第十三話『魂の重さ-Damnation-』

 みなさんは、人間の魂には重さが存在すると言う説が存在する事をご存知かしら?

 アメリカのある実験によるところ、人間の肉体は生前と死後ではおよそ二十一グラム軽くなると言う結果が得られ、この様な説が成立したと言われています。

 では何故死体からは魂が消えて、体重が減ったのかしら?

 それは何故なら肉体には一種の重力があり、魂は浮力と重力に相応する物の影響を受けているからに他ならないと言えましょう。

 肉体は生きて居るから重力を発し、結果として肉体は魂を手放す事は無い事になるわ。

 逆に、魂が天に昇ったり地獄じごくちる事無く、成仏出来ない幽霊になるのは、魂が自分の死を認識出来ない時に起きると私は結論づけました。

 ほら、幽霊って生前の怨みをつらつらと述べたり、写真に写りに来たり、生者にちょっかいかけたりするでしょう?

 あれは自分が死んでいると薄々分かっているけど、死んでいると認めたくないからそうするのよ。

 魂を引きとめる肉体が無くなったからあの世へ魂が飛んで行って、仮に生まれ変わりなんて事があるとしたら、肉体が生じたから肉体に引っ張られて魂が飛んで行く……この世とあの世はキャッチボールをしている事になるわね。


 * * * 


「アイネさん、しまっておくように言われた機械? ですけど、触るなって張り紙が貼ってあって、ブンブンと稼働かどうしている様な駆動音くどうおんを立てているんですけど、アレって動いたままでいいんですか?」

 大小様々な不思議で怪しげな小物が商品棚しょうひんだなに並んだ店の中、どことなく刃物の様な印象を覚える、アルバイトの男子学生がそう質問をする。

「ああ、それね。それはブラックホール発生装置よ」

 アイネと呼ばれた、すみを垂らしたような長髪とシンプルなイブニングドレス風の服装が目に映える女店主は、特に何も大したことは無いとでもいう様な口調でそう答えた。

「ブラックホール発生装置……って、あのブラックホールですか?」

「そう、あのブラックホール。これの電源を入れておくと、徐々じょじょに徐々に目に見えない霊的な質量をともなったエネルギーを周囲に取り込んでいって、最終的にあの装置の中にブラックホールが出来るわ。理論上は、ね」

 アルバイトの男子学生は驚き半分、冷静半分と言ったところか、雇い主の言葉を聞いて目を白くするやら黒くするやら、しかしそれでいてその場でじっとしていた。

ひど剣呑けんのんじゃないですか! そんな物、本当に電源入れっぱなしにしておいて良いのですか?」

 アルバイトの男子学生の言葉は諫言かんげんと言うよりは、合いの手の様な雰囲気であった。

 彼の雇い主は明らかに彼をからかっているし、彼の方も彼の方で女店主を信頼しているのだ。

「ええ、剣呑な話だと私は思うわ。あの装置が正しく動いていて、組み立てた人の理論が正しければ、計算が正しいと仮定して、およそ八百六十五億年後にブラックホールが発生するかしら? いえ、八百六十五億と八千万年後の方が正しいわね」

「八千万年を誤差みたいに言わないで下さい。しかし、それは実質的に失敗作ですね。八百億年以上経ってようやく完成だなんて」

 その言葉を聞いた女店主は、可笑しそうにクスクスと笑いをこぼした。

「いいえ、分からないわよ。人の命は必滅だけど、人の魂は不滅だと言うのですもの」

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