第3話 方向性の衝突
健太は、より多くの人に自分たちの作品を認めてもらうために、商業的なアプローチを取り始めた。
「美咲、もっと一般受けするような作品を作らないと、生活も成り立たないよ」
健太は美咲を説得しようとした。
しかし美咲は、首を横に振る。
「私は、お金のために芸術を売り渡したくないの。純粋に自分の表現を追求していきたい」
美咲の想いは揺るがなかった。
「でも現実を見なきゃダメだ。俺たちはプロの画家なんだから」
健太の言葉に、美咲は顔をしかめた。
「プロだからこそ、芸術に真摯でいるべきよ。健太さんの考え方は、私には受け入れられない」
二人の溝は、決定的なものになっていた。
◇ 別々の道
話し合いを重ねたが、健太と美咲の意見は平行線をたどるばかりだった。
「こんなに考え方が違うなら、もう一緒に作品を作るのは無理だね」
健太が重い口調で言うと、美咲も同意せざるを得なかった。
「私も、健太さんとは別の道を歩むべきだと思う。これ以上一緒にいても、お互いのためにならない」
美咲の言葉は、諦念に満ちていた。
こうして、二人の共同プロジェクトは解消された。アトリエで最後の整理をしながら、健太は美咲に言った。
「それでも、君の才能は本物だ。これからも芸術家として頑張ってほしい」
美咲は、小さく頷いた。
「健太さんも、自分の信じる道を進んでください。応援しています」
別れ際、二人は固い握手を交わした。
◇ 健太の挫折
美咲との別れ後、健太は商業的な作品作りに邁進した。
「売れる作品を作らなきゃ」
そう自分に言い聞かせ、流行を取り入れた作風に挑戦する。
しかし、新作発表会は惨憺たる結果に終わった。
「これじゃあ、健太らしさがない」
「商業主義に走りすぎだ」
厳しい評価が下された。
落ち込む健太に追い打ちをかけるように、生活も再び困窮し始めた。
「くそっ、何で俺はこんなにダメなんだ…」
健太は自分を責めた。かつての理想も、今は遠い夢のように感じられた。
◇ 美咲の成功
一方美咲は、健太との別れ後も純粋な芸術の追求を続けていた。
「私は、自分の信じる道を進むわ」
そう心に誓い、没頭する日々。
そんな中、美咲に大きなチャンスが訪れた。国際的なアートコンテストに出品した作品が、見事に高い評価を受けたのだ。
「この作品には、作者の芸術に対する真摯な想いが表れている」
審査員の言葉に、美咲は涙を流した。
コンテストの受賞を機に、美咲の評価は一気に高まった。個展の開催も決まり、画集の出版オファーも舞い込む。
「私の芸術が、こんなに認められるなんて」
美咲は夢見心地だった。かつて健太と二人で夢見た世界が、今は手の届くところにあった。
美咲は、健太との別れは正しい選択だったのだと感じずにはいられなかった。
(続く)
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