　屋敷から出て行ってもらう。ローレインは、間違いなくそう言った。

「それは、どういう意味です？」

　本当に意味がわらかなくて、ローレインに尋ねた。すると彼女は嘲笑を浮かべて、馬鹿にしたような口調で私に告げた。

「だからぁ、婚約を破棄したらデーヴィスとの縁も切れて、貴女は実家に帰らないといけないのでしょう？」

「……はぁ？」

　ローレインの話を聞いても、最初は意味が理解できなかった。落ち着いて、状況を整理してみましょう。どうやら彼女は、何か勘違いしているようね。

「お、おい、ちょっとッ！　そんなこと言っちゃダメだよ、ローレイン。そんなこと言われたシャロットがかわいそうじゃないか」

　慌てて止めに入ってくるデーヴィス。だけど、指摘する箇所が間違っているわよ。私は別に、かわいそうなんてことないのに。

「だって、彼女が自分のかわいそうな状況を全く理解していなんですもの」

「だからといって、そんな本当のことを包み隠さずに言うのは……」

「親切心で言ってあげてるのよ。だから、感謝してほしいわね」

「……」

　絶句する。私の執務室でイチャイチャし始める２人。頭が痛くなってきた。そしてローレインは、私のほうが状況を理解していないと。彼女だけでなく、デーヴィスもそう思っているらしい。

　この屋敷から出ていくのは、私の方であると。

　ローレインが理解していないのは百歩譲って良いとして、いや良くはないけれど。デーヴィスも分かっていないのは、酷すぎじゃないかしら。わざと、知らないフリをしているとか。でも、そんなことをしても意味がないし。

　私の婚約相手として、屋敷内では自由に過ごしてきた彼。関わるのが面倒だから、跡継ぎの子を産ませてくれるという役目だけ果たしてくれたら、他には何も期待していなかった。領主の仕事に余計な口出しをしないよう、意識的に距離も取っていた。それが、間違いだったのかもしれない。

　デーヴィスが勘違いしているなんて、今まで私は気付かなかった。

　とはいえ、自分が婿入りする家のことや状況についてぐらいは知っているだろうと思っていたのに。あの様子じゃ、本当に何も知らないのね。

　なぜかここが、自分たちの屋敷であると勘違している愚か者たちに。その勘違いは正してあげないといけないわよね。確かな事実を、はっきりと。

「この屋敷から出ていくのは、デーヴィスとローレイン、あなた達の方ですよ」

　まだイチャイチャし続けている２人に向けて、私は事実を告げた。

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