第5話 順当な苦戦
『タキシ・キタカタ・〈
クロワの実況を聞き流しながら、ヒノメは二人と歩いて会話する。
「まだ大丈夫だよ。勝てる見込みはある」
「ミズが風車に隠れて狙撃する作戦は
「わたしも今日は頑張ろうって思えるー」
アクタ班の実力を見せつけられても、珍しくムイとミズクの戦意は衰えていない。それだけ二人のこの試合への意気込みが分かるようだった。
『さぁ、お返しとばかりに速攻をかけるアクタ班! ヒノメ班の陣地へと急接近しています!』
実況を聞いた三人は視線を交わし合って走り出す。
都市外縁部の風車や水車のある牧歌的な風景のなか、ヒノメ班が立ち止まる。空から先兵たるタキシが接近してきていたのだ。
「ムイ! あんたが
嘲笑するタキシが羽から光条を照射、宙を焼いて迫る光を弾いたのは即座に展開されたムイの防壁だった。青い半透明の防壁に当たった光条は打ち消され、輝く飛沫となって飛び散る。
「ムイぴょんは足枷なんかではないです。ミズの頼れる仲間です」
ミズクが六冊の本から光条を発射して迎撃。六条の紫の光線が空間を射抜くなか、その隙間を泳いでタキシが攻撃を回避していく。射撃でタキシを捉えられずに苛立ちを募らせるミズクへと、驕慢な声がかけられる。
「おチビちゃーん! この前、試合で可愛がってあげるって言ったの覚えてるー?」
スクルが分身とともに疾走しつつ
爆風に小柄な身体を晒されるミズクが右往左往しているところへムイが来援し、その前面に防壁を展開した。
余裕のできたミズクは体勢を立て直してから防壁から躍り出ると、六冊の本を操って返礼の射撃を開始。六条の光線で弾幕を張りスクルを迎撃した。
無表情の分身がスクルの前に立ち、殺到する光条を受け止める。分身に何発も光条が突き立つもその体表には傷一つつかない。
『スクルちゃんは
分身の光弾によってミズクの攻勢が止んだ隙に、スクルと分身が走り出す。
「スクルとお姉ちゃんを見分けられるかなー?」
スクルと分身が急接近し、その肉体が一つに融合する。再び肉体が分離すると二人のスクルは無表情のまま疾駆。スクルと分身の見分けがつかないミズクは、三冊ずつ本を向けて攻撃しようとする。
「待って、ミズクちゃん。攻撃を分散したら効率が悪いから片方は私が行くよ」
ヒノメがミズクを押し留めた。遠距離戦では役に立てないヒノメは、無理してでも突撃する覚悟を決める。
ミズクの返答も待たずにヒノメは防壁の裏から飛び出し、颶風と化して片方のスクルに詰め寄った。それに応じてミズクも片方のスクルに射線を集中させる。
『二手に分かれたスクルちゃんへと、これもヒノメちゃんとミズクちゃんが別々に迎撃。ヒノメちゃんは左右へと
接近したヒノメは斬り下ろしを放つが、スクルは慌てて横っ飛びに回避。ヒノメは片方のスクルを一瞥すると、その肉体に射撃を浴びながらもミズクに対して平行に走り続けていた。
「あんたが本物か! ここで仕留めてやる!」
「やだー。あんたの相手はスクルじゃないもーん」
スクルが分身の方に手を差し出すと、その全身が光の粒子と化して飛んでいく。一瞬後には両手を交差して光条を跳ね返している分身の背後へと、スクルはその身を転移していた。
スクルを逃したヒノメが悔しさに歯噛みする。ふと、その足元の地面から竹光の切っ先が飛び出し、咄嗟にヒノメは首を捻っていた。
切り裂かれた頬から深紅のハナビラを散らせながらもヒノメが飛び退く。混戦に乗じて忍び寄っていたアクタは地面から竹光の先端を引き抜き、ヒノメを見据えた。
「不意打ちに慣れているみたいじゃない」
「この程度は挨拶よ。ようやく二人で戦えるようになったんだから、ここからが本番」
『ヒノメちゃんとアクタちゃんが相対! 一方、ムイちゃんとミズクちゃんは防戦に徹するしかない状況です! 明らかにミズクちゃんの火力が足りていません!』
実況によって伝えられる仲間の危機を知り、ヒノメの内心に焦燥が生まれる。
ミズクの本が六冊あると言っても、スクルと分身に加えて空を飛ぶタキシを相手にしては手が足りないのは当然だ。ほぼ一方的に攻撃されては、ムイの防壁も耐えられないに違いない。
「お姉ちゃん、トドメ行っくよー!」
「足枷は地べたで朽ち果てるんだね!」
スクルが分身と手を組み頬が触れ合うほど身を寄せ、もう片方の手でミズクを照準。タキシは五枚の羽を発光させ、出力を上げた一撃を準備する。
『あぁー! スクルちゃんとタキシちゃんによる強力な攻撃が放たれる!
ムイとミズクが撃破されたことを知り、ヒノメの胸中に失望が広がる。
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