第58話 ハッピーエンド! …………は許しません

 それからは順調に毎日が進んでいく。

 お店は町の憩いの場として安定した日々を送っていた。


 セシリアもネネも毎日が楽しそうだ。

 ニーナも完全に変わった。

 もう誰にも意地悪はしていない。

 意外と気遣いができるらしく、むしろ多くの人から親しまれていた。


 そういえば意外といえばフィオナさんとアビスちゃんだ。

 アビスちゃんは人間の文化に興味があったらしく、ウェイトレスとして働いている。

 

 客が増えたし、資金も溜まったので、レストラン形式の場を作ってみたら、メイド姿の彼女たちが客にとんでもなくウケた。

 今では看板娘として大人気だ。


 それとさらに意外なのがキラーである。

 もう完全に踊り子として店に定着してしまっていた。


 お調子者の性格だが、それが逆に親しみやすさに繋がっているらしく、彼目当てで来る客も毎日のように増えていく。

 また、なぜかキラーはフィオナさんの『弟子』となっていた。


「彼には『隠密スキル』の才能があります。私が鍛え上げて、いずれ役に立つようにして差し上げましょう」


「勇者様よ、任せてくれ。フィオナ姉さんから『隠密』を伝授して見せるぜ」


 キラーはなんと隠密スキルに特化していたらしい。

 まあ、元が盗賊(シーフ)だし、忍ぶのが得意でも不思議ではない。


「俺の一番の得意技は、『スティール』だぜ! この技が、いつか必ずあんたの役に立って見せる」


 スティールとは、こっそりと相手の持ち物を盗んでしまう技の事だ。

 まあ、盗賊の基本スキルだな。

 いや、でも、そんなものが役に立つ日は来るのか??

 …………まあ、いいか。


「ふああああ」


 最後にルビアだ。

 相変わらずやる気は無いのだが、楽しそうな本人の気持ちは伝わってくる。

 相変わらず無気力な部分も残ってはいるが、それも彼女らしさの範疇とも言えるだろう。


 そういえば、パン屋が好きって言ってたな。

 パン屋で楽しく働くのが将来の夢とも言ってた。

 ある意味ではこちらの世界で彼女は夢を叶えたとも言える。


 俺の方は……相変わらず『雑用』をこなす毎日だ。

 そのおかげなのか、少しづつ人々の勇者を見る目が変わってきた気がする。


 ただの我儘なクソ勇者じゃない?


 そんな噂が少しずつだが、俺の耳にも入ってきた。

 なぜかパン屋で雑用をする勇者。

 そんな姿に町人は次第に愛着を持つようになってくれたらしい。


「うん。これでいいんだ」


 これが俺の幸せだ。

 案外、これが俺の求めたスローライフだったのかもしれない。

 この先も様々な困難はあるかもしれないが、それもこのやる気の無い悪役令嬢と一緒に乗り切っていこう。


 答えは出た。

 こうして俺の物語は結末を迎える。




 

 だが、それは許されない事だった。





 ある日の事である。


「グロウ様、大変だよ」


「ん? どうした、ニーナ?」


 ニーナが慌てた様子で飛び込んできた。


「『彼』が帰ってきた」


「彼? 誰の事だ?」



「カイルだよ!」



「っ!?」


 ついに『ざまぁ』が俺を襲いにやってきた。






 いまさら謝ったところでもう遅い!!!!!!!







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