第13話 ノルイン公爵家

 屋敷を訪れたのは、ノルイン公爵家の使いの者だった。


 その使者は、とても丁寧な態度で伝えてくれた。ノルイン公爵家の当主が確認したいことがあるので、公爵家の屋敷に招きたい、と。


「わかりました」


 私は、すぐに了承した。


 確認したいこととは何なのか。心当たりはない。どうして私を呼び出そうとしているのか。公爵家の方々とは、接点なんてないはずだけど。疑問に思うけど、断ることは出来ない。呼び出しに応じて、向かうしかないだろう。


 ただ、事前に使者を送ってくるということは、かなり気を遣われていることがわかる。使者の態度も非常に丁寧で、好感が持てた。


 おそらく、悪いような話ではないと思う。予想だけど。


 少しだけ不安に思いながら、私は呼び出された場所へ向かった。




「待っていたよ、カナリニッジ侯爵家の当主シャロット殿。会えて光栄だ」


 到着してすぐ、公爵家が所有する屋敷の一室に案内された。テーブルと椅子が置いてある、会議室のような部屋。


 そこで待ち構えていたのは、中年の男性。パーティーで何度かお見かけしたことがあるお方だ。直接挨拶したことは、今まで一度もないはず。


 私の名前も知ってくれているようだけど、念のために挨拶しておこう。


「お初にお目にかかります。ノルイン公爵閣下」


 ノルイン公爵家。高貴で、王家にも近い特別な身分。カナリニッジ侯爵家とは比べ物にならないほど、高い地位にいるお方だ。しかも、当主である御本人が居る。それだけ重要な案件ということ。


 ますます、わからなくなってきたわね。公爵家の当主が、侯爵家の当主である私に確認したいことが何なのか。


「わざわざ来てもらって、すまないな。どうぞ、座ってくれ」

「……失礼します」


 テーブルを挟んで、ノルイン公爵の目の前に座る。失礼がないように気をつけながら。緊張で声が上ずってしまわないか心配だった。


「そんなに硬くならないでくれ。今回は、君に聞きたいことがあって呼んだだけだ」

「……わかりました」


 私を安心させるためだろうか。ノルイン公爵は優しく微笑んでくれた。やっぱり悪い話ではないようで、少しだけ緊張がほぐれた。そして、話が始まる。


「私たちは今、とある情報を求めている。答えてくれたら相応の報酬も与えよう」

「情報、ですか?」


 何を知りたいのか。全くわからない。ノルイン公爵が求めているような情報を、私が持っているのだろうか。どうやらノルイン公爵は、私が知っていると確信しているみたいだけど。


 ノルイン公爵は真剣な表情だった。その情報を強く求めている。そんな気持ちが伝わってきた。報酬まで出すと言っているので、それだけ彼らにとって重要な情報、ということね。


「君は、この女性を知っているか?」


 そう言うと、ノルイン公爵の後ろで控えていた使用人がテーブルの上に資料を並べる。女性の似顔絵と名前や経歴が書かれていた。名前と経歴が違う。でも、似顔絵を見て理解した。私は、その人物を非常によく知っている。不本意だけど。


「……彼女は、ローレイン?」

「やはり、知っているか」


 もちろん、知っている。しばらく前に、私が婚約を破棄する原因となった人物だ。あれから会っていない。会う機会もないし、会いたいと思うこともなかった。


 デーヴィスと一緒に、ライトナム侯爵家の屋敷に送り届けた。今は、デーヴィスの下でメイド仕事に励んでいるはずだけど。


 どうしてノルイン公爵が、そんな人物について探っているのか謎だった。その理由を、ノルイン公爵は教えてくれた。


「息子の1人が急にこの女を連れてきて、結婚するなんて言いだしてな」

「えっ……」


 それは、まさかの理由だった。ノルイン公爵は苦い顔をして、そうなった経緯について話してくれた。

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