美少女奴隷の魔法戦記~銃と魔法と美少女と~
ニノケン(ニノ前 券)
第1話 悪魔
崩壊した駅の構内。
壊れた自販機からエナドリとジュースがいくつか崩れ落ち、ATMの割れた液晶が点滅し、いくつかの蛍光灯は落ちて白い粉がこびりついた破片を散らばらせていた。
いつも光っている看板も今は消灯している。
曇り空でろくに入ってこない外の光だけが、ただ周りを照らしていた。
足元を覗いてみる。そこには血まみれのナイフが一本。
「どこを見ているの?」
そう言われて目の前を見つめなおすとそこにはセーラー服の美少女が一人、かすかに笑みを浮かべながら、僕の首元に銃口を向けていた。
「何一つ成功してくれない。いや成功することが許されないのだ。贔屓と経歴だけが物を言うこの世界で数のうちに入れてもらうためには、自分の意見とか、信念を主張する勇気とか、個性とか、性格と言われる物を真っ先に全部捨てなければならないのだから。僕はまだ何者でもない。大いなるゼロだ。」
今から約100年も前の世界で生み出された言葉だが、今思えば、この世界はその時から全く変わっていない。
この世界において自分が干渉できる部分は1割ほどしかなく、9割はすべて運だ。
にもかかわらずバカは努力をすれば報われるなんて妄言を信じ続けている。
そんなことは絶対にないのに。
6時間の無意味な授業を終えた教室。周りから騒ぎ声は聞こえず、聞こえるのは僕がキャンパスノートの五線譜の上でシャーペンを躍らせる音だけ。
すこしだけ窓の外を覗いてみる。雨は降っていないものの、空は灰色の雲が厚く張り、窓からは一本の太陽光すら入ってこない。こんな天気では、僕の心も曇り空のようにどんよりと暗く、重くなってしまう。
教室の蛍光灯はそんな僕の心を照らすことなんてなく、ただ機械的にまやかしの光を教室内にばらまき続けてきた。
やがてノートの端まで書き終わると、僕はシャーペンを筆箱に入れた。
「じゃあ今日は、これで終わりで。」
「起立。」
その一言で僕は椅子を押して立ち上がる。
「礼。」
体を前に倒す。
「ありがとうございました。」
学校が終わった。
周りは一気に動物園のようにがやがやと騒がしくなる。
「よし、一緒に帰ろう?」
「うん!」
「帰ったらゲームしようぜ!」
皆それぞれの仲間と思い思いの会話をしながら教室を離れていく。
だが、そんなことなんて僕には全く関係ない。
群衆が去った教室の中、僕は開かれたノートを空に掲げてつぶやいた。
「ついに完成した…!」
そこに書いてあるのは学校の授業なんかよりはるかに価値のある崇高なコードだった。ほかのだれのものでもない、僕が作り出した。
「あとはこれを家に帰って旋律に乗せるだけ!」
僕はこのノートをしまい、教室を出た。
「ははははっ。ただくだらない世界で、何かを待って、誰にも見られず立ちすくむ。
日が沈み、闇が覆い、ただ歩く。何かを探して。
きっと間違っていない。この道は。」
ありきたりなものじゃない、ただ自分の感性をのせたメロディを口ずさみながら、白塗りの壁が続くだけの単調で面白みのない廊下を歩いていた。一瞬前の人と目が合った。そいつは僕を見るときまり悪そうに前を向きなおす。僕に話しかけようとするものは、いない。
ああ、なぜ誰も僕のことを理解してくれないのだろう。この退屈な世界を僕がこんなに素晴らしいメロディで彩っているというのに!
「うるさい!」
「うっ!」
急に誰かに殴られた。
僕は驚いて前を見る。
「いい加減に黙れよカナト。耳障りなんだよ!」
「は?」
同じクラスの東条だ。
いつもうるさいと言ってくる。
正直なところこいつのほうがうるさい。
「カナトの音楽とか才能ないし、誰も興味ないんだよ。
もうお前無価値だからしゃべらないでくれる?」
「なっ!」
ふざけるな。
僕自身を馬鹿にされるのは最悪構わない。
だが、僕の好きなものを馬鹿にするやつは絶対に許さない!
「無価値なのはお前だ!お前はさっさと失せろ!」
その時
ドゴッ!
「がっ…。」
東条が僕のみぞおちを拳で殴った。
内臓まで一撃が響く。
そして崩れ落ちた僕に東条が何度も蹴りを加えた。
「黙れよ。勉強も真ん中から下、運動も真ん中から下に価値なんてないんだよ。ま、どっちも上の俺には一切関係のないことだけどな。」
東条がそう吐き捨てて去っていった。
「頭の良さと知性の違いが分からないクソが…!」
僕は壁を思いっきり蹴り飛ばした。
ゴンッ
コンクリートの鈍い音がむなしく空に響いた。
「何故だ。なぜ誰もこの僕のことを理解してくれないんだ!」
僕は崩れ落ちながら寄りかかった壁に向かってそうつぶやくしかなかった。
東条の言うことは正しい。
昔からそうだった。何もかもうまくいかない落ちこぼれで、誰からもろくに褒められたことなんてなかった。
それでも、毎日どうにかして生きていた。
でも、中二のころ、どんなに勉強しても伸びない点数と荒廃していく世界を前に何もかもどうでもよくなった。
ガチャッ
僕は何も言わずに玄関を開けた。
「今日もいないのか。あのクソは。」
朝朝食を食べているとき、父親から引きずり降ろされて一緒に倒れた椅子を眺めて、カナトはただ荷物を片付けた。
父親は基本、家族のことを顧みなかった。
ただ働いた金で何か買ってくれたことは一回もなかったということだけは記憶している。
ただ孤独で話し相手もいない退屈な時間。
でもそんな僕にも唯一といえる楽しみがあった。
「ふう。」
僕はキーボードに指を置いた。
学校で書いたコードを一つずつ引いていく。
誰にこびたものでもない、僕一人だけの曲。
何よりも素晴らしい曲だった。
だが、
「何故だ。何故伸びない!」
結局伸びることはなかった。
もちろん、僕が崇拝する素晴らしいアーティスト達と比べたらこのカナトの曲なんて足もとにも及ばないのだから、そう言った人たちより曲が聞かれないのは仕方のないことだ。
だが、周りにいる僕と同じくらいの活動実績しかない奴らや、曲ではなく顔や資本を売っているアイドルとかいう歌手もどきより、自分の曲が売れていないのが何よりも我慢がならなかった。
僕は台所に向かった。
そしてオレンジジュースをコップ一杯にそそぐ。
そしてそれをすべて飲み干すと
バリィィィィンッ!
飲んだコップを床で叩き割った。
「何故だ!なぜ僕は誰からも褒めてもらえないんだ!
世界は、この世界はおかしい!何かが狂っているんだ!」
僕は台所にある食器を手あたり次第に叩き割った。
「もういい、こんな家なんている価値もない。
こんな家は出るに限る。」
僕は食器を次々とゴミ箱に放り込んでいく。
そして、キャンプ用に買ったナイフを手に取った。
「外にいるとき、何かの役に立つかもしれない。」
僕はナイフをカバンにしまい込んだ。
そしてそのほかにもいろいろなものを詰め込む。
「さて、憂さ晴らしにどこかに出かけるか。」
帰ってくるつもりは一切ない。
あいつが帰ってきてくれと叫ぶまでは。
そんなこんなで僕は駅をふらついていた。
前はこの駅も結構家族と来ていたが、中学になってほとんど行かなくなった。
「そうだ、ちっちゃいころになってたあの駅ピアノはまだあるかな」
そう思ってきてみたのだ。
行く当てがあるわけではない。
世界は狂っている。
どうせどこに行ったって僕の居場所はない。
そして、駅ピアノがあったはずだった場所に行ってみた。
「な、無い!」
そこには駅ピアノの代わりにこんな張り紙があった。
「長らく愛されていたこの駅ピアノですが、残念ながらお客様からの『騒音が不快』との苦情の声により、撤去されることになりました」
ふざけるな!
音がうるさいだと?ノイズはお前らの苦情だろうが!
僕はそう思いながら張り紙をはがして破った。
そして柱に蹴りを三発ぶち込むと、ため息をついて散策を再開した。
その時
ドォォォォォォォォォォン!
突如空気を破裂させるようなくぐもった爆発音が響いた。
「何だ?何が起きたんだ?」
僕は何が起きたのか気になって、爆発音がするほうに走る。
そこにいたのは。
「誰か、助けてくれ!」
火事が起きた場所から駆けまわる人たちの姿だった。
おそらく、普通なら僕はここで逃げていただろう。
だが、僕はそこら辺の凡人とは違う。
「おお…。」
何故爆発が起きたのか興味が出てきて、逃げる愚民どもとは反対方向に走っていった。
そこには
「だれかああああ!助けてくれ!」
黒いローブをまとった集団と、その集団に次々と虐殺されていく人々だった。
「何だ、これは…!」
「おっ、一人度胸があるやつが来てるじゃねえか。」
僕を見た黒いローブの男の一人が低い声で言った。
「そんな度胸のあるやつは殺すより、魔物にでもなってもらったほうがためになる。」
バン!
男が僕に向かってライフルを一発発砲した
その刹那、僕の体に銃弾が食い込み、破裂して体内を破壊した。
「んっ!」
僕は体中に身に覚えのない感覚を受け、膝から崩れ落ちた。
開いたままのリュックからナイフが零れ落ちる。
それをつかんで反撃しようとしたが、無駄だった
「ふつうお前は俺の膨大な魔力に耐えられずに死ぬか、人の心と理性を失いただ悪意と感情のままに暴走する化け物になるかなんだが、もしかしたら魔力にうまく適合して何か凄いことになるかもな。ま、せいぜい頑張れよ。」
何が頑張れだと思いつつも、銃弾を受けた僕は反撃をすることはできず、ただ土の上を這うことしかできないトカゲのように地面に突っ伏すしかなかった。
やがて男はどこかに去っていく。
「あ゛あっ!」
目から血が流れ、体中に痛みを感じながら七転八倒苦しむ僕。
僕は通路をはい回り、外に出た。
「ここで・・・、僕は・・・、死ぬのか?」
今まで僕は死ぬことを何とも思っていなかった。
どうせ生きていたって最悪な日がまた一つ増えるだけだと思っていた。
だが、いざそれを目の前にすると、死に対する恐怖とはまた違う、別の感情が込み上げた。
「なぜだ、なぜ僕が死ななければならない!」
薄れゆく視界の中、僕はただそう思った。
クソみたいな性格のやつが報われて、顔がいいだけのやつも報われて、ただ人をだますことしか知らない奴も報われた。
報われなかったのは、僕のような何もできない弱者だけだった。
どうしてっ!
このままこの世に未練を残しながら死んでいくと思っていた。
この時までは。
ふと上を見上げると、そこには東条が立っていた。
(まさか、僕のことを助けに来てくれたのか?)
そう思って僕は手を差し伸べる。
だが、
「ようやくうるさいやつが一人いなくなってくれたな。せいせいするぜ。」
東条は僕を一発蹴ると、唾を吐いてその場を去っていった。
奴だけじゃない。
多くの人が僕の存在を認知しながらも誰も手を差し伸べず去っていった。
「はっ。ははははははっ。
そうか。結局死ぬときも僕は一人なのか。
誰にも手を差し伸べてもらうことなく、死んでいくのか。」
視界が薄れいていく。
何も見えない。何も感じない。ただ、周りの足音だけが聞こえる。
ふと、何かに照らされたような気がした。
僕はゆっくりと目を開ける。
東条がこちらを一切気にすることなく歩いていた。
「許さない。許さない許さない許さない。俺を助けようともせずたださげすんだあいつも、僕を認めようとしなかったこの世界も!」
僕はナイフをもって東条のほうへ走った!
「なっ、お前!」
グサッ!
固い感触とともに、金属と肉が触れ合うような鈍い音がした。
その瞬間。
「あっ」
ドォン!
刺された東条が光をまき散らしながら爆発した。
「逃げろおおおおおおおおお!」
周りの人間が僕から逃げていく。
「動くな!」
どこからか叫び声が響く。その声に、無意識にナイフを投げる。
ヒュン!
ナイフが空を裂いて、黒い閃光を放ちながら突き進む。
ドォン!
ナイフが当たった瞬間、爆発が起き、あたり一面が煙に包まれた。その中に、ナイフだけが無傷で残った。
反射的に警察の方へ駆け寄る。ナイフを拾い、手に握りしめる。
目の前にいた市民が、すぐに視界に入った。
僕はその市民の胸をナイフで突き刺す。
刃が肉を切り裂く音が、狂気のように響いた。
目線に市民が入るたび、次々と、何度も何度もその音が響き続け、そのたびに悲鳴が上がった。
気がつくと、駅は静まり返り、僕の周りには大量の刺殺体を除いて誰一人としていなくなっていた。
「はっ!」
一瞬、正気を取り戻した。周りを見渡すが、誰もいない。全てが静寂に包まれている。
だが、脳裏に残るのは、鮮明な記憶。あの鈍い感触、肉を切り裂く音、逃げる足音、悲鳴、そしてうめき声。
「僕が、、、殺した、、、」
何をしていたのか全く理解していなかった。
でも、わかる。僕は完全になってしまった。殺人犯に
手ががくがくと震えて、ナイフを取り落としてしまった。
「あれだけの大規模テロが起こった割には、静かだね。」
どこからかのような、透き通った声が聞こえた。
振り返ると、
「君はどうしてここにいるの?」
そこには、一人の少女が立っていた。
頭にかぶったトリコーンからはみ出る、つやのあるハーフサイドテールにされた髪。
幼さの残る顔立ちに、艶かしさや威圧感が残る不思議な瞳をしている絵画のような美少女が、肩に銃をぶら下げて立っている。
僕は周りを見渡した。
足元には、今しがた人を殺すのに使ったナイフが転がっている。それを拾おうとした瞬間、
「どこを見てるの?」
彼女が銃を僕に向け、牽制の声を放った。
「それを拾ったところで、勝ち目があると思う? ナイフを投げる準備をしている間に、私は君を撃つことができるんだよ?」
「やめろ、、、来るな!」
とっさに近くに転がっていたリボルバーを拾い、少女に向けた。
弾が入っていることは確認済みだ。
だが、相手のほうがわずかに構えるのが早かった。
バァン!
バァン!
お互いの銃弾が閃光を描きながら飛び交う。
そして、
お互いの弾がぶつかった。
だが、
ボン!
爆発音が鳴り響いたその瞬間、僕の胸を銃弾が貫通した。
「うっ!」
膝から崩れ落ちる僕。
「心配ないよ。死ぬことはないから。でもその代わり、少し動けなくなったよね。」
「っ!」
言われたとおりだった。
僕の体が凍ったように硬直化し、指一本自分で動かせない。
「さて、君はここで処理されようか。」
駆除?
ってことは僕、殺されるのか?
僕は必死で体を動かそうとした。
だが、マヒした体はそううまく動いてはくれない。
だが、どうにかリボルバーを握ることはできた。
「へえ、あれだけ魔力を消費したのに、まだ余力があるんだ。面白いね、君。」
「うるさい!」
僕が必死に立ち上がったその時。
バン!
奴の拳銃の銃口から紫色の閃光が走った。
閃光が僕の首元を貫き、僕は膝から崩れ落ちた。
その瞬間
僕を中心として魔法陣が展開し、その周辺に6つほどの杭が顕現した。
「研究途中の魔法だったけど、かなり効いているようだね。」
「うっ!」
僕はただ金縛りのように動かない体のまま時が過ぎるのを待つしかなかった。
だんだん抵抗する力もなくなっていく。
「君、名前は?」
「カナト・・・。」
「へえ。それじゃあカナト。今日から君は、私の奴隷だ。
君は私の手となり、足となり、犬となって、忠実に働いてくれたまえ。」
「うっ…。」
僕の体が勝手に動き、彼女の前に跪いた。
無理やり体を動かされているというより、「こうしなければならない」という重圧がかかっているような感じがする。
まるで
「うん。いい子だ。これで君は私のモノだね。それじゃあ、お手。」
僕は差し出された彼女の手をとった。
「うん、よくできたね。それじゃ、いこっか。奴隷君。」
「は、はい。」
嫌だ、と思いつつ僕は彼女に手を引かれていく。
「じゃあさっそく命令。しばらく目をつむっていてね。」
「は、はい。」
僕は目をつむった。
「眠れ。」
次第につないだ少女の手の体温が遠のいていく。
意識もだんだん遠のいて…
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