第17話

 皆に治療し終え、おれは部屋をかり休憩する。


 そこにゼオンたちがくると、おれの前に並ぶ。


「ん?」


「勝手に押し入った俺達を救ってくれてなんといったらいいか...... 族長として、いや、兄としても感謝する......」


 そうゼオンたちは涙ながらに頭をさげた。


「まあ、いいよ。 それよりおれたちの集落を襲わせようとしたやつらは、なんていったんだ」


「ああ、確か...... ゴブリンの集落があるから、そこを襲えと」


「襲わなかったのか?」


「あれほど立派な集落だったから、土地さえ奪えばいいのかと思ったが......」


 そうゼオンは考えている。


「どうやら、我らを滅ぼすのが目的でしょうかね」


 サクトが眉をひそめる。


「ああ、多分おれたちを殺させるつもりだった...... か、そいつは何者なんだ?」


「......名前は名乗らなかった。 匂いでも人間かモンスターかもわからん。 ただとても嫌な魔力をまとっていた」


 そういいながら、ゼオンは不快そうな顔をしている。 そのときの事を思い出しているようだ。


「そいつがまたくるはずだ。 それまで隠れさせてもらっていいか」


「ああ、もちろんだ」


 おれはそいつの正体を暴くべく、コボルトの住みかで隠れる。


(一応対策はとっておくか、精霊ちゃん)


 精霊ちゃんに相談する。

  


 それから二日たったとき、コボルトたちの前にその人物はやってきた。


「どういうことだ。 やつらの集落を落とせといっただろう。 なぜまだこんなところにいる」


 コボルトの洞窟へと訪れたローブの人物はそういった。 それを隠れながら確認する。


(あいつか、顔はフードでわからないが声からすると男なのか、確かに何か嫌な感じがするな)


『はい、普通の人間とも、モンスターともいえませんが...... とても強い魔力の持ち主ですね』


「彼らの戦力はお前がいった以上だった。 俺たちを捨て駒にするつもりだったのか」


 ゼオンがその言葉には怒気がこもる。


「......キヒヒ、モンスターは戦うことが本能だろ。 相手がどうかなんて関係ないんだ。 さっさと戦って殺してこい」


「ふざけるなよ」


「いいのか、そんな態度で? この病は私しか治せないぞ。 キヒホヒ」


「捕らえろ!!」


 ゼオンの命でコボルトたちが飛びかかる。 だがその姿は消え、後ろに現れた。


「ちっ、またお前たちに病にかかってもらうか。 多少弱るがしかたないな。 治りたければゴブリンの奴らを皆殺しにしてこい」


 そういうと、杖を地面につく。


『シャドウヴァイラス』


 魔法を唱えると、影から無数の黒い触手が現れる。


(あれが病気の原因か)


 おれは前にでて、その黒い触手をきる。


「お前...... あのゴブリンのところの」


「しってるのか...... やはりおれたちが狙いか」


「キヒヒ、一人でいるとは好都合。 さあお前も病にかかれ」


 おれに無数の触手が襲いかかる。 おれの影からでたその一つがおれを貫いた。


「うっ......」


 地面にひざをつく。 


「キヒヒヒホヒッ!!」


 ローブの人物は奇妙な歓喜の声をあげた。


「やった! アグザのやつめ、何が警戒しろだ! こんな簡単にことがすんだではないか! このバグラさまをなめやがって! お前もこれで我らのものだ!」


(我ら......)


「お前も治りたくば、他のモンスターどもを皆殺しにしろ!!」


「なんのためにだ......」


「魔王さま復活のためだ! 魔力がいる! できるだけな! まずは手始めにこのコボルトどもを血祭りにあげろ! キヒヒヒ!」


「魔王? そいつを復活させるために魔力をあつめてんのか。 なるほど、ありがと」

 

 おれはたちあがる。


「へ? なんで病が」


「よし、試すか」


 おれは呆然としているバグラというローブの男の顔面を殴り付けた。


「ぶへぇぇーー!」


 バグラは地面をバウンドした。


「ぎゃひぃぃ...... な、なぜだ!? 私の魔法を......」


「詳しく事情を聞かせてほしいんだけど」 


 バグラは後ろに後ずさる。


「くっ...... このままではすまさん...... いけお前たち!! コボルトどもごと食い殺せ!!」 

 

 バグラの影が大きくなり、中から巨大な虫が溢れるように現れた。


「応戦しろ!!」


 ゼオンの声でコボルトたちがその虫たちと戦っている。


「くっ! 数が多い!!」


 虫の数が多すぎて、コボルトが押されている。


「ひくな!!」


 ゼオンの声が響く。


「無駄だ! お前たちなど全て食い尽くしてやる! キヒヒヒ!!」


 バグラはそういって高笑いした。


「マサトさま! 数が多すぎます!」


(くそっ! 奴を捕らえたいけど、遠すぎるか。 さきにこの虫をやらないとコボルトが危ない!)


「しかたない! やれ!!」


 空気がはぜて虫たちが吹き飛ぶ。


「な、なに!? なにをした!!」


 バグラは何が起こったかわからず、おたおたしている。


 次々と空中で爆発がおき、虫たちが落ちていく。


「なんだ!? なにが!」


「せーの!」


 おれの拳がバグラの顔面を再びとらえる。


「ぼへぇぇ!!!」


 バグラは吹き飛び、木にぶつかった。


「やってしまったか!!」


「ぐぇ、なぜそこに......」


 バグラは懐から何か珠を取り出した。 珠は輝き、光が収まるとバグラの姿は見えなくなっていた。


「あっ!! しまった! 逃がした! もうちょっと強めで気絶させるんだった!」


「その威力だと多分死んでましたよ」


 サクトはそういう。 おれたちは残りの虫たちを倒した。

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