第8話 祇園ラビリンス

 5月8日

 厚生労働省、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけを結核やSARS等と同様の2類相当から季節性インフルエンザ等と同様の5類に変更。

 

 朝倉は『クライムクエスト』という位置ゲームで遊んでいた。彼はゲームの世界での行動に独自のアプローチを持ち、裏技を駆使して物語を切り拓いていった。

 朝倉は牙城雅樹というキャラクターを操作していた。雅樹は歌舞伎町での戦いに疲れ、新たな舞台を求めていた。そこで朝倉は、ゲーム内で使える裏技を駆使し、雅樹を歌舞伎町から祇園へワープさせることに成功した。


 祇園は京都の伝統的な街並みと文化が息づく場所であり、雅樹はそこで新たな冒険を始めることになった。彼は歌舞伎町とは異なる環境や人々との出会いを通じて成長し、物語に新たな展開をもたらすことになるだろう。


 朝倉はこの裏技を駆使した冒険が、ゲーム内だけでなく自分自身の成長や発見にも繋がることを感じていた。彼はゲームの世界での活動を通じて、現実の自分にも新たな可能性や視野を開くことを楽しみにしていた。


 朝倉は舞台となった祇園で様々なクエストに挑み、ゲーム内でキャラクターを成長させていた。しかし、ゲームの要素がリアルな生活にも影響を与えることは朝倉にとって予想外の出来事だった。


 翌朝、朝倉はゲーム内で犯罪を犯し、キャラクターが魔法を覚える瞬間を体験した。その後、リアルな生活でも同じような犯罪を犯してしまい、その結果としてゲーム内でのキャラクターがさらに強力な魔法を覚えることになった。


 朝倉は『クライムクエスト』を中断し、鴨川の上に架かる四条大橋をゆらゆら歩いた。ヒバリのピヨヨヨという囀りが聞こえた。コンビニに入り、思い悩む表情でコンビニの棚を眺めていた。彼は財布を忘れてしまい、急いで必要な品物を手に入れなければならなかった。そこで、彼は悩んだ末に一つの行動を選んだ。


 カメラに映ることを気にしながら、朝倉は自分のカゴに商品を入れていった。生ビールやポテチなど。しかし、その中にはレジで支払う必要があるものと、そうでないものが混ざっている。彼は不安と緊張を感じながらも、一歩ずつ前に進んでいく。


 そして、レジに到着した朝倉は不自然な動きを隠すように商品を選び、支払いを行う。レジの音と共に彼の心臓の鼓動が高まり、ドキドキとした緊張感が漂った。

 しかし、店員は朝倉の行動に気付くことなく、支払いが終わった。朝倉はほっとした表情を浮かべた。


 朝倉は万引きをしてしまった後、心を痛めながらも『クライムクエスト』をプレイした。すると、ゲーム内で彼の操作しているキャラクターである牙城雅樹が、突然新しい魔法を覚えるというメッセージが表示された。牙城雅樹が覚えた新しい魔法は、「影の手」だ。この魔法は、敵や障害物を遠くから操作して動かすことができる能力を持っている。牙城雅樹がこの魔法を使うことで、敵を混乱させたり、遠くの宝箱やスイッチを操作したりすることが可能になる。影の手は、牙城雅樹の戦闘力と探索能力を向上させる重要な魔法として役立つ。


 牙城雅樹はその魔法を使って、ゲーム内の敵やクエストをより効果的にクリアすることができるようになった。しかし、朝倉は喜ぶどころか、自分の行いがゲームの中にまで影響を及ぼしてしまったことに対して深い後悔と責任を感じていた。


 ゲーム内での牙城雅樹の魔法は、朝倉のリアルな行動によって強化されたものであり、その事実に彼は改めて現実と仮想の世界が密接に結びついていることを痛感した。


 朝倉はこの出来事に衝撃を受けながらも、ゲームとリアルな世界の境界が曖昧になっていくことに戸惑いを感じた。彼は自らの行動に責任を持ち、ゲームと現実のバランスを取るために努力することを決意した。

 

 同日、美咲が寄宿している八幡市にある藤井の屋敷に、京都府警の捜査部部長である大久保裕二が訪ねてくる。藤井は大久保って陣内孝則に似てるな〜と、思った。

 彼はある『珍妙な事件』に手を焼いており、藤井の助言を請いに来たのだった。それは貴船にある高級ホテル『みなもと』において起こった出来事で、山口智子に似た貴婦人が閨房で私的な手紙を読んでいるとき、ちょうどその手紙のことを知られたくない男性が入ってきたので、引き出しにしまう時間もないままやむを得ずテーブルの上において誤魔化していたところ、そこにさらに藤原勝リゾート環境省大臣が入ってきた。藤原は辰巳琢郎に似てる。  

 彼はすぐにテーブルの上の手紙を見てそれがどういう性質のものであるかを察すると、彼女に業務報告をしたあとでその手紙とよく似た手紙を取り出して読み、その後でテーブルの上に置いた。そしてさらに業務報告を続けた後、帰り際に自分が置いたのでないほうの手紙をまんまと持ち去ってしまった。藤原大臣はこの女性の弱みを握ったことで政府内で強大な権力を得るようになり、困り果てた女性は警察に内々の捜索を依頼したのだった。


 その手紙の性質上、それは何かあればすぐに取り出し、場合によっては破棄できるように、間違いなく大臣の官邸内にあるはずであった。

 また身体調査が行なわれる危険を考えれば、大臣が肌身離さず持ち歩いているとは考えられない。

 警察は大臣の留守の間に官邸を2インチ平方単位で徹底的に調査し、家具はすべて一度解体し、絨毯も壁紙も引き剥がし、クッションには針を入れて調べるという具合で三ヶ月も続けたが、一向に成果が上がっていなかった。

 事件のあらましを聞いた藤井は「官邸を徹底的に調査することだ」とだけ助言して大久保を帰した。

 

 一ヵ月後、再び大久保が美咲と藤井のもとを訪ねてくる。

 あれから捜査を続けているがいまだに手紙は見つかっておらず、手紙にかけられた懸賞金は莫大な額になっているという。

 そして「助けてくれたものには誰にでも100万払おう」と言うと、藤井は小切手を出して100万を要求し、サインと引き換えにあっさり件の手紙を渡す。

 そして大久保が狂喜して帰っていくと、藤井は美咲に、自分が手紙を手に入れた経緯を説明し始める。

 

 藤井は事件の経緯や警察の徹底的な捜索、そして大臣の知性を考え合わせて、大臣は手紙を隠すために、それをまったく隠そうとしないという手段に出たのだと推理していた。

 藤井は官邸の大臣のもとを、目が悪いのだという口実のもと緑色の眼鏡をかけて訪れ、大臣と世間話に興じる振りをしながら部屋を見渡すと、すぐに壁にかかっているボール紙でできた安物の紙挿しに目をつけた。

 そこには一通の手紙が堂々と入れられており、それは予め聞いていた件の手紙の特徴とは似ても似つかないボロボロの手紙で、大臣宛の宛名も記されていた。

 しかし藤井はこれこそが求める手紙であり、手袋のように裏返しにされて別の手紙のように見せかけているのだと確信し、いったんは官邸を辞去する。

 

 そして後日、煙草入れを忘れたという理由で再び官邸を訪れると、予め雇っておいた酔っ払いに騒ぎを起こさせ、大臣がそれに気を取られている隙に、それとよく似せた別の手紙とすりかえたのだった。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る