第9話 嫌な予感

『スキャンが終了しました。爆発物・盗聴機・発信機の類は確認できませんでした』


 ツバメの言葉にほっと一息。


「良い取引ができて何よりだ。これから同業になるわけだし、よろしく頼む」

『は、ははは……こちらが迷惑を掛けたんですから、当然です』


 モニターの向こう側では、敬語になったベスタが引きつった笑みを浮かべていた。

 俺への敵対行為と、降伏後に4艦の離反。

 この2つの賠償代わりに食料を供出させたのだ。


 金銭だと思っていたらしくかなり驚いていたが、俺たちにとっては食料の方がよほど大切だ。生き残った21艦から大量の食料品を出させたことでスワローテイル号の食糧庫は潤った。


『当機のキャパシティならばこの30倍は積み込めます』


 ツバメは食料品を麦の一粒、水の一滴まで搾り取ろうとしていたが、さすがに可哀想なので8割くらいで止めた。


「いや、しかし済まないな。食料も物資も足りてなくて困っていたんだ」

『お、お役に立てて何よりです』

「それじゃあ解散としよう。どこかの宙域でった時はよろしく頼む」

『ぜ、ぜひ……』


 通信を切った——ふりをして傍受を続ける。

 直後、ベスタが部下らしき男に向けて怒鳴っていた。


『何なんだよあの怪物はッ!』

『だ、団長、落ち着いてください……賠償は食料品のみ。金銭的な損害は軽微です』

『軽微? 軽微だと?』


 ベスタは部下の胸ぐらをつかんで引き寄せる。


『今後、アイツが傭兵活動に参加するんだぞ!? 同じ依頼を受ければアイツが総取り、敵対すれば宇宙の藻屑だ!』

『そ、それは……!』

『見ただろうあの異常な動きを! 宇宙空間でスピンしながら射撃してたんだぞ……!』


 バリバリと頭を掻きむしった後、部下を離したベスタはどっかりと座り込んだ。


『……俺は今すぐこの星系から離脱する。傭兵団は解散、全艦に通達して着いてくる奴だけで再編成だ』

「もう良いや。切ってくれ」


 とりあえず舐められないことに成功した、か。

 ずいぶんと変則的だが、傭兵の第一歩としては十分だろう。

 後は依頼をしっかり達成して、実績を積めば一端の傭兵になれるはずだ。

 後は俺だけのがあれば依頼も増えるだろうしウハウハのはずだ。


 そうだな……依頼達成率100%なんて良い売り文句じゃないか?

 

「ツバメ。この星系に関するデータを集めてくれ。それからニアちゃんとお祖父さんが居た研究所についてや、管理局で俺たちに喧嘩を売ってきたデブの背後関係もだ」

『かしこまりました』

「あの、えっと……?」

「念のため、だよ。ニアちゃんは安心して待っててくれ。最強の……あー、最強の傭兵がついてるんだからな」


 にかっと笑えば、ニアちゃんも安心したように微笑んでくれた。

 ちびっ子は笑顔が一番だからな。


「さて、とりあえず飯にするか」

「ごはん! 朝ごはん食べたばっかりですよ!?」

「物資が手に入ったからな。嫌か?」

「いえ! 美味しいので大好きです!」


 優雅なブランチと洒落込んでいる間にツバメが色々と開発してくれた。

 中でも強力なのは腕時計型の通信装置だ。

 見た目は売り物と同様だが、中身はツバメが一から設計したオーバースペックな逸品である。


 ツバメとの通信がいつでも繋がっており、付属のコンタクトレンズとインナーイヤホンで会話も映像の送受信も完璧。

 さらには手首側についた電極で、会話を一切邪魔することなく嘘を吐いた人間や自分を狙う武器を感知すると俺に教えてくれる。


『外出は強化外骨格パワースーツの開発を終えてからが望ましかったんですが』

「まぁ、念のためだから。普通に活動してたら出かける必要もないからな」

強化外骨格パワースーツの武装に私が同期すれば背中の千手せんじゅアームで毎秒5万発の弾幕を——』

「強化外骨格の開発は禁止な」

『……かしこまりました』


 過保護とかそういうレベルじゃないだろ。

 軍隊と戦うの? 国でも滅ぼすの? ってレベルである。


 とにかく。

 これのお陰で俺は、ニアちゃんに聞かれたくない情報を得ることが出来る訳だ。


『管理局の職員ですが、バラ撒いた情報のせいですでに死んでいました』


 進退きわまっての自殺かと思ったが、スキャンダルになる前にされたらしい。

 あのデブの独断専行なら話は早かったんだが、やはり背後に何かいるようだ。

 まぁ金銭わいろじゃなくてニアちゃんの身柄を要求してきた時点でかなり怪しいと踏んではいたが。


「背後関係は?」

『やや複雑ですが、ある程度は把握いたしました』


 この星系は他の星系から技術が流れ込んできて宇宙進出を果たした。

 それ以前は中世ヨーロッパと同程度の技術力だったそうだ。


『急激に発展したせいで、当時の貴族制度が中途半端に残っています』


 デブ職員も一応は貴族で、特権階級だったらしい。

 クソみたいな態度も、自分が権力側で守られることが分かっていればこそだろう。


『職員の通話履歴、そして殺害方法や状況を分析した結果、背後にいるのはナーロウ公爵家である可能性が98.85%』

「その公爵家については?」

『……現在ハッキングと分析を繰り返していますが、あまりかんばしい成果は得られておりません』

「そんなに硬いプロテクトなのか?」


 スワローテイル号の技術でもハッキングできないとか、相当だろ。


『……プロテイクト技術の一部に、私とが含まれています』

「同等って……先史文明の技術か!?」

『ご安心ください。当機は大戦後期の全技術を集めて作られた最高傑作です。相手が当時の技術者でもない限り負けることはございません』

「信じて良いんだな?」

『もちろんでございます。マスターはただ命令をくださればいいのです。敵勢力を丸裸にしろ、と』

「敵勢力を丸裸にしろ。実際の戦闘ならが相手だろうと俺が勝つ。だから情報戦は頼む」

『かしこまりました!』


 考えなければならないことがもう一つ。


「何でそんな連中がニアちゃんの身柄を求めているんだ……?」


 先史文明の遺産は強力だ。

 それはスワローテイル号を得た俺が一番よく分かっている。

 使い道など分からずとも、とりあえず集めるという方針だったとしてもおかしくはないだろう。

 ニアちゃんが持ち去った自動人形を求めているならば一応の説明はつく。


 だが、何か嫌な予感がするんだよな。


「まぁ、やれるだけやるか」


 俺はもう、気に入らないものには従わないと決めたんんだ。

 意地を通すためならどんな状況に追い込まれたって構わない。


 ……ニアちゃんだけは何とかしてやりたいけどな。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る