二人の画家、分かれた道

藤澤勇樹

第1話 夢見る画家

健太は、28歳の情熱的で理想主義的な若き画家だ。彼はアートの世界で成功を夢見て、故郷の静岡から東京へと上京してきた。


「東京なら、もっと自分の才能を発揮できるはずだ」

と健太は考えていた。


上京初日、健太は安アパートの一室で目を覚ました。狭い部屋に荷物を広げながら、これからの生活に思いを馳せる。


「まずは個展を開いて、自分の作品を世に知らしめることだ」

健太はそう心に決めていた。


アパートを出ると、朝の東京の喧騒が健太を迎えた。人々がせわしなく行き交う中、健太は小さなアトリエを見つけた。


「ここなら安く借りられそうだ」

と思い、健太は足を踏み入れた。アトリエの主人は年配の画家で、健太の情熱を感じ取ったのか、快く部屋を貸してくれることになった。


「よし、これで制作環境は整った。あとは作品を生み出すだけだ」

健太は心の中でつぶやいた。彼はキャンバスに向かい、画筆を手に取った。東京の新しい生活に胸を躍らせながら、健太は思い描く世界を絵の具で表現し始めた。



◇ 最初の挑戦


東京に上京して数ヶ月が経ち、健太は初めての個展を開くことになった。小さなギャラリーを借り、自信作を並べる。


「この個展で、自分の存在を知ってもらえるはずだ」

そう信じていた。


開場初日、健太は緊張しながらギャラリーに足を踏み入れた。しかし、訪れる人はまばらで、熱心に作品を見てくれる人はほとんどいなかった。


「なぜだ?俺の作品のどこが悪いんだ?」

健太は自問自答を繰り返した。


数日経っても状況は変わらず、健太は落ち込んでいった。


「この調子じゃ、家賃も払えなくなるな…」

そう考えると、不安で胸が押しつぶされそうになった。


個展最終日、健太はギャラリーの片隅で佇んでいた。そこへ、一人の中年男性が近づいてきた。


「君の作品、なかなか興味深いね」

男性は健太に話しかけてきた。健太は顔を上げ、目を輝かせた。


「本当ですか?」

「ああ、でも君はまだ発展途上だ。もっと精進が必要だよ」

そう言い残すと、男性は立ち去っていった。


健太は唇を噛みしめた。

「精進…か。そうだ、俺はまだまだ未熟なんだ。もっと努力しないと」


個展は思うような結果には終わらなかったが、健太は新たな決意を胸に、アトリエに戻っていった。



◇ 芸術か生活か


個展が終わり、現実の厳しさを痛感した健太は、生活のためにアルバイトを始めることにした。コンビニエンスストアの夜勤だ。


「夜働けば、日中は絵を描ける。両立できるはずだ」

そう自分に言い聞かせていた。


しかし、夜勤の疲れは健太の体に蓄積していった。アトリエに向かっても、以前のようにはスムーズに筆が進まない。


「くそっ、思うように描けない」

健太はカンバスに向かって唸った。


ある日、健太はアルバイト先で同僚の話し声を耳にした。

「芸術家なんて、お金持ちの道楽だよね。俺らには無理な世界だ」その言葉が健太の胸に突き刺さった。


「いや、俺は本気なんだ。絵を描くことが俺の人生なんだ」そう反論したかったが、言葉は口をつぐんだまま、健太は作業に戻った。


アトリエに戻った健太は、布団の上に倒れ込んだ。


「芸術と生活、両立するなんて無理なのかな…」

天井を見つめながら、健太はぼんやりと考えた。疲れ切った体を起こし、キャンバスに向かおうとするが、筆を取る手が震えた。


「でも、俺は絵を描くことを諦められない。どんなに困難でも、この道を進むしかないんだ」

健太は震える手で、再びキャンバスに向かった。芸術と生活のバランスに苦しみながらも、健太は前に進む決意を新たにしていた。


(続く)

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