第6話 カランコエの苦悩

 目覚めたとき、ヒノメは自陣の生命花の下に立っていた。


 素体が破壊されたことで、ハナビラによって新たな肉体が生成されたのだ。見上げると、生命花のハナビラは六枚。失ったのは開花時に消費した三機と、撃破されて使用した今の三機分。


 まだ一人二機ずつ残機があるものの、余裕ぶってはいられない。イチバ班は六機を残し、先ほどの戦闘の傷は回復されてしまう。


 ヒノメが映像花スクリーンを見やると、そこには先制を成功させたイチバ班が映されていた。満身創痍のイチバにモミジが触れ、広がった文様がイチバの傷を修復していく。


『モミジちゃんの加護、〈この千手せんじゅは守りのために〉は前衛防御型フロントガード回復型ヒーラー後衛攻撃型バスターを兼ねており、手で触れた対象に効力を発揮できる万能型! 戦いで負ったイチバちゃんの傷も見事に回復させ、その存在感を物語ります!』


 先に倒されたムイとミズクに合流しようと、ヒノメは力強く地を蹴った。


「ヒノメさん、これからどーしよー?」


「やっぱしイチバたちは強いです」


 背後の声を聞き、踏み出しかけたヒノメはつまずいて棒のように顔面から倒れ込んだ。


「だ、ダイジョーブ……?」


 ガバッと跳ね起きたヒノメが振り向くと、そこにはムイとミズクが立ち尽くしている。


 倒れた拍子に傷ついてハナビラが散る額を押さえ、ヒノメが大きく口を開く。


「どうしてここにいんの⁉ 再生したら、とっとと来なさいよ!」


「あーん、やっぱり怒ったぁ! ごめんなさい、ごめんなさいぃ……」


「怒るに決まってんでしょ!」


「落ち着くです。どうせ残ったヒノメもすぐに撃破チルされるでしょうし、ミズたちが行っても各個撃破されるだけです。それなら、ヒノメを待って三人で固まった方が良いと考えました」


「『どうせ』って何よ、『どうせ』って」


 腹立たしいものの、ミズクの予想は正しかったためヒノメは反論を飲み込むしかない。


 劣勢にあっても意気込むことなく、ミズクは悠然と歩み出す。おずおずとムイが続き、ヒノメも溜息を吐いて進み出した。


『まずは機先を制したイチバ班。ヒノメ班はここから巻き返しなるか⁉』


 ゆっくり歩いてもクロワが場を繋いでくれるため、ヒノメは作戦を立てようと会話する。


「イチバたちに大通りで陣取られて有利な場所を取られちゃったし、厳しいなー」


「厳しいのは元からなので、状況は変わっていません」


「ミズクちゃんさ、建設的な意見は無いわけ?」


 ヒノメはムイにも意見を求めようと視線を向ける。ムイは面を伏せて歩いているが、デカいのでそれでも沈鬱とした表情は丸見えだった。


「どーしたの、ムイちゃん。お腹痛い?」


「う、うーうん。……ごめんなさい」


 ムイの『ごめんなさい』は口癖で、気にするほどのことではない。そうは言っても、常よりも神妙な雰囲気のムイが心配で、ヒノメはその顔を覗き込む。


「ねえ、本当にどうしたの?」


「わたし、役立たずだよね」


「え、そんなこと、ないよ?」


 ヒノメの否定が弱かったことに気付いているのか、ムイは強く頭を振った。


「わたしの加護は前衛防御型フロントガードとしてしか使えないし、そのせいでヒノメさんとミズクが苦労してるのは分かるよ」


 先を行くミズクが眉根を寄せて振り向き、気づかわしげにムイを見やる。


 花守の加護は普通、複数の種別に属する能力を発現できる。例えばヒノメの加護は身体能力の向上と索敵能力を有し、前衛攻撃型アサルト索敵型スカウトの種別になる。


 ムイのように単一の能力しか使えないということは、それだけ戦いの幅が狭まって不利になる。ヒノメとミズクの二人だけでは、他の班に火力で見劣りする事実は否めないのだ。


 そしてムイの加護は掌から防壁を展開して攻撃を防ぐ能力であり、自身の近くにいる者しか守ることができず、味方の動きが大きく制限される。


 何よりもムイ自身の性格もあって、積極的に動かないのが痛手だった。


「花守で一つの種別しかないのは、わたしだけだよ。こんなだから前の班でも……」


 ムイの表情が今にも泣きそうに沈痛に歪む。


「わたしが重荷になるんだったら、もういいよ。捨てられるのも初めてじゃないし……」


 ヒノメは、ムイから聞いた過去を思い出す。試合であまり戦果を出せなかったムイは、かつて仲間から班を追い出されたことがあるという。


 どのように慰めれば分からずにヒノメが黙っていると、ミズクが声を発した。


「ムイぴょん、そんなこと言わないでください」


 ミズクは足を止め、肩を震わせている。


「さっき、ムイぴょんはミズの身代わりになってくれました。ムイぴょんには、能力とは違う強さがあるって信じています……!」


 走り寄ったミズクは両手を広げ、勢いよく抱き着いた。


「ムイぴょんは役立たずなんかじゃないです。この班に必要で大切な仲間です。だから、そんなことを言わないで……」


「ありがとう……、ミズク。でも、それ街路樹だから」


「あれ?」


 街路樹を抱いていた手を放し、ミズクはデカい樹木とデカいムイを見比べる。その様子が滑稽で、ムイは笑いだしていた。


 暗くなりかけた雰囲気を一気に吹き飛ばしたミズクへと、ヒノメは羨望の視線を注ぐ。


「もー、敵わないなあ」


 もうすぐ大通りに辿り着く。さっきまでとは少し違う自分たちをイチバ班に見せるときだ。


「ムイちゃん、ミズクちゃん、大通りに着いたよ。気を引き締めてこ」


「はいー」


 自らムイが先頭に立って歩き出す。ヒノメとミズクは視線を交わして頷き合った。

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