とある男の処刑までの記録

R・S

とある男の親友の話

 酷く薄暗くジメジメとした階段を降りていくとそこには留置室があった。

 このような場所に1時間でもいたら体の調子を悪くしてしまうだろう…我が親友はそんな所にもう5日間も留置されている…




「ヘッヘッヘ…これはこれはこんな所へわざわざ1等法務官様が何の御用ですかぃ?」




 留置室担当の職員がそう問いかけてくる。このような場所に配属される人員はそれ相応の奴ばかりだった。




「…留置されている人物に刑が決定された…その通知の為に来たのだ、扉を開けて上階にて待機せよ。」



「おやおや?法務官様ぁ?規則では刑罰通知は3人以上にて行うとなっておりますが、貴方様の他には人員は見当たらない、となると我々が付き添うのは当たり前で御座いますなぁ…ヘッヘッヘ…」




 ニヤニヤと下品に笑いながらそう言ってくる職員ではあったが、規則上ではそうなっている…もし留置者と通知者が脱走等を結託しても他の人員で抑えるためだ。




「おお、そういえば忘れていたよ、これは君たちへの差し入れだ…これと同じものが上の待機室に置いてある、存分に使用してくれたまえ…」



「おお!こいつぁかなりの上物じゃあないですかぃ!こりゃあ使い切るのにだいぶ時間がかかっちまうなぁ!ヘッヘッヘ!」



「1時間程で通知は終了予定だ…それまでゆっくり待機しておくといい…」



「了解でさぁ!お前等行くぞ!」




 そう言うと職員は残りの人員を連れて上に向かったようだ…これでここには私と親友のみだ…

 私は扉のロックを解除し中へと入った。

 親友は壁によりかかり、座ったままだった。




「…姑息な手は嫌いなんじゃなかったか?」



「時と場合によるさ…こんな時は特に…な…」




 これから私は親友に対して刑の通知をしなければならない…




「…これより刑の通知を行う…留置者に対する嫌疑は次の通り…予算横領、同僚に対する不認定性交渉及び不認定の次世代児作成、権限の付与されていないデータベースへのアクセス及びデータの閲覧、情報の偽造、上層部批判、反体制派への協力疑い…このことから留置者への刑罰は死刑と決定された…刑の執行は通知をされてから48時間後には執行される…何か言いたいことはあるか…」




 頼む…私を害してもいい…ここから逃げてくれ…私を親友に対してこんな恥知らずな事をした男にさせないでくれ…!




「はぁ…、随分と盛りに盛ったりときたもんだ、全部あの馬鹿ったれのやらかした事だろ?おまけに付けた最後の2つは箔付け用ってか?」



「………」



「よせよせ、ここで足掻いたってお前さんや彼女アイツに迷惑がかかるだけさ……お前が通知に来てくれただけありがたいよ。」



「……では、死刑執行前に受刑者には通告者の行える範囲でのみの要求ができる…何か要求はあるか?」



「ん〜…ああ、なら幼馴染で親友のよしみで3つ頼みたいことがあるんだが聞いてくれるか?」



「…言ってくれ。」




 私はその頼みを全力で叶えよう…それが君への最後の…




「まず確認なんだが、俺の死刑方法はどういうプランなんだ?」



「…通常パターンの執行、つまり過電流装置による死刑だ…」



「そうかい、なら俺は死刑の方法変更を要求するよ、具体的には深宇宙探査員に志願する。」



「!そっ…それは!」




 深宇宙探査…探査とは名ばかりの使い捨てロケットに人員を載せて宇宙へと飛ばし、およそ1年で燃料が切れる前に生存可能惑星を探すというものだが、そんな事誰もやりたがる事はなく、もっぱら死刑囚の死刑執行手段となっていた。



「どのみち俺が死ぬのは変わらないんだ、だったら最後に浪漫を求めてもいいんじゃないか?」



「……君は変わらないんだな……分かった、2つ目は何だい?」



「俺の部屋にある情報端末の中にデカい容量のデータがあるはずだ、ソイツを俺の載るロケットの端末に入れておいてくれ。」



「分かった…そちらも確実に行うよ…3つ目は?」



「……改めて言うとこっ恥ずかしいが、彼女アイツを頼む、親友のお前さんにしか任せられないんだ…」




 私は言葉を失った…彼はこんな私をまだ親友と言ってくれたのか…!こんな何も出来ない私を…!しかも大切であろう共通の友である彼女を、恐らく彼女の気持ちは彼に向けられているのだろう……そして私の想いも……彼はそれすらも分かっているのだろうか…?




「……君という奴は……分かった…!必ず…必ず君の頼みは叶える…!絶対に…!」



「ハハハ、そう気負うなよ、まああの上司クソヤロウが邪魔してくるだろうから面倒だと思うがよろしく頼む。」



「そんな事はさせない!誰が来ようとも君の頼みは必ず遂行してみせる!」



「…やっぱりお前さんに任せて正解だよ、後の事は頼んだぜ、親友…」




 そう言うと彼は壁の方を向いて横になってしまった…もう彼は私に残った全てを託したのだろう…託された私は全力で彼の頼みをやり遂げるだけだ…!

 私は階段を登り、屯していた職員へ通知が完了した事を告げると建物を後にした…

誰であろうと私の邪魔はさせない…!この職位が剥奪されようともだ…!

私は急ぎ刑の執行手段変更を連絡するべく、足早に法務局へと向かったのだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る