第2話

   はじめに 


「ねえ、君は何をしているのかな?飛び降りる、で間違いありませんか?」

「えっ…。」

「大学附属病院の?屋上で?人目につかないところのフェンスを選んで?使って歩いているよ

うな素振りもない歩行器の上によじ登りかけて?下を見下ろしておられますねー!もう決定で

いいかな?」

「やめてくれ。やめるから。」 

「5月1日!どうしたのー!なんかあった?」

「馴れ馴れしいよ。君は誰?」

「私?ここの病院の患者だけど?」

「見りゃわかるよ。病衣着て、痩せてて、……頭に被ってる。」

「私が小児癌だ、ってお見通しだな!さては。」

「君、まだ子どもだろ?小学生?大人びてるけど。」

「うん。小4!好きなことは、物書きをすること。あなたは?」

「僕は小6。精神科に入院してる。好きなことはなし。生きたくないのに生かされている。君

の代わりに、むしろなりたい。」

「へー。生きるのに絶望して、隔離病棟から解放病棟に移ったのをいいことに、自殺未遂って

わけ!笑えるー!」

「よく言わずともそこまでわかるね。」

「なんか、けなしあってるのに、仲良く出来るの不思議。合うんだよ!フィーリング?が!ね

ぇ、交換ノートしない?」

「えー、何書けばいいのさ。」

「あっ!何か文、書ける?」

「文章は書くのはまあまあ出来る。」

「じゃあ、問題な〜し!今、ちょうど新しく持ってる!このノート、には、自分の思いを、書き

ます!交換をする回数は、1ヶ月置き。私もあなたも、病気を治すのに専念しないといけないか

ら。1か月の間で、どれだけ書いても、書かなくてもいい。私は毎日書くよ!先に、あなたのこ

とを知りたいから、5月はあなたに渡すね。私の担当は6月、ってな風に。」

「どっちかが退院するまで続けよう?」

「な〜に〜?急に乗り気じゃん!」

「お互い、生きる目的は、あって困らないと思って。」

「私が死んだらどうするの!」

「君、死ぬの?」

「んーん、死なない!死ぬ、って言ったら、そこでお終いだと思うから。」

「……。それは、僕もかもね。」

「なーんだ!わかってるくせに!」

「僕の気持ちなんて、わからないでしょ。」

「これから、一緒にはじめよう!交換ノート!それできっと、私たちはわかりあえる。」

「仕方ない。何書いてもいいんだよな。」

「私が相談、乗ってあげよっか!私、ちっちゃい頃から病院生活で、しんどいことも、ちょっ        

とは強いよ!」

「僕がシャバの辛さを教えてあげたいくらいだ。」

「じゃあ、書いてきてね!またあなたが飛び降りたりしないように、屋上はやめて、精神科に

行くね!」

「いいよ、僕が小児科に行く。」

「あら、そう?じゃあ、よろしく!」

これから、二人の、交換ノート、がはじまります。

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