第二十七幕『祀るにも祭るにもあまり適しておりません-obelisk of the tormentor-』

 ほんの少しだけ昔の話、ある山村さんそんに神様が居た。

 しかしこの神様が乱暴者らんぼうもので暴れん坊、気難きむずかしくて嵐の様、生贄いけにえを好み、血をすすって肉をむ。

 神様が好むのは生まれたばかりの幼子で、三歳さんさい未満みまんの子供が亡くなると、神様の今度の生贄だったと言われてる。


 そこに現れたのは、通りがかりのお坊さん。村の人達の話を聞いて、そんな物かと相槌あいづち打つ。

 それからお坊さんは村を歩くこと、何かに気が付きまゆをひそめていぶかしむ。

 お坊さんは神様まつほこら一瞥いちべつ、ゴミを見る目で眺めたその後、持ってた杖で祠を殴った。

 はがねで出来た立派な杖で、祠はひしゃげて、ひび入り、それでもお坊さんは殴るのやめず、ついに祠は砕けて折れた。


 その時、生ぬるい風が吹いた。

 その風はただの生ぬるい風ではなく、村の近くに海は無いと言うのにいそ臭く、村は人の手が入っているというのに腐乱臭ふらんしゅう

 祠に目線をやっていたお坊さんが顔を上げると、そこには奇妙なが立っていた。

 は見上げる様な長身で、その肌は真っ白い死の色で、それでいてドザエモンの様にで、まるで頭部の無い二足歩行のアザラシの様。太く短い脚が見え、けれども両手は長くて地面をこすってる。例えるならば、くさって壊死えししたハンプティ!

 そんな《《何か》の腹部には、胴体が真っ二つになりそうなけ目あり、それが開くと目に入る、匕首あいくちの様なサイズの乱杭歯、無数に生えてた何十本。猛禽類もうきんるいがネズミを食うように、人を丸呑み出来そうで、けれども剣呑けんのんな牙があり、目にするだけでも恐ろしい。

 何かは威嚇いかくおどかしか、乱杭歯を見せて叫んで発す、言葉にならない叫び声。

「オラ!」

 何を思ったかお坊さん、杖をの口に突っこんだ。の歯茎に石突を、死ぬ程痛くしたたかに、有無を言わさず突っ込んだ。

「■■■■■■!?」

 たまらず口を閉じ、ひるみ、よろめき、うずくまる。

「オラ! オラ! オラァア!」

 けれどもお坊さんは手をゆるめない、やれ歯茎、やれ下顎かがく、やれ口唇こうしん、あっという間に前歯が全損。しかしそれでも手を緩めず、やれはなだ、やれ眼球、次は耳か頭蓋とうがいか?

 これには堪らずドタドタと、は山の中へと逃げ出した。

 お坊さんはこれを見て、落ち着き払い、安堵あんどした。先程までの乱暴がすっかりそっくりうその様。

 祠だった物を足で払い、お坊さんは良しとした。その様子に似てるのは、うるさい害虫やっつけた、害虫駆除くじょの業者さん。


  * * *


 ほんの少しだけ昔の話、ある山村に神様が居た。

 しかしこの神様が乱暴者で暴れん坊、気難しくて嵐の様、生贄を好み、血を啜って肉を食む。

 けれども暴力を好む神様は、もっとすごい暴力で、殴られその座を追われてしまい、今ではどこかへ飛んでった。

 今ではその山村で、三歳未満の子供が事故や病気で亡くなる事はめっきりったそうな。

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