
体が燃え、【ロックストライク】で手足がぐちゃぐちゃになったためか、勝ったと思って色々と大声で話している二人。
アーシュラといえば、デイゼンの一回戦の相手でグルーダ法国の第六席次。
会話の内容から察するに、黒いローブの人間もグルーダ法国側の人間。
表と裏で別々の任務で動いていて、この二人が出し抜いたって感じなのか。
俺を攫おうとしていることからもこの二人の目的は俺で、アーシュラ達の目的は皇女の暗殺。
このまま攫われて、目的を全て聞き出しても面白そうだとは思ったが、流石に痛みが酷くなってきた。
「重要なことをペラペラと喋って大丈夫だったのか? 複合魔法【
ぐっちゃぐちゃだった俺の体は、一瞬にして元通りに回復。
【
本当にローゼル様々だな。
「…………は? な、何が起こったのよ!?」
「……分からない。目を離した隙に傷が塞がってる」
「回復魔法? いや、こんな馬鹿げた回復魔法見たことない――って、そもそもこいつは魔術師で……剣も扱えて、回復魔法も使える……?」
「警戒していたけど、その遥か上。……だから、調べた方がいいって言った」
「誰がこんな化け物だって思うのよ! 何なの、こいつ! クリスティアネとか、ギルバーンに匹敵する化け物じゃない!」
おお、知っている名前が出てきた。
クリスティアネは表の第一席次で、ギルバーンは裏の第一席次。
特にギルバーンは思い出深いキャラだが……今は関係ないことを考えている時間はない。
「どうする。一度立て直す?」
「魔障壁のせいで逃げられない! ……やるしかないのよ!」
「逃がすつもりはないぞ。シアーラには一度逃げられているしな。女には手をかけたくないのが本音だが……二度も殺されかけたら、流石に見逃せない」
俺が生きるためにもこの二人はここで仕留める。
剣を向け、左手では魔法を練る。
「シアーラ、やるしかないわ。私が後方から超級魔法を放つから――時間を稼ぎなさい」
「分かった。あまり時間は稼げないから早く」
俺が二人に向かっていくと、シアーラが一歩前に出て魔法を唱え始めた。
殺すと決めたけど……やっぱり可愛いよな。
色白で銀髪のクール美人キャラ。
完全な敵キャラでありながら、人気がある理由が分かる。
こんな時に何を邪な気持ちを抱いているんだと言いたくなるが、可愛いものは可愛いのだから仕方ない。
「【アイスランス】」
殺したくないという気持ちを抱きながらも、俺はシアーラが放ってきた【アイスランス】をかわしてから――俺は【
シアーラは体の糸が切れたように倒れ、俺はそんなシアーラを無視して、背後にいる女を斬りに向かう。
まずは【
斬った瞬間に女らしき人間は、砂のように崩れ落ちた。
これは――【マッドパペット】。身代わりの魔法。
シアーラに前を行かせ、自分は【マッドパペット】で身代わりを作ってから逃げたって感じか。
選手入場口から逃げていく女の後ろ姿が見える。
まだ……追いつくか?
俺が女を追おうとしたその瞬間、選手入場口に逃げていった女の上半身だけがふっ飛んできた。
代わり出てきたのは――ティファニー。
その顔は怒りに満ち満ちており、頼もしさと怖さが半々の……何とも言えない気持ちだ。
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