第二章

第27話 授業


 最初の授業は歴史の授業。

 『インドラファンタジー』の歴史についてを教えられ、勉強に関しては何の対策もしてこなかったのだが、そこそこ知っていた内容だっただけに授業には余裕でついていくことができた。


 単純に好きなゲームの歴史についてを教えてもらえるのは楽しいし、実技以外も楽しめそうで一安心。

 数学や国語もザッと教科書を見た限りでは中学レベルだし、歴史も大丈夫だったとなれば座学で困るようなことはない。


 授業の方は余裕だと分かり、安堵していると……例のいじめっ子五人組が近寄ってきた。

 初っ端の休み時間から動いてきたか。

 ローゼルは置いておいて、ギーゼラと話がしたかったのだが仕方がない。


「急に囲んで何か用か?」

「何か用か――じゃねぇよ。お前、何勝手に学校に来てるんだ?」

「ていうかー、あんたエリアスなの? 見た目変わりすぎっしょ!」

「んねんね、キモいぐらい変わってる!」

「俺はエリアスだし、何で学校に通うのにお前達の許可を得ないといけないんだ?」


 オールバックの男に面と向かってそう言い返すと、いきなり拳を出してきた。

 何の躊躇もなく手を出してきたことには驚いたが、動きはあくびが出るほど遅い。

 

 こんなパンチを受けているようでは、師匠に怒られてしまう。

 俺はオールバックの男の拳をギリギリで躱し、その腕を取ってへし折った。

 教室内にゴギリという不快な音が鳴り響き、その瞬間にオールバックの男は大声で叫ぶ。


「うぐあアアアアあああ! いグァあああ――くない……?」


 折ると同時に【ハイヒール】を行ったため、痛みは一瞬だっただろう。

 何ともなっていない腕を動かしながら、困惑した表情を浮かべているオールバックの男。


「お、お前——アレック君に何をした!」

「別に何もしていないが。……へー、そのオールバックの男はアレックというのか」

「エリアス! お、覚えておきなさいよ!」


 アレックと呼ばれた男を心配そうに囲み、そそくさと何処かへ行ってしまった。

 有名な学校でもないし、いじめっ子と言えどやはり大したことはなさそうだ。


 だからこそ……この学校に、ギーゼラとローゼルがいることが気になるんだけどな。

 ちらりとギーゼラの方を見てみるが、結構な騒ぎになっていたのにも関わらずまだ寝ている。


 ローゼルの方はというと、俺の目線が合うなりわざとらしく視線を逸らした。

 何かよだれを拭くような仕草をしており、色々と気になるが……こっちから声は掛けたくない。


 そこからは誰にもちょっかいを掛けられることはなく、クラスの中で浮いたまま午前の座学の授業が全て終わった。

 昼休憩は顔を見せてくれたクラウディアと共に、学食でお昼ご飯を食べた後、いよいよ午後は実技の授業となる。



 体育館代わりに建てられているであろう、闘技場のような形をした広い場所。

 B組の全員が集められており、剣闘士っぽい雰囲気の男が前に立っていた。


「知っていると思うが、午後は剣での模擬戦を行う! 一学期である程度の序列は決まっていると思うから、それに沿ってトーナメントを作った! ベスト4以内に入ったものはフレデリック先生が直々に指導してもらえるから頑張ってくれ!」


 何をやるのか知らなかったが、トーナメント形式で模擬戦を行うのか。

 シードが四人で計二十八人による、負けたら終了のトーナメント戦。


 シードの四人はオールバックの男アレック、その取り巻きの七三分けの男、そしてギーゼラ・クラウゼ、最後はアリスことローゼル・フォン・コールシュライバーの四人。

 転校生でありながら、シードに組み込まれているということは、学校側はローゼルということに気づいているのだろうか。


 色々と分からないことだらけだが、とりあえず模擬戦は楽しみだな。

 剣での模擬戦はティファニー師匠としかやったことがなく、他の人がどれくらいの強さなのか単純に気になる。


 師匠との模擬戦での勝率が三割なことを考えると、ギーゼラ以外には負けないと思うが……こればかりは実際に戦ってみないと分からない。

 それで俺のトーナメントの位置はというと、アレックと同じブロックであり、俺が一度でも勝ったらアレックと戦う感じか。


 肝心の初戦の相手はというと――スーザン・アノジー。

 名前だけでは誰だか分からなかったが……。


「うわー……。あーし、一回勝ったらアレックとだ。最悪すぎる」

「わっはっは! 残念だが、スーザンは二回戦止まりだな。……ただ、一回戦は確実に勝てるぞ。相手はあのエリアスだからな」


 この会話でアレックの取り巻きの一人である、金髪女子が初戦の相手だということが分かった。

 今の会話から、力関係がアレック>スーザンだということが分かったし、まぁまず負けることはない。


 アレックがさっきのパンチをわざと遅く打ってきた可能性もあるが、十中八九本気の一撃だったからな。

 そうなると、気にしなければいけないのは隣のブロックで、未だにチラチラと俺を見ているローゼルが準決勝での相手。


 順当に行けば決勝はギーゼラであり、中々に面白そうなトーナメントだ。

 ギーゼラと当たる前に転けないよう、入念にストレッチを行っておこう。


 闘技場を四分割にし、一気に四試合行うことでサクサクと試合が行われている。

 シードのない俺はすぐに試合となり、先ほどの剣闘士っぽい人が審判を務めてくれるらしい。


「次の試合は……エリアスとスーザンだな。二人とも武器を持って構えてくれ」


 俺は木剣を構え、スーザンは木製の薙刀を構えた。

 もちろん薙刀と戦うのも初めてだけど、まぁ何とかなるだろう。


「ルールは有効打を三回入れた方の勝ち。制限時間内に決まらなければ、その時点での有効打の数が多い方。それも同じだった場合は積極的だった方を勝ちとする。それじゃ準備はいいか?」

「痩せて調子に乗ってるみたいだけど、エリアスがどういう立場だったか思い出させてあげっから!」

「いつでも大丈夫だ」

「それでは――始めっ!」


 開始の合図と共に薙刀を振り上げたスーザンだったが、リーチの長い武器を振り上げてしまったらもうおしまい。

 俺は一気に間合いを詰め、焦ってモタモタとしている間に手首に打ち込み、そのまま胴からの面。


 開始僅か一秒ほどで有効打三発を浴びせ、驚くほどの早期決着で試合は終了。

 本当なら思い切り打ち込んでやりたかったが、流石に女子相手には手加減はした。

 【ヒール】で回復させたとしても、女の子相手に本気の一撃を浴びせたらモテないだろうからな。

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