第36話 伝説の剣


 馬車へと戻った後はすぐにエアシャイトの街を出発し、ハーゲンブルクの街にやってきた。

 今日の目的地はこのハーゲンブルクであり、かなり大きな街なだけあり目当てのアイテムがいくつもある。


「エリアス、随分とご機嫌だな」

「ずっと来たかった街だし、エアシャイトと比べても賑やかだからテンションが上がっている」

「ふーん、意外と子供っぽいところもあるんだな。それで……この街でもまた別行動なのか?」

「ああ。途中からは別行動させてほしいんだが、まずは一緒にご飯を食べに行こう。朝から何も食べていないしお腹空いているだろ?」

「いや? さっきの街で適当なものを買って食ったからな」

「えっ、食っちゃったのか? じゃあもう食べられないとか?」

「食べられはするが、お腹は減ってない」


 なんとも微妙な回答。

 ハーゲンブルクには有名なステーキ屋があり、そこのステーキをティファニーと食べたかったのだが……自由行動する前に食べないように伝えておくべきだったな。


「ステーキが食べたいんだけど……食べられないか? ティファニーが食べれないなら、俺一人で行ってくるんだけど」

「確かに腹が減っていないと言ったが――ステーキなら食べる。肉は流石に別腹だ」

「肉が別腹なんて聞いたことないけどな」


 そんな会話をしつつ、俺はティファニーと一緒にステーキを食べに行くことにした。

 


 着いたのは、ハーゲンブルクの外れにある小さな店で、その店名は『竜肉牧場』。

 名前から分かる通り、ドラゴンの肉を扱っているステーキ店。


 『インドラファンタジー』でも実際にあった店だったが、食事というシステムがなかったから店内に入れもしなかった。

 それでも人気店だということは描かれていたため、ハーゲンブルクに来たら絶対に行きたいと思っていた店。


「ドラゴン肉の専門店か。ドラゴンの肉は食べたことがないな」

「ティファニーも食べたことがないのか。意外だな」

「ったく、エリアスは私を何だと思っているんだ。ドラゴンなんて普通に生きてたら早々食べないだろう。それで、この店ではどんなドラゴンが食べられるんだ?」

「いわゆる伝説のドラゴンじゃなくて、バトルリザードとかレッサードラゴン、ベビーワイバーンとかの比較的倒しやすいドラゴンの肉らしい」


 これは事前にグレンダールの街で調べた情報。

 上記のドラゴンはダンジョンとかにも普通に出てくる魔物のため、入手もしやすいのだと思う。


「へー。意外とちゃんとしたドラゴンじゃないか。……食べたばかりなのにお腹が減ってきた」

「凄い胃袋だな」

「あまり女性にそういうことを言うな」


 ティファニーに軽く叱られた後、一緒に店内へと入る。

 店の中はカウンターだけであり、席の真ん前に鉄板が置かれている――高級ステーキ店のような造りになっていた。


 俺達はワクワクしながら席に着き、一番値段の高かったベビーワイバーンのステーキを注文。

 店主はすぐに俺達の前で肉を焼いてくれ、目の前で焼かれていくステーキに釘付けとなる。


「――や、やばいな。本気で美味そうだ」

「俺は食べなくても分かった。このステーキは絶対に美味い」


 そんな感想を言い合っていると、ようやくステーキが焼き終わったようで皿に盛りつけられて提供された。

 ソースもお洒落にかけられていて、A5ランクの国産和牛と遜色ない――いや、それ以上にサシが入っていて美味そうな見た目。


 俺とティファニーは一度見合い、頷いてから同じタイミングでステーキを口に入れた。

 …………美味すぎる。確実に今まで食べたステーキの中で一番美味い。


「口の中が幸せだ。こんなに美味しい肉は初めてだぞ」

「俺もだ。こんなに美味しいステーキ……いや、美味しいものは初めて食べた」


 流石は『インドラファンタジー』でも、有名だった店。

 これは今度、クラウディアにも教えてあげたい店だ。


 かなりの量があったステーキだったが、俺とティファニーはあっという間に完食。

 料金は金貨五枚とそこそこしたが、オールカルソン家の感覚でいったら安い方。


「はぁー……。本当に至福の時間だった。エリアス、この店を紹介してくれてありがとう」

「付き合ってもらったのは俺の方だし、俺が礼を言う立場だ。ティファニー、ありがとう」


 互いに固い握手を交わしてから、俺とティファニーは再び別行動を取ることとなった。

 エアシャイトの街の時と同じように、俺はメモした場所を巡ってアイテムを回収していき、無事に全てのアイテムの回収に成功。


 ハーゲンブルクの街で手に入れたアイテムは三つであり、一つはエアシャイトでも回収した旧王国の金貨。

 二つ目はマジックイヤリングという装備品であり、魔法を使う際の魔力消費を抑えるアクセサリー。


 魔法の扱いに苦戦しているギーゼラが装備すれば、必然的に試行回数を増やせるようになる。

 ギーゼラに魔法を習得させると決めた日から、このアクセサリーを入手することは決めていた。


 そして最後のアイテムが精霊樹の弓。

 これは拾うアイテムではなく、ハーゲンブルクの裏カジノで入手できるアイテム。


 カジノも攻略法があるのだが……時間がないのと、イカサマを疑われて揉め事になったら面倒くさいという理由から、オールカルソン家の私財を使ってチップを購入し、精霊樹の弓と取り替えてきた。

 もちろんクラウディアにあげる弓であり、扱いやすい精霊樹の弓を使えば、すぐに次のステップへと移行できるようになるはず。


 移動やら何やらで大変だったが、それに見合うだけのアイテムは手に入れることができた。

 俺のためのアイテムは入手できていないが、美人二人の喜ぶ姿が見られれば俺はそれでいい。


 そして最後は……キールの街でティファニーへのプレゼントを手に入れる。

 これはエンゼルチャームと同じく、簡単に拾えるものではないのだが、入手方法は分かっているからな。

 今からティファニーが喜ぶ顔を想像しながら、俺は早足で馬車へと戻った。



 ハーゲンブルクブルクの街を出発し、少し迂回しながら戻る道中にあるのがキールの街。

 このキールの街には伝説の剣が眠っている。


「今回は一緒に行くって話だが……一体どこに行くんだ? というか、今日は色々とどこに行っていたんだ?」

「それは内緒。着いてからのお楽しみということで」


 俺はティファニーを連れ、キールの街の裏手にある使われていない井戸へとやってきた。


「この井戸の下に行く。ティファニーは誰か来ないか見張っててもらおうと思ったんだが……どうせなら一緒に来るか?」

「服が汚れそうだし行きたくはないが……ついていく。井戸の下に何があるか気になるしな」

「分かった。それじゃ俺が先に降りるから、合図を送ったら降りてきてくれ」


 そう伝えてから、俺は一人先に垂れているロープを使って下へと降りる。

 ――おおっ! ゲームと変わらず井戸の底は乾いており、開けた場所となっていた。

 俺はすぐにティファニーに合図を出し、降りてきてから一緒に井戸の奥に向かう。


「一体ここはなんなんだ? エリアスは初めて来た街と言っていたよな? なんでこんなところを知っているんだ?」

「色々と情報を集めたからだ。キールの街の使われていない井戸の下は進めるようになっていて、その奥には――伝説の剣があるって話だ」


 俺が言葉を発し終えたタイミングで目の前に如何にもな台座と、その台座に刺さっている剣が見えた。

 日の光がちょうど差し込んでいて、どこか神々しさすら感じる。


「……ほ、本当に剣が……さ、刺さっている!」

「引き抜けたら貰っていいらしい。ティファニー、試してみるか?」

「エリアスが見つけたのに、先に私からでいいのか?」

「もちろん。俺が引き抜いたとしても、ティファニーにあげるつもりだったし」

「そういうことなら――先に試させてもらう」


 ティファニーは好戦的な笑みを浮かべながら腕捲りをし、気合い十分な様子で台座の剣の下に歩いていった。

 それから数回深呼吸をした後、本気で剣を引き抜きにかかったが――台座に刺さった剣はびくともしていない。


「う、ぐ、ぐ……! な、んだこの……剣! 固すぎるだろ……ッ!」


 それから何度か挑戦したが、怪力の持ち主であるティファニーでも力では引き抜くことができなかった。


「だ、駄目だ……! 引き抜ける気がしない。きっと剣の柄を模しただけで、剣じゃないんだと思うぞ」

「俺も試していいか?」

「ああ、エリアスもやってみろ」


 ティファニーと場所を変わり、今度は俺が引き抜く番となった。

 ちなみにこの台座は、古代魔方陣によって封印がされている。


 力業ではどうやっても引き抜くことはできず、この剣を引き抜くためには――魔法を唱える必要があるのだ。

 それも四属性の魔法を唱えるという、普通にゲームをプレイしているだけでは気づかない不親切仕様。


 ただ仕様さえ知っていれば、簡単に入手できる剣となっている。

 俺は四属性複合魔法を唱えると、台座が光り輝いて反応し、その瞬間に剣を引き抜くことで――簡単に剣を入手することができた。


 この剣は聖剣クラウソラスという剣であり、全武器の中でも五本の指に入るほどの高い攻撃力を誇る剣。

 ただしデメリットとして非常に重く、さらに両手剣ということで俺ことエリアスにはいらない剣。


 俺は片手剣にフリーの手で魔法を使うスタイル。

 両手剣は使わないし、機動力が必要な中で重い剣は邪魔なだけだからな。


「うおおお! ほ、本当に引き抜いた……! エリアス、一体どうやったんだ!?」

「普通に抜いただけだ。それより、この剣はティファニーにプレゼントする」

「はへ? ほ、本当にいいのか? 見れば分かるが……普通の剣じゃないぞ? その剣からは圧倒的な力を感じる」

「だから、ティファニーに使ってもらいたい。受け取ってくれないか?」

「い、いや……でも、流石に……」


 珍しく遠慮し、しおらしい態度を見せているティファニー。

 性格的にすぐに受け取ると思ったんだが、聖剣の凄さが分かる分遠慮してしまっているのかもしれない。


「本当に受け取ってほしい。ティファニーは俺の師匠であり、これからも俺の先を歩いて指導してくれないと困るからな」

「エリアスの先を歩く……か。そういうことなら――遠慮なく受け取らせてもらう。この剣でエリアスに危険が生じた時には命を張って守ると誓う。私はエリアスの師匠であり騎士だ」


 心臓に拳を当て、最敬礼してきたティファニー。

 その姿は様になっており、つい見惚れてしまうほどに格好良い。


「ティファニーが俺の騎士となってくれるなら、一生安全だな。俺の背中を守ってくれ」

「ああ。命に変えても必ず守る。――エリアス、本当にありがとう。今まで受け取ったものの中で……ふふ、一番嬉しい」


 そう言って破顔したティファニーの表情は、心臓が大きく跳ねるほど非常に可愛く……俺はニヤけてしまうのを誤魔化すため、背を向けて井戸の外を目指して歩きだした。

 背中を刺されて殺されるはずだった相手から、命を懸けて背中を守ると言われた嬉しさ。

 それからティファニーとの仲がグッと近づいた喜びにうち震えながら……俺はグレンダールの街へと戻ったのだった。


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