6.朝いち
朝日が眩しい。あー、ゆうべ寝るの遅かったからなあ。
ぼんやりした意識の中、俺は目を閉じたままごろんと寝返りを打った。その拍子に、腕が身体の上に落ちる。そうして、むにという感触。
……むに?
「っっっ!?」
思わず口押さえながら跳ね起きた。右見て、左見て、下を見る。
そこはゆうべ連れて来られた傭兵部隊宿舎の一室で、俺は女性の身体で。
「……あー」
でかい声上げる前に口押さえててよかったよ。マリカさん辺りがすっ飛んできかねん。
そうだ。俺、女になっちまってたんだっけ。いや、寝て起きて夢だったらそれはそれで良かったんだけど。
恐る恐る、服の上から胸に手をやる。むに。
「……………………リアルおっぱいだし」
触った感触と触られた感触が同時にあったから、この胸は確実に俺の胸である。パンツの中は確認するまでもなく、というか男なら朝もはよから健康的に元気だと思うがそれもなし。
「どうすんだよ、ったく……」
改めてはあ、とでっかいため息を吐いてみる。いや、それで世界や身体が変わるわけでなし。
とりあえず着替えて、朝飯にするか……と思ってふとテーブルに目を移すと、昨夜食ったミルク粥の食器は跡形もなくなっていた。俺が寝た後でマリカさん、見に来て引き上げてくれたのかな。
「世話になってるお礼はしないとなあ……」
と言っても、何すりゃいいんだろうね?
とりあえずブラジャーの付け直しに四苦八苦した後、タンスの中からかぶりのシャツと腰のところ紐で締める七分のパンツを出して着替えた。さすがにいきなりスカートは無理、昨日シャツ一枚だったけど下半身すーすーしてなあ。
で、部屋の扉からそっと出たところでマリカさんと鉢合わせした。あーいや、マリカさんが迎えに来てくれたんだけど。
「おはようございますー。眠れました?」
「あ、はい。おかげさんで」
「そう、よかったー。よく似合ってるよ」
……似合ってるって、服のことかな。まあ、変なの選んだつもりはないからいいんだけど。というか、朝からマリカさん、ハイテンションだなあ。昨日と同じ服なのは、着回ししてるのか着替えてないのかどっちだろう。
「まずは朝食からね。人間、腹が減っては戦はできないんだから」
「はは、そうですね」
俺を先導しながら、楽しそうに振り返るマリカさん。
あー、でもなんかほっとするな。この際俺が男だとかそういうのほっといて、気にかけてくれてるってのはわかるし。
そのうち、大きめの部屋に入った。ま、要するに食堂らしい。そこには昨日俺を助けてくれた傭兵さんたちがいて、各自楽しそうに食事を取っている。てか、朝からがっつり肉行く人が多いのはやっぱり肉体労働系だな。
「おはようございまーす」
「あ、おはようございます……」
けらけら笑うマリカさんの後について、恐る恐る中に入る。と、白と黒の二人みつけた。ハクヨウさんの髪の色のせいか、目立つなあこの推定双子。
「ああ、おはよう。よく眠れたかな」
「おう、おはよう。何だ、顔色良くなったな」
「え、俺そんなひどい顔してました?」
ハクヨウさんは穏やかに、コクヨウさんは豪快に笑って迎えてくれた。あー、普通に見ると気のいいおっさんコンビなんだよなあ。てか、人の顔色とかよく見てたよな。昨日って戦闘してたらたまたま俺拾ったってとこなのにさ。
「してたしてた。可愛い顔が台無しだったぞ」
「コクヨウさん、鼻の下伸ばしてるとハナビさんにぶん殴られますよ?」
「そんなの、お前らが黙ってりゃ済むことだろうが」
……悪い言い方するとにへら、とやーらしい笑いしたコクヨウさんに、マリカさんが軽くツッコミを入れる。ハナビさんって誰だろ、あの言い方からすると恋人さんか何かかね。まあ、俺が可愛いかどうかはともかくとして、可愛い女の子に鼻の下伸ばす気持ちは分からんでもない。対象が俺なのが問題なので、そこだけは無視しよう。
さて、ここでちょっとした問題が発生した。といっても、まあ考えてみりゃそうだよなあ、っていう問題なんだけど。
「ジョウさん、朝食何食べます?」
マリカさんがそう言って示した壁。多分メニューだと思うんだけど、どこかローマ字に似てるような文字がずらりと並んでる。で、まあ、読めないわけだ。
「……えーと」
「マリカ、彼女読めないと思うよ」
固まった俺を助けてくれたのはタクトだった。うわ、明るいとこで見ると若いなりにイケメンだな。昨日と違ってラフなシャツとパンツだし、こう見るとごく普通の中学生だ、うん。
「あ。ごめんなさい、そうなの?」
「あーうん、無理。読めない」
「適当に選んであげたら? 好み聞いてさ」
「あら、じゃあタクトが選んでくれます?」
「えー?」
こらあんたら、当事者ほったらかして夫婦漫才だかコントだか始めるな。周りの皆も、止めるなり何なりしてくれよなー。
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