睡眠転生

高崎レイナ

夢遊病

 私はMia Bright(ミア・ブライト)二十三歳(女)だ。今アメリカの田舎の別荘のプールで黒と赤の模様が入ったビキニを着てオレンジ色の夕焼けを浴びながら一人寂しく遊んでいる。

 プールサイドの縁に座り、膝に水が届きそうなほどに脚を浸している。私の両親は世界でも指折りの大企業のCEOだ。そのおかげでおいしい物を食べさせてもらったり海外旅行で行きたいところに連れてってもらったりしたが、最近はそんな贅沢ですら心が満たされなくなった。

 彼氏が欲しいとかセックスしたいとか子供を産みたいとかそんな欲は求めていない。というより普通過ぎてつまんないからだ。そして両親は私を置いて二人だけで海外旅行だ。別にそれでも構わない。短くても一カ月この別荘に帰ってこないのだから好都合だ。

「寝ても覚めても、退屈な日々。白馬に乗った王子様?くだらない夢だなぁ」

 周囲の人間から見れば贅沢過ぎる悩みだろう。いっそのこと自分の生まれたままの身体をポルノサイトに投稿してやろうかと何回か考えたことはあるが流石にそんな勇気はない。

「誰も見てないし居ないよね?」

 ふと上空を見渡したが飛行機やドローンが飛んでいる気配はない。たぶん大丈夫だ。ビキニブラジャーのヒモとパンティの紐に手を掛けゆっくりと丁寧に外していくそして日本の桜のように右手で落としていく。何という背徳感だろうか。太陽が素っ裸の自分を毛布で包み込むように優しく照らしていく。

 しかし突然機械音らしき音が聞こえたので慌てて建物の中に入ったが気の姓だったようだ。ただしこれ以上は危険だと判断した私はプールの縁にかけていたビキニ一式をもって全裸のまま中に入った。さっきの行動のせいでアドレナリンが大量に放出している。ここまでくると空腹感はもう消えていた。そしてその恰好のままシャワーの水を浴びた。

 一糸まとわない自分の裸体を豪雨のような水流が上から下に流れ落ちる。別に汗臭いわけではないが体に着いた微量の塩素を丁寧に流し落とす。

「また、あの世界に行けるかなぁ?」

 そうそう最近不思議な夢ばかり見るんだ。異世界?ではあるが集中してみると。見覚えのある企業名や店の名前などがはっきりと映る。睡眠中に現実世界風景が移るのは私だけだろう。そしてさらに地球の意思らしき声も聞こえてくる。幻聴かと最近思ったがそれは違った。あらゆる植物の悲鳴や声が伝わってくる。その中に「ユグドラシル」の声も聞こえる。

 そして、両親が帰ってくる前に私自身の身体は謎の声共に肉体と同化し消滅した。

何というか今度は自身がある植物の一部になった。

「あれ、動けない...私自身がユグドラシルになっちゃった...」

 ただ、不便はないその気になれば今の人類の文明をいとも簡単に滅ぼすことが出来るのだから。

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