それから。

私は東京に帰り、これまで通りの生活に戻りました。

特に変わった事はなく、願いを叶える呪法だなんて、やはり迷信だったのかしらん。

がっかりしたような、ほっとしたような気持ちで過ごしていましたところ。


あの夜から数えて、ちょうど十日目。


突然、私の目が見えなくなってしまったのです。


私は慌てました。

どうして、あの女でなく、私の目が?

医者に見せても、何をやっても、全く何にも見えません。

すっかり失明してしまったのです。


……けれどね、聞いて下さい。


彼が、失明した私を、とても心配してくれて。

最近ものすごく優しいのです。

ずっとそばにいてくれて。

マスカットの皮を剝いて私に食べさせてくれたりするんですよ。

ゆうべは、なんと、プロポーズをされちゃいました。

古えの神って在るんですね。

私は。

結婚、してもいいかなと思っています。

ただし。

思い返すにつけ、あの女に触れた彼の左手だけはどうしても愛せません。



近いうちにもう一度、猫を手に入れようと考えています。










(終)





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る