第81話 三つ巴

 スワローテイル号が格納庫のハッチを開く。

 中ではツバメが準備をしてくれているはずなので、俺はクルム入りのポッドをぶん投げた。


『高速で飛来する物体を確認! ……アレ?』

「心配するな。クルムを投げただけだ」

『タツヤさん!? 音速に近い速度ですよ!?』


 おっと、つい。


『ご安心下さいマスター。こんなこともあろうかと手提げ金庫を無事に確保する手段は整えております』

『ツバメさん!? クルムさんは良いんですか!?』

『ニア、落ち着いて。ダメだったらその時はその時』

『リーシアさんまでー!? クルムさんがミンチになっちゃったらどうするんですか!?』

『ミンチ!? ムギはハンバーグが食べたいぞ! でもそのミンチは嫌だな……』


 俺も嫌だしそもそもクルムとハンバーグを繋げるなよ。

 まぁツバメに任せとけば滅多なことは起こらない……よな……?


 不安になりながらもガンブレードを砲撃モードにして構える。

 俺の方はコーティング弾を用意する時間がなかったからな。スワローテイル号に幽霊船団の対処を任せ、俺は〝六芒ノ巣〟をぶちのめすとしようじゃないか。


『解析結果が出ました! 飛来しているのは個人艇――数は1!』


 たった1艇かよ。舐められたもんだな。


 まぁクルムと金庫を吹き飛ばしてトンズラするだけなら十分って計算だったんだろうが、俺は巣穴から出てきた獲物を見逃すほどマヌケじゃない。


 表示される軌道計算を元に長距離での射撃を開始する。

 さすがに機動力に優れる個人艇だけあってクルクルと避けながら近づいてくるが、自由にさせないのが目的なので構わない。


 本当ならばがっつりこちらから攻めたいが、そうもいかない理由もある。


『戦艦ニ構ウナ! ネフィリムヲ狙エッ!』


 どっかの骸骨が俺に集中砲火を掛けているせいだ。

 スワローテイル号の射撃によって幽霊船団は数を減らしているが、ムギ頼りなせいで少しずつ、だ。

 さらに言えば、


『なんで爆発しないんだ!? いま当たったぞ!?』

『シールドです!』

『敵の動きが変わりました。陣形を組み、射撃をする戦艦と護衛をする戦艦に分かれているようですね』

『ツバメ。圧縮実体弾を』

『かしこまりました』


 クソ、頭蓋の中からっぽそうな見た目をしてる癖して、ちゃんと戦ってくるじゃねぇか。


 プロトスはスワローテイルと同じく高機動だ。回避に専念すれば当たることはないし、一発やそこらでオシャカってこともないだろう。

 

 だが、未知の武装を積んでいるであろう〝六芒ノ巣〟の個人艇を前に隙を晒すのは愚策でしかない。

 イスハークの戦艦だってまだ隠し玉がないとは限らないしな。


 結果として取れる戦法は限られてくる。

 各個撃破である。数が多く、俺からでは手出しが難しい幽霊船団をニアたちが抑えてくれている間に、〝六芒ノ巣〟をさっさと片づける。


 結局やることは変わらないのだ。


「さっさと来いよ」


 個人艇との相対距離を確認しながら呟いた直後、向こうがオープンチャンネルで通信を始めた。

 通信要求リクエストして通話をするようなものではなく、拡声器を使ってところかまわず通信を垂れ流すようなものである。


『こちらは〝六芒ノ巣〟、一等星補佐官のシュルツだ。栄えある〝帝国〟の名の元に命ずる。双方、武装を解除せよ』


 赤い髪をオールバックになでつけ、フレームレスの眼鏡をかけた伊達男が、まるで従うのが当然とでも思っているかのような態度で宣告した。


 当然ながら俺に従う義務などないので射撃を続行するが、一応は最悪の事態を考えて幽霊船団にも警戒を強める。

 同じ帝国側ってことでイスハークと連携を取り始めたら、いくらプロトスでも分が悪いからな。


 ギリ、と奥歯を噛み締めたところで、オープンチャンネルに当のイスハークが参入した。

 初見殺しを防ぐためにも逃げるか、と考えたところでイスハークが放ったのは、予想外の言葉だった。


『〝六芒ノ巣〟……? 貴様ラ如キガ帝国ヲ僭称スルナドト片腹痛イ』

『ふむ? 何だ貴様は』

『我ガ名ハ〝イスハーク〟。バルバロス王国ノ提督デアル』

『ふむ? 帝国に属するのならば速やかに我が指揮下に入れ。こちらには――』

『問答無用ッ!』


 幽霊船団からの砲撃が飛ぶ。

 俺にではなく、シュルツの操る個人艇に、だ。


『話を聞けッ!』

『断ル! 貴様ガ真ニ帝国ノ者デアルナラバ、我ガ悲願ノ為ニモ捕縛サセテモラオウ!』


 事情は分からないが、本格的に攻撃までしていることを考えると演技ということはないだろう。


『ふん……遺物ならば収集も視野に入れるが、帝国に歯向かうようなポンコツに用はない。沈めてやろう』

『Yo-ho-ho-! デキルモノナラバヤッテミセヨ!』


 互いに争い始めてくれたので逃げようとしたが、両者から鋭い声が飛ぶ。


『逃ゲルナラバ貴様ヲ狙ウゾ!』

『私は武装解除を命じた。従わぬならば撃墜対象だ』

『フム? 先ニネフィリムヲ狙ウナラバ手ヲ組マンカ?』

『私一人でも余裕だ。手を組むメリットが見えないな』


 手を組まれたらと冷や冷やしたが、助かった。


『ナラバネフィリムヨ。コノ個人艇ヲ――』

「節操なさすぎるだろ……俺も断る。テメェも六芒ノ巣もぶっ飛ばすことには変わりねぇからな」

『捕縛ニ協力スレバ見逃シテヤッテモ良イゾ?』

「断ったら?」

『無論、殺スマデ』

「面白れぇ冗談だ。これからになるくせに、どうやって俺を殺すって?」

『……良カロウ。全員等シク平ラゲテクレルッ!』


 個人艇の接近に合わせ、幽霊船団からネーロも飛び出してきた。

 大混戦の始まりだ。




※ハンバーグ

ひき肉をこねて焼いた料理。古くは中国の小説「封神演義」にも肉餅として登場する。ちなみに封神演義の肉餅では、伯邑考という王族が材料にされる。

藤崎竜先生が描いたジャンプ漫画「封神演義」でも妲己のクッキングによってハンバーグになる。ちなみに料理は父親の文王・姫昌が食わせられることになる。人の心ないんか。

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