4月22日(真)

" あれは一九三八年の、秋の夕暮れのことだった。

 おれの目の前にいる、身長がゆうに一九五センチはあるイギリス人はどんなマジックを使ったのかさわりもしないでコーラの栓をぶっ飛ばしたのだ。

 気のせいかおれには彼の体がその時少し光ったように見えた。そしてその栓は圧倒的パワーでポリ公の指をグシャグシャにしながら完全にへし折り肉をはじき飛ばした。なんてやつだ。警官をこんな目にあわせたのに、なんとこいつはエリナばあちゃんという人に叱られることだけを恐れている。

 おれはこの大男と無我夢中で逃げた。

「ハァ ハアハア おいあんた ひとつききてえ あの警官にしたことは ありゃいったいなんなんだ コーラの栓のことさ」

 知らないということだった。子供の頃から自然にできるといっていた。触った動物をねむらせたり、出血を止めたり。彼のいうには、なんでも若くして死んだ彼の祖父が同じことをできたらしい。パイロットで、戦死した父親はできなかったとも言っていた。母親もいないらしかった。

「なんだか知らねーけどよ あんたに借りを作っちまったな 名前をきかせてくれよ」

「ジョースター ジョセフ・ジョースター ジョジョって呼んでくれ」 "

(荒木飛呂彦『ジョジョの奇妙な冒険』)



 疲れていた。だからいつもなら缶コーヒーのところをコーラにしてみたりした。糖が必要だった。コーラとは何か。糖だ。ならコーラだった。そこまではよかった。人間の習慣はおそろしい。手癖でおもいきり缶を振った。そこからあまりにも躊躇なくプルタブを起こす。この間僅かコンマ数秒。その口は圧倒的パワーで指どころか手、なんなら顔の辺りまでビシャビシャにしながら完全に俺の心をへし折り内容量を半分近くはじき飛ばした。なんてこった。一〇〇円以上払ったってのに五〇円近くになっちまった。

 俺は無我夢中で顔の、俺の舌が届く範囲を舐めた。

「ハァ ハアハア これ以上一円も無駄にしたくねえぜ コーラの内容量のことさ」

 辛いとのことだった。子供の頃から親がテキトーに貯めてた小銭を盗んでねりけし(粘土みたいな消しゴム)を買いに行こうとしたらバレて草むしりさせられていたところに近所の人が通りかかって「偉いねぇ」と言われ幼ながらに何かが死んだ。母親も情けないらしかった。

「なんだか知らねーけどよ ビシャビシャからのネチャネチャになっちまったな 名前をきかせてくれよ」

「アナル アナルポメラニアン アナポメちゃんと呼んでくれ」


『静かに暮らしたい』 第二部 戦闘潮流

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