相馬⑥
その日、またしても自宅近くで待ち構えていた相馬のもとに、服部がやってきた。
「どうも」
彼の姿を見た相馬は、お決まりのように笑みを浮かべて頭を下げた。
すると服部はしゃべりだした。
「なあ、その基金ってやつ、たしかそれぞれの会社で正社員だったら手に入れられるぶんのカネを援助してやるって話だったが、いっそのこと正社員を上回る金額をもらえるようにしたほうが、世間に与えるインパクトは大きいし、逆に損する羽目になる正社員たちが不満を持つだろうことで、雇用の法律なんかの改善につながるんじゃないか?」
「そうですねえ。でも、その不満が非正規の人たちに向いて、正規対不正規という対立を招いたら困るので、やめときます」
「だけどよ、その仕組みだと、非正規以上に経営者の奴らに好都合になっちまうんじゃねえか? 本当は給料とかをもっと与えられるのにただ与えない、悪質な経営者なら特によ」
「確かに。ですけど、この基金の一番の狙いは、そういういわゆるブラック企業を退職できるようにすることなんです。次の仕事の当てがなく、路頭に迷いかねないから、ひどい扱いをされててもその職場で働き続けている非正規の人たちに、辞めても大丈夫なよう貯えられるようにというのと、これに関しては正社員以上の、失業手当を提供するってやり方でね。ただ、その手当てが充実し過ぎて働く気をなくされたりしたら困るので、ほどよい期間の設定や、次は良いところに勤められるようサポートするなんてのを考えてもいます。でも、いいっすね。そうやって意見があるなら、ぜひどんどん言ってくださいよ。ところで、稼ぐ協力のほうはしていただけるんですか?」
「ああ。とりあえずどんなもんかやってみるってのでもいいんならだがな。俺はかなりの人間不信だからよ」
「結構ですよ。だけどその前に、あなたがギャンブル中毒じゃないことを医者にチェックしてもらって確かめさせていただきたいんですけど、いいですか?」
「チッ」
面倒そうに嫌な顔をした服部だったが、すぐに、いつ以来か本人も思いだせないくらい久しぶりの笑顔になって、言った。
「しゃーねえな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます