魔力ゼロの俺が物理型魔法使いとして無双する。〜杖で殴って何が悪い〜

水無月

第零話 「魔法使いなのに魔力ゼロってなんだよ……」

――――俺は今、魔王と対峙している。


「なぜだ、なぜ我が……こんな人をバカにしているかのような魔法使いに手こずっているのだ……」

「知らん。お前が弱いだけだ。あとバカになんてしていないしお前は人じゃない。これが俺の戦い方だ。文句なら俺に魔法使いなんて職業を与えたヤツに言え」


魔王は膝を着き息が荒い。一方俺は右手に杖を持ち、無傷。どちらが優勢かは一目瞭然いちもくりょうぜんというところだろう。後ろには勇者が倒れている。


「……す、すまない……誰だか分からないが助かった」


勇者は深手を負っている。どうやら動けそうにないようだ。他の勇者の仲間と思われる者も皆倒れている。


「……俺が魔王を倒しても文句言うなよ」

「文句なんて……言うものか………魔王は倒さねば………ならない」



―俺がなぜこのような結末になったのかというと……。



***




俺の名前はひいらぎ 奏多かなた。高校三年生の春、卒業式の帰り道に道路で車に轢かれ死んだ。即死だったから痛みは無かった。目が覚めたらこの世界に居た。石造りのいかにもファンタジーチックな街。そんな世界に俺は黒いローブと杖を持って立っていた。ゲームや漫画が好きだった俺は、一瞬でこの状況を理解した。


「……なるほど、これは所謂いわゆる異世界転生だな……しかも俺の職業は魔法使い、か」


魔法使いと言えばやっぱり攻撃魔法や飛行魔法だな。誰もが憧れる空を飛んだり、炎を出したり……最高の職業じゃないか。誰が与えた職業なのか知らないが礼を言う。


「ありがとう、神様。……神様いるのか?」


俺はまず自分のステータスを確認することに。


「開け……オープン……ステータスオープン…………出てこい」


ステータス画面が出てこない。こういうのは普通出てくるキマリだろ?……まぁ出てこないものは仕方ない。諦めるのも大事だな。


俺は街を見て回ることにした。すると見たことの無い文字が街の至る所にあった。


「見たことない文字ばっかだな……でも不思議だ。読めるぞ」


一度も見た事がないのに読める。これは異世界転生のギフトか?

翻訳が必要ないのはありがたい。俺は気になる店を見つけた。


「魔力測定…店?……これだ!」


俺は早速店に入ることにした。


「いらっしゃい」

「どうも。あのー魔力を測定したいんですが」

「あー、魔法使いの方ね。はいはいじゃあそこの水晶に手を置いてください」


このような事は何回もしているかのような手馴れた手さばきだ。

老婆の案内に従い俺は推奨の上に手を置く。


「………フムフム、あんた冒険者かい?」

「…え、えぇまあ」


まだ冒険者登録とかしてないけど、どうせこの後するしいいか。

俺は老婆に冒険者と答えた。


「あら…残念だねオニイサン。あんた魔力0だよ」

「………………え?今なんて?」

「いやだから魔力0なの。うちも長いことやってきたけどね、魔力0の魔法使いさんなんて見たことがないの」


おいおい嘘だろ?壊れてんじゃねーのかその水晶。魔法使いが魔力0とかそんな訳ないだろ。これ以上話していてもしょうがない。俺は渋々しぶしぶ店を出る。


「……いや、そんなはずはない。魔法使いだぞ?魔力0ってなんだよ。魔法使えないってことか?聞いたことないぞ……よし次だ」


運がいいのか悪いのか、この街を見て回ると至る所に魔力測定店がある。なぜこんなにあるのかは分からないけど、恐らく俺のような間違った結果が出る時があるからだろうな。


「……0だネ」

「うむ、0じゃ」

「ゼェェェェェェロオォォォォォォォッ!」



――――――――――――――。


え?そんな嘘だろ……ほんとにゼロなのか?じゃあどうやって戦えって言うんだよ。魔法使いだぞ?あと最後の店だけやけに腹が立つ言い方で思わず殴りそうになった。


「……仕方ない。武器屋に寄って、剣士にでもなるか」


魔法使いから剣士か。まぁ魔法が撃てないのは残念だが、剣士でやって行くしかない。そう思って街を散策していると、武器屋を見つけた。


「いらっしゃい!なんでも揃ってるよ☆」

「……あ、うん」


何だこの獣人ギャルは。ほんとにこの店の店員かよ。まぁいい、とりあえず武器だ。


「あのー武器欲しいんだけど」

「はいだよー!何が欲しいの?ショートソード?杖?盾?なんでもあるよ☆」


杖もあるのかこの店。確かになんでもをうたっているだけの事はあるな。まぁ杖なんてもう要らないんだが。


「ショートソードで」

「ショートソードだね!だったらこれがオススメだよ☆」


獣人ギャルが薦めてきた銀色のショートソード。至って普通だ。


「見たところ、見習い魔法使いっぽいし、剣士になりたいならまず最初はこんな所だね☆」

「なるほど……まあこれくらいでいいか。あんまり高いのは買えな―」


俺がショートソードを手に取ろうとした瞬間―


――――――――バチッ


「―イテッ!?」


なんだ!?今雷が出たぞ。おいおいまさか……


「あ〜ね。やっぱり出ちゃったかぁ。時々居るんだよね。クラス替え出来ない人がさ☆」

「え……ってことは俺魔法使いのままってこと?」

「そうだね☆」


嘘だろ……魔法使いなのに魔法使えないとかシャレにならんぞまじで。俺はその後色んな武器を試して見た。……全て惨敗に終わった。魔法使いのまま進めってことか。難易度高すぎるだろ……せめて一個でいいから魔法使わせてくれよ……。


「また来てくださいね〜☆」


多分もう来ないだろうな……。


「うーんとりあえず冒険者登録でも済ますか」


俺は冒険者ギルドへと向かった。

冒険者ギルドの受付のお姉さんに言われる通りに登録を済ませる。名前を記入する欄がある。俺は日本語以外知らないので日本語で書いた。すると、瞬く間にこの世界の文字に変わった。


「すげぇ……」

「ご記入頂きありがとうございました。こちらがあなたの冒険者カードになります」


……これが俺の冒険者カードか。どれどれ……


◇◇◇


ひいらぎ 奏多かなた

Lv.1


HP【500/500】 MP【0/0】


STR【50】 ATK【50】


VIT【50】 DEF【50】


INT【50】 RES【50】


DEX【50】 AGI【50】


LUK【0】



◇◇◇



やはり魔力はゼロなのか…INT知力あっても魔法使えないんじゃ意味がないな。あとはSTR物理攻撃ATK攻撃力か。魔法使いなのにMAT魔法攻撃のステータスがないのはやはり俺が魔法を使えないからなのか……?


俺はとりあえずクエストに出ることにした。

やってみないと分からんものだしな。


***



「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


――――――――――ドスッ


【レベルが5に上がりました】


「……ふぅ。ここら辺の魔物は全員倒したか。にしても案外杖振り回すのもいいもんだな。杖折れちまったけど……仕方ない今日はこの辺にして、またギャルの店で買い直すかぁ」


俺は倒したモンスターの戦利品を集め冒険者ギルドで換金する。


「ありがとうございました〜」

「……たったの1000ルピかよ。宿が一泊500ルピで杖が500ルピだから………おいおいプラマイゼロじゃねーかよ」


レベルが上がるだけで杖はその都度つど買い直しか。

これは道のりが長そうだ。俺はその日から何度も杖を振るい、モンスター達を狩り続けた。杖を折り、買う、寝る。この繰り返しだ。



【レベルが10に上がりました】


【アビリティ:『不器用な魔法使い』を獲得しました】


レベルが10に上がった事でどうやらなにか獲得したらしい。

『不器用な魔法使い』……だと?なめてんのか!!

杖振り回すしか戦う手段ねぇから仕方なくこうやって戦ってんだろうが!それを不器用だと?許せねぇ……。


【『不器用な魔法使い:与える物理ダメージが2倍になる』】


なんだよこのアビリティ。まるで杖で戦う前提のもんじゃねぇか。……だが、いいなこれは。これでモンスター達が狩りやすくなる。今まではスライムやら犬型の魔獣やらを相手にしていたが、次はゴブリンにでも行ってみるか。


おっとその前にレベルアップで得たステータスポイントを割り振らなければ。俺はポケットから冒険者カードを取り出し割り振っていく。


「もちろんSTR一択なんだが……」


俺は全てのステータスポイントをSTR物理攻撃に割り振った。


「じゃあ次はゴブリン狩りだな。……っとその前に杖買い直しにいこ」




◇◇◇



ひいらぎ 奏多かなた

Lv.10


HP【1500/1500】 MP【0/0】


STR【200】 ATK【50】


VIT【50】 DEF【50】


INT【50】 RES【50】


DEX【50】 AGI【50】


LUK【0】


アビリティ:【不器用な魔法使い】

スキル:【無し】


◇◇◇


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