セーブデータ

「女ってズルいな。女は上書き保存でさ、男は追加保存なんだって」

そう言ってあなたはイタズラっぽく笑ったね

青空

セミの声


独り暮らしのちっちゃな机の上に

ふたり分のコップが汗をかいて並んでた


あなたはいつも「電気代がもったいないっ」ってエアコンも点けずに

窓を思いっきり開けて

そのくせ昼間っからゲームばかりしてた


わたしが「彼女をどこかに連れてくくらいの優しさはないの?」と文句を言いながら玄関横のキッチンに立つと

ゲームオーバーになったらしいあなたが後ろから腕をまわしながらそう言ったんだ


キッチンの横のちっちゃな窓を開けると

ふたりの狭い部屋をほんの少し涼しい風が通り抜けた


季節は過ぎて


些細なケンカでふたりの物語は終わった


よくある話


本当につまらない話


そしてまた季節が行き過ぎて


わたしは髪の色も着る服も変わった


歩く街の景色も少しずつ変わってて


それなのに


あの日と変わらないあなたをみた


ほっそりとした首筋


お気に入りのスニーカー


わたしが誕生日にあげた腕時計


はにかんだ笑顔


でも


並んで歩くのはわたしの知らない女の子だった


あなたはもう新しいセーブデータを作ってて


なのに


新しい物語を始めることの出来ないわたしはこうして立ち尽くす


通り向こう


気付きもしないで歩いていくあなたを見送りながら


「男ってズルいな」って


ひとり呟いた

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