終章
花守たちのサクハナリーグ
昼下がりの陽光を浴びるヒノメが、サクハナリーグ協会本部の玄関を潜った。
「よっす。もう来ていたの?」
「待ってたよー。何を注文するー?」
席に腰かけたヒノメへと、待ちかねた様子でムイが品書き(メニュー)を手渡す。ヒノメが注文を選んでいると、新聞を読んでいたミズクがジト目を向けた。
「ヒノメ、遅いです」
「えー? 時間通りじゃない。今日は二人が早かっただけでしょ」
「班長たるもの、班員よりも早く来て規範を示すです」
「はぁーん。お子ちゃまが待ちくたびれて怒ってるー」
やれやれという風にヒノメは首を振って見せる。その挑発に乗ったミズクが親指を下に向け、ヒノメを睨んだ。
「いい度胸です。二対一で勝ち目があると思うですか」
「あ、あのー。わたしも数に入ってるのー?」
相変わらずの困り顔でムイが二人に視線を往復させる。
騒々しい三人を見兼ねたのか、店員の女性が不愛想な表情で歩み寄ってきた。
「ご注文早くしてもらえますー?」
その一言に水を差された三人はおとなしく注文を終え、店員が去ってから会話を交わす。
「でも、残念だったね。せっかくアクタさんたちに勝てそうだったのに、妨害が入ったから無効試合になっちゃうなんてー」
「あの
「まあまあ。コーチがいたおかげで、あそこまで戦えたってのもあるし」
いまだにカラスを敬うヒノメに呆れてミズクが頬を膨らませる。
「寝ぼけたことを言わないでほしいです。ヒノメも順位表を見たはずです」
「そりゃ、見たけど……」
順位表の最下位には、依然としてヒノメ班の名前があった。アクタ班との試合で勝利を得られなかったため、順位が変動することが無いのは当然であるが。
「当然、その報いは受けてもらうです」
ミズクが手にしていた新聞紙を卓上に広げる。その紙面には、逮捕されたカラスの続報が記載されていた。
「えー、なになに? コーチを主犯とした強盗団の四人の裁判が始まったのね。罪状は金品強奪、脱獄、暴行、殺人未遂、放火未遂……。コーチって悪人だったんだなー。ちょっと残念」
「もう一生監獄から出て来られなそうだね。お気の毒だよー」
あまり心情のこもらない口調のムイ。その目は店員の持ってくる食べ物に釘付けになっている。ミズクが新聞をしまい、店員は手際よく卓上にお茶と軽食を並べていく。
最後に店員が置いた三人分の小さなケーキを見て、ヒノメが怪訝な声を上げた。
「あの、これ注文していないんだけど?」
店員は顎で受付の方を示すと、ぶっきらぼうに言う。
「おまけ」
ヒノメが去って行く店員から受付に視線を移すと、そこでは二人の職員が順位表を入れ替えているところだった。
ヒノメ班の名札を最下位から一つ上に移動させた女性職員は、ヒノメに気付くと悪戯っぽく笑って片目を閉じてみせる。
「あれって……?」
「ほうほう。さすがに観客の生命を救ったミズたちを、最下位にはしておけないようです」
「サクハナリーグ協会もやさしいところがあるんだねー」
カラスから花守と観客を救った功績により、特例措置が施されたらしい。
「よかった。二
「でもー。また試合で負けたら最下位に戻っちゃうんだよねー」
「次の試合でも、ちゃんと勝つしかないです」
仲間たちの言葉を聞いてヒノメは溜息を吐く。
「あんまり今までと変わらないのか」
表情の晴れないヒノメをよそに、ムイは卓上の軽食を次々と口に運んでいく。
「ムイぴょん、あまり食べ過ぎるとこの後の試合に支障が出るです」
「実際に戦うのはわたしの素体だからダイジョーブだよ」
「色々あって長居しちゃったけど、会場に向かった方がよくない?」
最下位のヒノメ班の試合は昼前が常だったが、今日の試合は午後からと思ってゆっくりし過ぎたらしい。あまり時間に余裕が無くなっていた。
「というわけで、行くよ」
「です」
「えー? まだ食べ終わってないよー」
ムイの言葉に耳を貸さず、ヒノメは席を立って店員へと朗らかに告げる。
「支払いはツケといてね」
「またっすかー……?」
店員の非難を尻目にヒノメはムイを目で急き立てる。それでも動こうとしないムイを見やり、ヒノメとミズクが目を合わせた。
「仕方ないな。ミズクちゃん、実力行使だ」
「好きな言葉です」
二人はムイの腕を抱えると、力ずくで出口へと引っ張っていく。
「あーん……! お持ち帰りでお願いしまーす!」
『さぁー! これより開始されるのはサクハナリーグ第六試合の〈
ヒノメ班の試合会場である〈錆びた
すでに開花しているヒノメは
『本試合は以前に決着のつかなかった因縁の戦いです! 北門より入場を終えたヒノメ班の相手は、〈若葉〉第三位のアクタ班! 南門より入場です!』
「もしかしたら、アクタ班は前よりも手強くなっているかもね」
「えー! 怖いこと言わないでよ」
「ミズたちも強くなっているはずです。心配はいりません」
ヒノメの仲間はいつも通りの反応だ。しかし班として機能していなかった頃と違い、今のヒノメたちは協力し合って実力を高め合うことができる。
みんなの関係はそのままで、大きく変わっていることもあるのだった。
『両班が開花を終えました! サクハナリーグ第六試合、〈花散らし戦〉の開始となります!』
クロワが試合開始を宣言し、ヒノメたちは一斉に走り出す。花園中央部の大通りに辿り着いたときには、早くも上空からヒノメ班を狙う影があった。
「ムイ! もう足枷なんかじゃない。負けられない強敵だと思って戦うからね!」
「うん、わたしもタキシちゃんに負けないように頑張る!」
タキシの羽から光条が射出され、ムイが防壁を展開して攻撃を防ぐ。
ムイの後ろに隠れていたミズクが不意に横へと向き直った。ミズクが向いた先から、まったく同じ姿をした二人の女性が走り寄ってきている。
「次こそはスクル自身の力で勝ってみせるよ、ミズク!」
「かかってこいです」
スクルと分身が掌から光弾を連射し、ミズクは浮遊させる六冊の本から光条を照射して反撃。飛び交う光が錯綜して戦場に色彩と音響を加えた。
攻防が激化しつつあるなか、ヒノメは正面から肉薄してくる銀髪の剣士を迎え撃つために駆け出す。ヒノメは長刀を斬り下ろし、アクタは竹光を真一文字に振り抜いて応じた。
互いの刃が噛み合い、火花を散らしてヒノメとアクタは向かい合う。
「この前の決着をつけようじゃない、ヒノメ!」
「望むところよ、アクタ!」
二人は笑い合うと、再び剣を交わし合った。
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