幕間劇 Ariel
彼女は知っていた。彼女は理解していた。彼女はわかっていた。彼女は認めていた。
【時計兎】の言う通りなのだ。
もう、方法はこれしかない。
盲目的な賞賛と絶賛の嵐の中、彼女自身だけは状況を正しく把握してきた。
確かに、彼女は玉座に着いている。神々しい冠も被っていた。それも当然だ。
過去、彼女は『比喩ではなく』死闘に打ち勝ち、スタァの地位を得たのだから。
後のことは、約束された結果にすぎない。予定調和として敷き詰められた栄光の道を、彼女は歩いてきた。だが、同時に、薄々察してもいたのだ。
偶像の絶頂期には必ず期限が設けられている。
永遠の歌姫など、誰も求めてはいないからだ。
スキャンダル。トラブル。炎上。なんでもいい。墜落もまた、人の無意識下で求めるエンターテイメントだ。ならば自分にも必ず終わりの時が来る。そう、彼女は予測していた。
だから限界が来た時、困惑も動揺しなかった。ただ、【時計兎】に『再挑戦』を求めた。
彼女は思う――これに失敗して、敗れたのならば。
彼女は頷く――自分は胎を裂かれて死ぬのだろう。
無惨に、血塗れに、殺されるのだろう。
偶像の醜悪な中身を晒されるのだろう。
それでもよかった。至高の歌姫でいられない以上、この身には屍ほどの価値もない。前回の【少女サーカス】以来、決めていたのだ。彼女には歌しかない。なにがあろうとも、絶対のプリマドンナでいなければならなかった。だから、現在の地位を維持するため、彼女は再び残酷で危険なゲームへ挑むこととしたのだ。
人は語る。Arielはパレードのごとき、快進撃を続けている。
だが、彼女に言わせれば、永く砂漠を歩いてきた心地だった。
そして、これからも独り歩き続ける。
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