たまたま神さま、ときたま魔王

@hajimari

第1話

「ふう...... まさかこんなことになるとは」


 おれは森を歩きながらため息をつく。


『まあ、仕方ないですよ』


「だけど、このままじゃいつになっても帰れないよ......」


『まあ、こつこつやるしかないですね』


「なんであのときあんなこといっちゃったんだろ......」


 空をみながらおれは途方にくれた。



「く、くそっ! またか......」


 おれは平柴 正人ひらしば まさと、15才。 その日は高校の受験日だったが、高熱をだしてねこんだ。


「は、はぁ、はぁ、き、きのう徹夜したから...... い、いっつも大切なとき...... こんな風になる。 やることなすことうまくいかない......」


 おれは熱にうなされながら、布団の隣にある合格祈願のお守りが視界にはいる。


(......なにが、神さまだよ! こんなとき助けてくれない神さまなんているか!)


 そう思ってお守りを投げつけ、目をつぶった瞬間、光をまぶたの裏に感じた。


「えっ......」


 目を開けるとそこは神殿のようで、目の前の階段の上に座る威厳のある長い髭の老人がこちらをみていた。


「まったく、せっかく熱を下げてやったというのに......」


 そう老人は髭をなでながらいった。


「あっ、本当だ熱がさがってる! やった! いや、ここは夢、早く起きて受験会場にいかないと!」


 そして目をつぶるが一向に戻ることができない。


「起きられない! なんで!」


「ここは夢ではないからだ。 ほれ」


 老人が指を指すと、その額にお守りがくっついている。 


「えっ? それはおれのお守り。 夢じゃない...... まさか!」


「そのまさかだ。 お主は守った神を投げ捨てたのだ。 ゆえに神罰を下す」


「まって! ちょっと腹が立ってただけ! 許して」  

 

「ならぬ...... お主たち人間は少し神の苦しみをしるために試練をかす」


 そう老人はいうと、杖を地面につきたてた。


 その瞬間、目がくらむ光が放たれた。



「まぶしかった...... ここは」


 そこは草原のど真ん中だった。 風がふくと草の匂いがしている。


「な、な、な、また変なとこにいる! ここどこだ!!?」


 おれはパニックになった。 おたおたしていると、頭に声が響いた。


『落ち着いてください』


「だ、だ、誰、どこにいるの!?」 


『私はあなたに助言を与えるよう神からいわれた精霊です』


「精霊...... 神さま、やっぱりあのじいちゃん神さまだったのか」


『ええ、神はあなたに試練を与えました』 


「試練ってなに!? お守りをなげたことでそんなことされるの!」


『まあ、お守りは神と同じ。 しかも最近神の名前を使って人間が悪さをするもので、神も我慢の限界だったのでしょう』 


「それおれのせい!?」


『とりあえず、あなたは神の苦悩をしるために、ここに飛ばされました』


「神さまの苦悩...... 飛ばされたって、どこここ外国」


『いいえ、ここはあなたからみて異なる世界です』


「異世界ってこと!? 帰れんの!!」


『ええ、あなたが成長しさえすれば......』


「成長...... 試練とか、なんとかいってた。 それでどうしろっていうの」


『あなたが神として成長すれば、その力で帰れますよ』


 そう簡単に精霊はいった。


「神として...... えっ!? おれ神さまになったってこと!?」


『はい、あなたは神から、その大切さをしるために神にされたのです』


「ええええーーーー!!」


 おれの叫びは草原に響いた。



 ひとまず人に会うために、草原を歩きながら精霊ちゃんと話をする。


「それでおれは神さまとして成長するために、信頼を集めないといけないと?」


『はい。 神の力は人の信仰心。 あなたが成長するには人の支持をえないといけません』


「いくらなんでも、普通に生きてきて支持されたことなんかないんだけど...... 神さまなんだから、なにかできるんでしょ。 じゃないと無理ゲーなんですけど」


『ええ、普通の人間より身体能力は強くされていますね。 神の深い慈愛です』


「慈愛があるなら、こんなところに、ほぼ八つ当たりで飛ばさないでよ...... それで他にはなにかないの。 ちょっとぐらい体が強くても人のためにならないでしょ」


『神の力とは『創造』《クリエイト》です。 思ったことを具現化する力です』


「思ったことを形にできるのってこと? よし、やってみよう。 えーと、ちょっと小腹がすいたので...... たべもの!」


『集中してイメージしてください』


「たべもの、たべもの、たべもの......」 


 おれの手の上が光る。


「おおお! えっ?」


 豆が一粒転がっている。


「なんで豆...... いや、な、なんだこの疲労感。 はぁはぁ......」


 おれはその場に座り込んだ。


『まだ力がないので、その豆一粒作るのがやっとなんですね。 作り出す神の力が足りない分、生命力から捻出されたみたいです』


「そ、それって死ぬんじゃないの!!」


『分不相応な要求を叶えようとすると、死ぬこともありえるかもしれませんね......』


「先にいってよ! 豆で死ぬとこだったじゃん!」


 おれは豆を食べた。


「もぐっもぐっ、おいしいけど、せめて炒りたい。 それで豆しか作れないおれがどうやって人の信頼をえるの。 豆の出せる大道芸でもするの?」


『いえ、この世界には...... ほらあれ』


「ん?」


 草原の中、ガサガサとなにかが動いた。


「草になんかいる...... えっ」


 それはみたこともない小型犬並みの大きなアリだった。

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