第28話ヨルゼの独り言



「優しいねぇ。たしかに、優しいな」


 がはは、とヨルゼは笑う。


 イムルが、ヨルゼに声をかけたのは彼が八歳ぐらいの時だ。


 そのときのイムルは、畑を作りたいと言い出した。幼い主が畑に興味がある事が、ヨルゼは不思議に思った。


 もしかしたら食べたいフルーツがあるのかもしれないと考えたヨルゼは、まずはイムルを果樹園に連れて行った。それだけではイムルは満足しなかったので、ついで農園などにも連れて行った。


 どこに連れて行ってもイムルは働く人々を敬い。そして、興味を持ったことを何でも質問した。その質問の鋭さは、幼い子供とは思えないほどのものだった。


 そのうちに、イムルはヨルゼに尋ねた。


 庭園の片隅を使って畑は作れるのか、と。


 庭園と畑の作り方はまるで違うが、出来ないことはないとヨルゼは答えた。ヨルゼは元々は農民であったので、ノウハウは持っている。


 肥料も道具も屋敷にあったので、新たに購入するような物も比較的少なかった。


 けれども、どうして畑などを作りたがるのかはヨルゼには分からなかった。


「イムル様は、我々には考えもつかない夢を持っている。この領内に学校を建て、自分が入学したいと言っているんだ」


 幼いイムルから聞いた夢は、この世界では難しいことだった。王都であっても学校は専門職を育てるための物であり、貴族や庶民の子供に平等に教育を施す場所ではない。それでも、イムルは学校を建てたいと願った。


「友人を作って、そろいの制服を着て、ガクエンサイやらウンドウカイとシュウガクリョコウという奴をやりたいらしい」


 ガクエンサイやウンドウカイがなんであるかは、ヨルゼには分からない。分からないが、イムルのとっては目を輝かせるほどの憧れらしい。そのために、領内を豊かにするのだと幼いイムルは言った。


 イムルは、子供ならば誰でも入学が出来る学校を作りたいというのだ。


 国でさえ無理なことなのに、それをイムルは領内で実行したいと願ったのである。この無謀な願いを笑う大人は、山のようにいるだろう。


 だが、ヨルゼは笑わない。


「イムル様が子供のうちに学校を作るのは、難しいかもしれない。けれども、やり遂げて欲しいものだな」


 主の夢は、果てしない。


 それでも、ヨルゼは出来る限り応援するつもりだった。


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