43.チェック重要

 裏道のひとつで別の隊員を見つけたアオイさんは、手早く何か指令を出していた。


「グレンさん、あれ何ですか?」


「んー。副隊長、何か分かったんだろ。ま、のんびり見てな」


 グレンさんはそう言って、ぱんぱんと軽く俺の肩を叩いた。あ、もしかしてタケダくんがいるから気を使ってくれてるのかな。

 それはともかく、のんびり見てればいいのか。そう思って俺は、おとなしく巡回についていく。

 やがて、いくつかの店を回っているうちにアオイさんの手の中にはいろいろ資料が溜まってきた。いや、店に行くたびに中から傭兵仲間が出てきてさ。


「副隊長、お待ちしておりました。こちらが資料です」


「おう。早かったね」


「そらまあ、半日分なら早いですよ」


 とこんな感じ。それぞれ紙数枚ってところなんだけど、それらを見比べてアオイさんは何か難しい顔をしていた。周囲の警戒はグレンさんに任せているらしい。いや、俺とタケダくんも一応警戒してるけどさ。

 そのうちに落ち着いたようで、うんと一つ頷いたので聞いてみるか。


「さっきから見てるの、何の資料ですか?」


「これ? 店に来た客の資料。といっても、特定の者を聞き出してピックアップしてもらっただけなんだけどね」


「はあ」


 そういうリストなのか。しかし、特定の者ってどういう奴なんだろう。さっきの指示、それかなあ。


「黒に影響された連中さ。少なくとも、グレン一人で伸せなかった奴らがどういう連中かは覚えてるだろ?」


「あ、はい」


 アオイさんに尋ねられて、ざっと頭の中を引っ掻き回す。隣にいる赤毛の兄ちゃんがしゃべったセリフを思い出して、自分の口で再生。


「えーとお金持ち向け服屋の針子さん、本屋さんの倉庫番、領主さんとこの門番さんに、ハナビさんの後輩でしたっけ」


「正解。よく覚えてるなー」


 いや、グレンさんがそこで感心するのってどうだろう。つか、あんたが言ったんだろうが。

 ……それを一回だけで覚えたのが感心するところなら、四つくらいなら何とかなるって。

 んで、アオイさんも満足したように頷いて、言葉を続ける。


「領主邸はともかくとして、それ以外の店で調べてもらったのさ。服屋であの針子に服の手直しをしてもらった客、本屋で珍しい本を倉庫から出してもらった客、ハナビの後輩の客」


 あ。今回った店、服屋に本屋に夜なら派手に明かりが灯ってる系のお店だ。それに、考えてみりゃ全部回るお客さんがいてもおかしくないか。こっちの世界だと、夜のあっち系のお店も当たり前なんだから。

 そういうことかよ。よく分からんが、あの四人と直接会った人間が共通していれば、そいつが怪しいってことか。


「共通してる人を探してたんですね」


「そういうこと。で、ついでに昨夜くらいから今朝方までに門を出た人物の一覧を持ってきてもらったわけ」


「そういうリスト、あるんですか」


「ユウゼはちっこい独立国みたいなもんだからね、出入りはきっちり見とかないと」


 でっかい塀で街を囲んでいる理由の一つが、多分これだな。人の出入りをきっちりチェックして、怪しい奴がいないかどうかを確認する。あれだ、税関がどーとか空港なんかの出入国チェックだ。なるほど。

 ふと、グレンさんがあれ、と何かを思いついたようにこっちを振り向いた。


「ジョウ。お前さん、この街に入るときはどうやって入った?」


「あ、ハクヨウさんたちに連行される、って形で入りました」


「そりゃそうだろ。『異邦人』じゃ身分証明もできないからねえ」


 ハクヨウさんが、「こう言ったほうが話が早い」なんて言ってたっけ。連行される形でないと、いろいろ面倒だったんだな。多分入国手続きとか、アオイさんが言ったみたいな身分証明とか。異世界転移って大変なんだなあ……いやあんまり実感ないけど。


「だからハクヨウたちの身分を使って入ったわけか。ま、いいか。今はもう、うちの部隊の人間として登録されてるはずだしな」


「いつの間に」


「いつの間にか。隊長、領主と仲いいし」


 グレンさん、しれっと答えるけどそれでいいのかよ。いや、実際にはなんやかんやで手続きとか大変だったのかもしれないけど……カイルさんに聞いても絶対答えそうにないぞ、あの人。

 それにさ、街治めてる領主さんと街守ってる傭兵部隊の隊長さんが仲悪かったら困るだろうが。つかそれだと、成り立たねえしいろいろと。


「そんなわけで、こうやって門を通った連中をチェックしてさっきチェックした共通の客、と照合すんの。問題を引き起こした奴は、今朝くらいまでに街を出てる可能性が高いからね」


「自分が巻き込まれないように外に出て、その後で影響を受けた連中が騒ぎを起こしたんですかね」


「恐らくね。同じくらいの時間帯に、神殿の方でも何かやってんだと思うよ」


 あ、話が戻った上にカイルさんたちとつながった。やだなあ、それなりに組織的に動いてるってのは。

 けどそうなると、この前の黒フードとは別なんだろうか。その辺りは、考えないことにしよう。というか、ムラクモの趣味じゃなくって尋問でもあんまり後ろとか出てこなかったみたいだし。

 ところで、アオイさんがリスト見ながら楽しそうに白い歯をむき出しにして笑ってるんだけど、これはひょっとして。


「その顔は、お目当て見つけましたね?」


「分かる?」


「分かります。獲物見つけた獣の目してますから」


「あらやだ」


「副隊長、可愛い仕草して似合うのはジョウみたいな可愛い子だけだとおもうごあっ」


 グレンさんがセリフを最後まで言い終わる前に、アオイさんのアイアンクローが炸裂していた。というか、今更だけど可愛いと言われるとまだまだ微妙だ。ガワは女の子なんだから、可愛いってのが褒め言葉なことは分かってるんだけどね!


「コーリマ王国の外れにちっぽけな領地を持ってる、成金男爵がいるんだよ。そいつだ」


 あとアオイさん、楽しそうなのは分かるけどグレンさん放してやって。痛そうだから。

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