第35話

35



 さてと、夫のことや不倫相手のことなど諸々考えずに過ごす為にも

以前から考えていた小説を書くという作業を始めることにしますか。


 そう意気込んだものの、漠然と小説を書くということだけ決めていた

けれど どんな話にするのかは全く考えておらず早々執筆は不調な出だしとなる。


 なかなか良いアイディアが浮かばず頭を捻る日々の中、意外な人から

電話連絡が入る。



 伸之の父親で重治しげはるからだった。



『弁護士を通してということだからマナー違反になるがこれが最後なので

許してくださいよ。

 今回の報告は弁護士同士で確認後、百子さんへ連絡が行くと思うので、

同じ内容になると思うが私からも百子さんへ謝罪したくてね。


 今回の息子の不始末、申し訳ない。


 息子は最初からあちらとの再婚を望んでいたというわけでもないの

だが、私が勧めたこともあって、今回のような選択をしたということ

です』




『どうして……』


 私はそんなに致らない嫁でしたか、と問い詰めそうになった。



 昨年義母が右手首にヒビが入った折には、子供たちに留守番をさせて

病院までの送迎や家事の手伝いにと、出来る限りの精一杯をしたというのに、義父に自分の誠意は届かなかったというのか!



『その代わりと言ってはなんなのだが、伸之にはスッテンテンになっても

まとまった額を譲るよう言いつけてあって、それ相当のものはお渡ししようと思っている。

 

 あなたへの慰謝料1000万円、ふたりの子らの養育費に一人

月額80000円として一括で1150万円、土地家屋名義変更、

財産分与1臆4000万円』



 義父が定時してきた額は悪くはない、というか破格の額だと思う。

 しかし、ここで礼を口にするのはおかしいよね。


『承知しました』


『ほんとに、すまんかったね。

 ただ、来期会社を息子に譲ることにしたのでね、仕事のできる

伊達百合子さんの手が必要になる。


 だから百子さんに不満があってのことではないし、あなたが相手の女に

負けたなどと思う必要もないよ。


 伸之のことだから、この辺のことをきっとあなたにちゃんと

伝えてないだろうと思いましてね』



 ふ~ん、これが義父なりの私への気遣い? 心配り? 

だと言いたいわけなのか。ふっ。


『はい、そのような経緯があったとは、存じ上げませんでした。

 わざわざご連絡いただきありがとうございます。お義父さんも

お元気で』



『ン、あなたもな。じゃあ……』



 気前よくポンっと手切れ金を出してくれる意味がここにきて

クリアーになった。


 この先、息子と新嫁とで会社を盛り上げ、ジャンジャン儲けるという

取らぬ狸の皮算用があるからなんだと。



 この頃義父の会社の業績は飛ぶ鳥をも落とす勢いで夫が跡を継いだとして、現状維持でも夫の年収は軽く一億くらいはいくのではないだろうか。


 何故にこんなことを知っているかといえば、以前何かの時に夫から

聞いたことがあったからだ。



 それで慰謝料やら養育費なども満足のいく額をポンと出すことに

したのだろう。


 この話を知った後、不思議と悩みに悩んでいた小説のこと、何を

書くのかがすんなりと決まった。



 そして義父から連絡をもらった2週間後、夫との離婚協議が進展し、

夫の婚外子が小学校に上がるまでには離婚届に判をつくと約束。



 違反した場合は貰う予定の財産分与を返却すると明記し、私たちの離婚に向けての取り決めは成立した。

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