第23話 癒やしの時間

 最近は、仕事がやりやすくなった。ウェヌスレッドとの婚約でノルイン公爵家との繋がりが出来て、後ろ盾が持てたのが大きいだろう。前よりも話が通しやすくなったし、融通も利くようになった。


 それから、跡継ぎ問題の解決に目処がたったのも大きいだろう。ただ少し、心配もある。彼とちゃんと肌を重ねることは出来るのか。あんな美しい人と、同じベッドで寝るなんて。間近に迫る彼の顔を想像しただけで、緊張してしまう。




 その時を迎えるまでに慣れておこうと、私は何度も彼に会いに行った。顔を合わせる機会を増やしておき、いざという時に緊張しないため。


 ウェヌスレッドも歓迎してくれる。


「よく来たね、シャロット。何か飲む? お菓子もあるよ」

「ありがとう。いただくわね」


 お砂糖たっぷりの甘いお菓子と、それによく合う紅茶。彼はいつでも、私を笑顔で出迎えてくれた。その美しい微笑みを見るだけで、胸が高鳴った。


「んっ……、美味しい」

「それは良かった」


 嬉しそうに微笑む彼を見ていると、私まで幸せな気分になる。仕事で疲れた体が、優しく癒やされていくのを感じた。


 だから、ついつい頻繁に会いに来てしまう。慣れるつもりで会いに来るというのは、彼と会うための都合の良い言い訳なのかもしれない。


 だからつい、聞いてしまった。


「私が会いに来るのって、迷惑かしら?」

「そんなことないよ!」


 聞いてから、しまったと思った。わざわざ聞かなくてもいいのに、面倒な女だと彼に思われてしまうかも。だけど、不安でたまらなくなる。


 しかし、ウェヌスレッドは即座に否定してくれた。ほっと胸を撫で下ろす。いや、でも。再び不安が。気を遣ってくれているだけじゃないのか。


「シャロットが会いに来てくれるのは、とても嬉しいよ」


 ウェヌスレッドが柔らかく微笑む。本心からの言葉だと信じたい。彼が立ち上がって、私の隣に座る。優しく私の手を握りしめた。


「あっ」

「こうやって、触れ合うのも好きだ」


 手を絡ませる。彼の手が温かくて、気持ちよくて、安心する。つい私も手を握り返した。心地良い体温だ。


 彼と触れ合うと幸せになれるし、安心できる。もっと触れ合いたくなった私は、彼の胸に頭を預けた。彼の大きな手が私の頭に触れて、そっと撫でてくれる。気持ちが良くて、思わず目を細めた。


 私を包み込んでくれるのが嬉しくてたまらない。


「安心した?」

「はい、とても」


 優しく抱きしめられた。そのまま彼に身を委ねる。頭を撫でられると、胸の中がきゅんとした。彼の手はすごく気持ちいいし、心地よい。


「人は、こうやって触れ合うことで安心するらしいよ」

「そうなのですか」


 それは、真実だと思う。いつまでも、こうしていたい気持ちになってくる。自分が女であることを、こんなにも実感する日が来るなんて。


「仕事で疲れたり不安になったら、いつでも会いに来て。遠慮する必要はないよ」


 抱きしめられて、そんなことを言われた。その気遣いがとても嬉しい。


「本当は僕も一緒に仕事したいんだけど、きっと役に立たないからね。こうすることしか、君の役に立てないだろうから」

「そんなことありません! ウェヌスレッドがやろうと思えば、出来ると思います。それに、今でも十分に役に立っていますから」

「それなら良かった」


 これだけの癒やしと安心感を与えてくれるのならば、彼が一緒にいてくれる価値は十分にある。そしてまた私は、領主の仕事を頑張ることが出来るから。

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